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 1都3県に出されていた緊急事態宣言が2週間延長された。1月7日に発令されて以
降、2度目の延長である。1月7日の発令に際して私たちは、「緊急事態宣言の実態は「夜の宴会禁止令」でしかない。秋以降、過半数が感染経路不明になっている。またクラスターが発生しているのは病院、介護施設、家庭内である。すでに新型コロナウイルスの感染は市中に広がってしまっており、飲食店だけを、しかも夜間だけ営業制限してしても効果は極めて限定される。」と指摘し、「今回の緊急事態宣言は労働者の暮らしを破壊する副作用ばかりが大きく、感染を抑え込む効果が出ない可能性が大きい。」と厳しく批判した。

 その後の事態はまさに指摘通りの展開となった。抜本
的な対策の変更がないままの2週間の延長は、まさに「労働者の暮らしを破壊する副作用ばかりが大きく、感染を抑え込む効果が出ない可能性が大きい」。今回の再延長に際して国は具体的な解除の要件を明らかにすることをしなかった。これは今後も感染が蔓延し続けることを前提にして、感染状況が改善していなくてもオリンピック等の日程に合わせて宣言を解除できる布石を打っているとしか考えられない。

具体性を欠く7項目の提言

 政府諮問委員会の尾身会長は7項目の対策を提言した。7項目の柱は検査・医療体制の強化とされている。しかしその7項目の対策は具体策にかける。「感染リスクの高い集団・場所への検査」、「高齢者施設の感染対策」を掲げ、「変異ウイルス用の検査体制強化」、「保健所の調査の強化」をあげている。政府は今月中に全国3万か所の高齢者施設で検査を実施するとしている。感染リスクの高い集団への検査は定期的に繰り返し行っていかなければならない。また無症状者も含めて1都3県で1日1万件の検査を実施するとしている。しかしその具体的体制は全く明らかになっていないし、1都3県で1万件は少なすぎる。

 1都3県で宣言が延長された理由の一つが医療供給体制のひっ迫である。そのため「再拡大に備えた医療提供体制の強化」が掲げられている。しかし実際の政府の姿勢は真逆である。疲弊した医療機関の減収を補填すべきだという国会での共産党の田村議員の質問に対して田村厚労大臣は「減収補てんをどういう意味で言われているのかわからない」と答弁している。2週間で医療提供体制の強化などは行えないことは明らかだが、田村厚労大臣の答弁に明らかなように政府は医療供給体制の強化に取り組むつもりは全くない。

 医療供給体制を強化するためには、短期的には離職を防ぐための労働条件の改善、長期的には医療従事者の養成数の増員を行う必要がある。しかし、この間政府が進めているのは、労働者派遣法施行令の改悪による看護師の日雇い派遣の解禁であり、医学部の定員削減による医師数削減である。そもそも日本が欧米諸国よりはるかに少ない感染者数で医療崩壊に至ったのは医師・看護師数が足りずICUのベッド数が不足していたからである。人口8,000万人のドイツには8,000人の集中治療医がいるが、日本は1,800人でしかない。感染症専門医も日本には3,000~4,000人が必要と学会が試算しているが、現実には1,560人でしかない。さらに高齢者施設と医療の療養環境問題がある。日本は多床室中心だが、少ない人数のワーカーが多床室で多くの利用者を担当する体制が、高齢者・医療施設でのクラスターの原因になってきた。多床室から原則個室への切り替えを行うべきである。

今すぐの検査体制の充実・医療労働者の待遇改善を

 このように政府の示した7項目は「やってる感の演出」でしかない。しかし一方で緊急事態宣言の副作用は確実に広がっている。減収になった労働者を直接支援する制度がないためシフトワーカーを中心に多くの労働者がなんら支援を受けられないでいる。減収になった労働者を直接支援する制度の整備が早急に必要である。生活困窮に陥った労働者が生活を再建するために利用できる制度は少ない。権利としての生活保護を定着させる必要がある。感染を抑え込む具体策と補償を欠く緊急事態宣言の再延長はさらに生活に困窮する労働者を増加させるだけである。政府に抜本的な感染対策の変更と生活支援を求めていかなければならない。

 また今月下旬からオリンピックの聖火リレーが開始される。リレーの開催と感染の抑制は両立しないことは明らかで、批判を恐れた芸能人の辞退が相次いでいる。もはやオリンピックの開催は不可能である。感染を拡大させ税金を浪費するだけのオリンピックは即刻中止するべきである。

 検査体制が拡充されれば、感染抑制と社会生活の両立は可能である。多くのキャンパスが閉鎖され学生が学ぶ権利を奪われているが、全学生・職員に定期的にPCR検査を行えば感染抑制を確保しながら授業を行うことが可能であることがわかっている。尾身会長が認めたようにワクチン頼みでは年内に感染症を抑え込むことは不可能である。

 病院・福祉施設の労働者、社会インフラを支える労働者などを中心に定期的な
PCR検査を国負担で実施すること。医療従事者の労働条件を改善し退職に歯止めをかけること、減収になった医療機関の赤字を補てんすること、コロナ患者を受け入れてきた公立病院の削減を中止すること。保健所、地方衛生研究所の人員体制を強化することが必要である。検査・医療体制の抜本的充実を春闘の、そしてメーデーの共通したスローガンにしよう。(矢野薫)