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アジア連帯講座のBLOG

旺角

【香港】オキュパイ・セントラル 雨傘運動FAQ


「台頭する中国における香港民主化運動」と題して
旺角の流動民主教室で話す林致良さん(2014年11月14日)


雨傘運動FAQ
林致良

「Socialist Review」2014年11月号に掲載されたものを増補。
英語版はhttp://socialistreview.org.uk/396/weve-already-won-results参照。

Q 雨傘運動の規模は今でも持続していますか?

A 今日(10月28日)は雨傘運動が勃発してからちょうど一か月です。オキュパイ金鐘、旺角、銅鑼湾の三つのストリートでは行動が継続しています。しかし9月末のピーク時の20万人(香港の人口は723万人です)から比べると大きく減少しています。しかし警察が排除を試みようとしたり、裏社会や親中派による妨害があれば、新たなオキュパイ参加者が増加する、という現象があります。とはいえ、参加者全体は減少傾向にあります。

10月21日、香港政府は、今回の運動の中心的団体の一つである学生連合会の代表の会談をおこないました(他の中心的団体には「オキュパイ・セントラル・ラブ&ピース」の三人の発起人、高校生組織「学民思潮」があります)。しかし政府は譲歩しませんでした。その頑なな態度の背後には北京政府の意向があります。伝えられるところによると、習近平中国国家主席は今回の運動に対して「流血は避けるが譲歩もしない」という態度で臨むといわれています。

民衆は最大限の勇気と知性を示してオキュパイを堅持しています。民衆は政府がそう簡単には真の普通選挙の実施要求に対して譲歩しないことを理解しています。しかし一方で自らオキュパイを終わらせてしまったらこの一か月の努力が無駄になるとも思っています。運動の指導者も参加者も、やや迷いがみられます。それは理解できることです。今回の運動は完全に自発的でかつ効果的な組織的指導を欠いた大衆運動だからです。


Q 大衆運動の要求はなんでしょうか?

A 運動全体の一致した要求は、次期の特区行政長官を自由選挙で選出することです。上流階級らによって組織された候補者指名委員会が候補者をふるいにかけるような中国共産党式の偽りの普通選挙に反対し、真の普通選挙を要求しています。
しかし、運動体には異なる傾向がみられます。

オキュパイ・セントラルの3人の呼びかけ人は市民的不服従を提唱しています。ストリートの封鎖を手段にして政府に譲歩を迫り、真の普通選挙を実現しようというものです。彼らは、普通選挙こそが香港における真の自治を実現するものであり、政治とビジネスの癒着の解決をもたらす方法だと考えています。その思想はリベラリズムを超えるものではありません。

一方、近年台頭してきた「現地主義」を標榜する右翼現地派は、香港と中国の関係を疎遠なものにすべきであると主張しています。しかも「反共」を強調しています。これは香港中心主義の傾向であり、中国政府の支配に対して嫌悪と恐怖を感じる香港人が現状を変革する健全な考えを見いだせないことの反映でもあります。

一部の社会運動団体と左派団体(たとえば左翼21など)の主張は、政治的民主主義と同時に社会経済の改革を要求しています。また下層人民が政治決定のプロセスに参画することを阻害する権力者による独裁的政治体制を告発しています。「貧困層に偏った政策を回避する」、これはまさに現在の梁振英行政長官がニューヨークタイムズ紙のインタビューで語ったことです。この運動は民主化闘争であると同時に、下層人民が民主的自由と生活保障をかちとることができるのか、という階級闘争でもあるのです。

私たちは「真の普通選挙」の実現はスタートにすぎないと考えています。政治と社会経済における真の民主主義、つまり民主的社会主義こそが根本的目標です。


Q 金鐘(アドミラルティ)と旺角(モンコック)は主要なオキュパイ地区ですが、その違いは?

A 金鐘はビジネス街であると同時に政府所在地です。ここでオキュパイに参加しているのは学生や青年労働者が中心です。ビジネス街で働く一部のホワイトカラーからの支持もあります。居住区ではないので住民との軋轢はあまりありません。

旺角は全く異なります。住民がいますし、複雑な社会関係があります。裏社会の構成員もいます。ここでオキュパイに参加しているのは庶民階層が多いと言えます。以前、警察が排除を試みた際、裏社会や親中派の人間による挑発を容認しました。

またオキュパイに参加する右翼は故意に警察との衝突を挑発し、警察の暴力を誘発しました。オキュパイ参加者は旺角を奪還しましたが、つぎに何をなすべきかについては、さまざまな意見があります。


Q 大学生と高校生の参加は?

