20140302
▲深センのIBM工場で2014年3月3日からストが続いている。
 労働者らは企業買収による待遇引下げへの抗議や契約解除補償を求めている。



3月5日に開幕した全人代は、李克強総理の政府活動報告を受け、各省および解放軍から選出された約2200名の代表が政府活動報告や国務院予算案の審議をおこなっている。

李総理の報告は、2013年活動報告、2014年の活動計画と重点を提起したものだが、ここでは労働者により直接関連する雇用問題についてみてみる。

政府活動報告で注目されたのは2014年のGDP目標といわれている。2013年は目標7.5%で実績は7.7%であった。2008年のグローバル経済危機の対応として実施した4兆元もの財政金融対策は、不動産バブルや無政府的建設ラッシュ、影の銀行騒動を引き起こし、いまだその余震(実際にはより巨大な本震の前震だが)は収まっていない。

李総理が主導する経済政策「リコノミクス」は、「小さな政府」「構造改革」「規制緩和」など新自由主義的色眼鏡をかけたブルジョアマスコミから過大な期待を寄せられてきた。しかし現指導部の経済政策の基本はそのようなところにあるのではない。グローバル資本主義における大国として党結成100年目にあたる2021年、そして建国100年にあたる2049年を「二つの100年」として盛大に迎えるために、党の支配のいっそうの近代化を目指している。そのための「改革の更なる深化」であり「リコノミクス」なのである。

習・李指導部はこの1年は「穏中求進」(安定の中で前進する)という総路線を位置づけ、李総理は、政府報告において「穏中向好」(安定の中でよい方向に向かった)と総括している。

李総理は昨年10月に開かれた中華全国総工会の16回全国代表大会で経済情勢に関する講演し、そのなかでGDPについてこう述べていた。

「GDP1%で130万から150万人の雇用を確保できる。新規雇用1000万人、都市部失業率4%程度を維持するには7.2%の経済成長率が必要である。我々が適度な成長を目指すのは、結局のところ雇用を守るためである。」

3月5日の政府活動報告によると、2013年の失業率は4.1%、新規雇用は1310万人を達成した。そして2014年の目標は新規雇用1000万人以上、都市失業率を4.6%とした。

全人代の第一副委員長(日本の国会の副議長にあたる)であり中華全国総工会の主席(会長)でもある李建国氏は、昨年の総工会16回全国代表大会の報告の中で「過去五年において調和ある労使関係の構築に努力し、労働関係は全体として安定していた」と総括している。

昨年のメーデーを前に全国の労働模範を集めた会議で習近平国家主席は、大慶油田の労働模範「鉄人」王進喜など歴代の労働模範を列挙し、「労働者階級はわが国の指導的階級であり、わが国の先進的生産力と先進的生産関係の代表であり、わが党のもっとも堅実で頼りになる階級的基礎であり、小康社会の全面的建設、中国の特色ある社会主義の堅持と発展の主力軍である」と持ち上げている。

だが現実はそのようなものではないことは、経済成長の裏で頻発するストライキによって「世界のスト大国」といわれていることからも明らかだ。

昨年の総工会16回代表大会で「労働関係は全体として安定していた」」と語った李建国総工会主席の報告は続けて以下のように述べて、少なくない労働者が生活に困窮していることをにじませている。

「過去五年のあいだに、延べにして4189.8万家庭の困難職員、困難労働模範の慰問を行い、困難職員と農民工3810.3万人を支援した。」

「社会主義の堅持と発展の主力軍である」はずの労働者階級が「困難」とは??


全人代開催の前日の3月4日、総工会の機関紙「工人日報」は、総工会出身の全人代代表らの活躍ぶりを報じる報道のなかで、つぎのように報じている。

「1980年代、インフレは労働者の生活に大きな影響を与えたが、工会[=労組]が最初に賃金と物価指数をリンクさせるように提起した。国有企業の制度改革において各級の工会はレイオフされた職員のために再就職や生活支援などの緊急支援をおこなった。」

1980年代のインフレでぼろもうけした官僚ブローカーに対する反発は、その後の民主化運動につながった。民主化運動の後期には総工会のなかからも民主化を求める声が発せられた。

国有企業の制度改革=民営化の過程で国有資産をただ同然で私有化した党官僚の腐敗を告発した労働者たちの抵抗は90年代末から2000年代初期にかけて全国に広がった。

しかし民主化運動は天安門で弾圧され、反民営化闘争は全国の工場や街頭で弾圧された。そのとき総工会は、労働者を支援するために何一つ動くことはなかった。国有企業のレイオフ・リストラは、2億6000万の農民工に対する過酷な搾取とあわせて、中国労働者階級の労働条件を大きく引き下げ、グローバル資本主義に利潤を保証した。

「更なる改革の深化」は累々たる労働者の階級的屍のうえに進められるといっても過言ではない。


新規雇用1000万人の掛け声は、中国で蔓延する派遣労働の前にかすんで見える。前述の「工人日報」は次のように報道している。

「2010年の全人代・政治協商会議では、労働界出身の委員が共同でこう訴えた。『2000万人の派遣労働者は早急に身分制度[雇用形態]の迷路から抜けだす必要がある』。しかし2012年にはこの数は3700万人に急増した。」

2008年の労働契約法施行以降、それまでも無規制に行われていた派遣労働が拡大した。2012年の同法改正で派遣労働は「臨時性、補助性、代替性」に限るとされたが歯止めにはならなかった。

2014年3月の労働契約法暫定規定の実施で派遣先の派遣労働者比率は10%という明確な規制数値が示され、偽装請負などへの罰則規定も盛り込まれたが、派遣比率については2年以内に実現すればよい、偽装請負など違法行為については賠償支払いすればよいというもので、派遣労働者が身分制度という迷路から抜け出すためのツールになるかどうかはきわめて疑わしい。

「スト大国」の中心の広東省の省都、広州では昨年8月、広州中医薬大学第一付属病院ではたらく職員ら100余名が違法派遣問題の解決を病院当局に申し入れてストライキを打った際、ストに参加していた警備員12人が病院のテラスから横断幕を掲げたことで「社会秩序騒乱罪」で逮捕され、現在にいたるも拘留が続いている。

同じく広東省の経済特区である深センでは昨年5月、工場移転に伴う正当な補償を要求した労働者がストを打ったが経営者が逃亡してしまい、政府に解決を訴えに向かった労働者たちが警察に拘束され、労働者の指導者と見られた呉貴軍がいまだに拘束されたままになっている。彼は「交通秩序集団騒乱罪」の容疑で起訴され、全人代開催日の3月5日に予定されていた第二回目の公判が理由もなく延期されている。

社会秩序を騒乱させているのは労働者でなく、社会の支配者の側である。


2014年3月7日 (H)