A 今回の運動の最大の特徴のひとつは多数の青年学生が参加しているということです。千名以上の中学生が金鐘のオキュパイに参加し、中学生だけの組織を結成しました。高校生も学校で集会を開いたり、フェイスブックでオキュパイ運動を支援してくれています。大学では学生や教員がオキュパイが始まった冒頭の一、二週間のあいだ授業ボイコットを組織しました。オキュパイの現場で講義を行う大学教員などもいました。

これほど広範な青年と学生が参加し、これほど影響力のある街頭行動を伴った大衆運動は、過去数十年の香港の歴史でもありませんでした。それに比較できるのは1967年の香港暴動くらいでしょう。

結果がどうなろうとも、この大衆運動は香港、そして中国大陸にも深遠な影響をもたらすでしょう。


Q 労働者の参加はどうでしょうか?

A あります。9月28日にオキュパイが宣言されましたが、警察による87発の催涙弾に対する抗議として、主流民主派陣営の教員組合、運輸組合、ソーシャルワーカー組合などがストライキを呼びかけました。ソーシャルワーカー組合のストライキは比較的成功したと言えるでしょう。香港全土には1万9000名のソーシャルワーカーがいますが、そのうち2000名のソーシャルワーカーが警察による暴力的弾圧の翌日のストライキ集会に参加しました。

しかし民主派に近い労組と中学教員組合のストライキは大きな影響力を持つことはできませんでした。今回の運動がまだ組織された労働者階級の広範な支持を得ることができていないと言えます。


Q 親中派の労働組合は運動を支持しているのでしょうか?

A 親中派の労働組合は香港工会聯合会(工聯会)です。この組織は輝かしい労働運動の歴史を持っていました。1925年6月から翌26年10月までの16か月にわたる省港大ストライキは、当時の中国共産党に指導された組合によってたたかわれました。ストライキでは英植民地政府に対して六つの要求が掲げられましたが、そのうちの一つはまさに普通選挙の実施でした。時代が下った1980年代、香港で議会制民主主義が実施されようとするなか、この組合は労働者に向かって「選挙権ではなく食券を!」という恥ずべきスローガンを打ち出しました。反オキュパイの団体の代表の一人は工聯会の指導者です。


Q 昨年の香港港湾労働者のストライキに参加した労働者たちは今回の運動を支持していますか?

A 港湾労働者らもオキュパイ支持に駆け付けました。ですが人数は多くなく、ストライキも打ちはしませんでした。とはいえ支持に駆け付けたことは貴重なことです。


Q この運動は中国国内の民主化の問題と関係しているのでしょうか? 中国国内では雨傘運動を支持する人々が100人以上も拘束されていますが、香港の人々はこの問題についてどのような反応を示していますか?

A 中国国内では公然と香港の運動を支援したことを理由に100名以上の市民が当局に拘束されました。しかし、運動の中心的組織者は拘束された中国の人々を積極的には支援しませんでした。中国政府代表部に抗議したのは社会民主連線(中道左派政党)だけです。

香港人民と中国人民との連携こそが官僚独裁の資本主義への抵抗の道であることを、新しい世代の活動家らはあまり理解していないことが不安の種であることは確かです。なかには、中国と距離を保つことこそが香港の自由を守る方法だと考える人もいます。

われわれ社会主義左派は、香港と中国の労働者民衆が一致団結して専制支配と資本の支配を打ち負かすことによってのみ、民主主義と社会的正義を実現することができる、と主張し続ける必要があります。


Q 運動部内部に論争について紹介してください。

A 最大の争点は、次の一歩をどうするかです。学生連合会のリーダーはストリート占拠を堅持すると主張していますが、右翼香港主義者らは学生連合会は計画的に撤退しようとしていると攻撃しています。

一部の参加者は自主的にストリートから撤退し、大衆運動の連合組織を結成して定期的な集会やデモなどを呼びかけるという別な方法で、力を保持して運動を継続することを主張しています。誕生したばかりの新しい運動が弾圧でつぶされないようにするためです。私はこの方針に賛成しており、人々に辛抱強くこの方針を説いています。

オキュパイ参加者の多くが、政府がまったく譲歩していないなかで、自主的にストリートから撤退すれば、この一か月間のオキュパイが無駄になるではないか、と考えています。

しかし今回の民主化運動の成果を、政府の譲歩だけで考えるのは一面的です。実際には、すでに一定の成果を勝ち取っています。たとえば人々の民主的政治意識の長期的な影響力については以下のような成果がかちとられています。

1、2017年普通選挙という嘘と、基本法と全人代常務委員会の決定が香港大資本の特権政治を守ることを認識することができた。
2、多くの市民、とくに青年学生が初めて街頭直接行動に参加したという経験
3、抵抗の現場で「民衆の団結」の意義という、大衆運動の実力を実感した。
4、最大の敵は親中派や梁振英ではなく、中国当局であることが分かった。
5、警察と暴徒による暴力によって、人民を弾圧する国家の暴力装置の本性を目撃した。
6、各政治勢力の真の姿がはっきりと示された。

ストリート占拠を堅持する民衆の不屈の精神は尊敬に値します。しかし、力関係では依然として民衆の側が不利です。一度のオキュパイ行動で成功を勝ち取ることは難しいことを、冷静に判断すべきではないでしょうか。

【香港】旺角(モンコック)街頭での政治談議

旺角(モンコック)街頭での政治談議

白瑞雪

2014年10月9日


原文

10月5日の日曜日の夜には、多くの人々が、警察はオキュパイ運動への弾圧に乗り出すのではないか、と不安になっていた。翌日からは公務員は通常出勤になるがオキュパイ運動はそれを妨害してはならない、と警察が警告していたからだ。その後、今週に入ってからも、参加者は減少したとはいえ、抗議行動は続いている。先週の連休(10月1日の国慶節をはさみ前後が連休になった:訳注)とは違い、今週は平日が続く。にもかかわらず、参加者の決意は固い。学生連合会は今週末の金曜日に香港政府と対話を行うと発表したが、政府の側は、対話に臨む立場は香港基本法と全人代決議を基本とすることを明らかにしている。愛国勢力(親中派)と裏社会はオキュパイ運動への攻撃を継続しているが、その規模は先週の金曜日にくらべて大きく減少している。

旺角の街頭ではあちらこちらで自発的な議論の輪ができている。昨晩、私もある議論のグループに参加した。参加者の多くは、現在の情勢からどのように目標を達成することができるのかに関心があった。特筆すべきは、議論の輪を囲んで討論に参加していた市民は、学生ではなく、いろいろな世代にまたがる一般の労働者であったということだ。もちろん社会運動の活動家も参加はしていた。このような街頭政治談議はそもそも活動家たちが呼びかけたものである。従来、中下層の労働者たちは政治に対して関心を明らかにすることはなかったが、近年は変化が見られ始めている。それは若い世代から始まっている。議論の輪は、始まりのときは少人数なのだが、すぐに周囲の人々を巻き込んで大きな輪になる。道行く人々も立ち止まって発言を求める。

私が議論の輪に加わったときは、旺角と銅鑼湾のオキュパイ陣地を維持すべきかどうかについて話し合われていた。ある人は、オキュパイ銅鑼湾の参加人数の減少は顕著だが、旺角では陣地を防衛しようとする熱意ある人々がまだたくさんいると発言。またあるひとは、オキュパイ旺角の運動は川の流れのようで、参加者が(オキュパイ運動の中心である)金鐘地区へ流れても、また新しい人たちが旺角にやってくるのでオキュパイが継続できていると発言。別な人は、長期間のオキュパイで旺角の個人経営の商店の売り上げに影響が出ているのではないか、と問題提起。このとき、通りすがりの人が立ち止まって批判を始めた。抗議行動によって交通が寸断され不便をもたらしていると言う。

この運動が一ヶ月あるいは二ヶ月も持ちこたえることができるのか、という問いを発した参加者の発言をきっかけに、参加者の議論は、この運動がどのくらい持ちこたえることができるのか、撤退はいつか、などに集中した。どのような条件ならばオキュパイを終了することになるのかについての議論は白熱した。ある市民は、目標と原則は簡単に変更してはならないが、戦術的には柔軟であってもいいのではないか、と発言。彼の意見では、みんなの目標は真の普通選挙の実現だが、それだけでなく政治経済制度の変革も追及すべきであり、梁振英が辞任して別な行政長官が就任すればいいというものではない。

また別な参加者は、今回の運動で香港無料テレビの許認可問題[香港政府が新規参入を認めず2013年に10万人規模の抗議行動に発展した:訳注]を思い起こしたという。数万人の人々がこの問題で街頭デモに参加したが、その後は闘争が継続しなかったという。彼は、もし運動が目的を達成せずに撤退してしまったら、市民の声を圧殺する政府のやり方を逆に応援することにつながってしまうと言う。その意見に賛成する参加者からは、真の普通選挙を実現するまで街頭にとどまり続けるべきだと発言。反対する意見も出た。運動は戦争と同じであり、段階的な勝利を目指すべきだという。現在の運動は拡大しているのか、それとも縮小しているのか、どの街頭をオキュパイするのかという戦術が運動自体の終了を意味するものでない、という視点を提供した発言者もいた。

立場の異なる意見が交わされはしたが、今後どのような状況になったとしても原則を放棄することはないし、市民が立候補できる真の普通選挙の実現そこが大切な目標である、というコンセンサスは確認できたのではないかと思う。

討論では次のような質問も出された。学生連合会や学民思潮はどの程度オキュパイ参加者全体を代表しているのか、と。参加者の一人はつぎのように発言した。両団体は学生の代表組織であり、われわれを代表するものではないが、それでもわれわれは両団体を支持すべきだ、なぜなら学生団体はわれわれと政府とのあいだの媒介だからだ。学生連合会は政府との対話のあとは、われわれの前に登場して状況を説明することが大切だ。別な参加者は次のように述べた。学生連合会は運動参加者に対して何をすべきかを提示する権力はない。また他の参加者は、もし政府との対話で成果がなければ、学生団体はオキュパイ参加者からの信頼を失うだろうと発言。討論の参加者たちは、学生団体が運動全体からの代表権を獲得すべきかどうかについても議論が行われた。どのような方法でそれが可能かについては誰も明確な答えがないにもかかわらず。

政府との対話の問題では意見が噴出した。発言者の一人は、対話は象徴的なものでしかなく、なんら成果がないということが最大の成果になるだろうと発言。政府の権謀術数を警戒する発言もあった。別な発言者は、政府が譲歩するよりも、学生側が譲歩することになるのではないかという悲観的観測を述べた。運動は始まったばかりであり、今の段階で対話による実質的な成果がなくてもそれほど気にはならないという発言もあった。

主流民主派に対する批判も討論の話題になった。ある女性は、立法会の議員の多くは、主流民主派をふくめて、民意を反映していないと発言。デモ隊に対する催涙弾による弾圧の際も、主流民主派はただ傍観するだけで何もしなかった。「こんな人たちにこれからも投票しないといけないの?」と問うた。別な人は、主流民主派はこれまでも庶民の意見を聞いてこなかったと発言。また別な参加者は、運動の敗北は重要なことでない、なぜなら種がまかれたからだ、というある主流民主派の発言を批判した。中国では89年の民主化運動が弾圧されてから25年が経つが、出てきた芽はまったく別物ではないか、今回の運動でも多くの人々が犠牲を払って今があるにもかかわらず、主流民主派はわれわれに対して「もう家に帰りなさい」などという権利がどこにある、と批判を続けた。

オキュパイ運動への敵対者からの発言もあった。香港人はコメから飲料水から、一切を中国大陸に依存しているんだから、中国政府に反対するのはおかしいと発言。さらにオキュパイ運動が社会に亀裂をもたらしたとも批判した。それに対して、経験ある社会運動の活動家が反論した。香港人が食べているコメは共産党が作ったものではなく農民たちが生産したものであり、工業製品は労働者たちが生産したものだ。水は自然の賜物だが、共産党政権によってひどく汚染されているではないか。

この活動家はさらにこう付け加えた。社会の亀裂については無理やり作り出された亀裂とそうではない亀裂を分けて考える必要がある。大陸から香港に移住してきた新移民と香港人との間の亀裂(新移民に対する差別)は人工的に作り出されたものであり、それは撤廃すべきである。だが権力エリートと庶民の間にある亀裂は客観的に存在するものであり、多くの庶民がますますそのような亀裂を認識することは、決して悪いことではない。貧富の格差に代表されるそのような亀裂を認識することで、人々が問題の根源と、その解決のために立ちあがる必要があることを理解するからだ。
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