(上) 「米帝必敗北!」ベトナム解放戦争を
支援する中国政府のポスター
(下) 「動物農場」のラストシーン
まるで「動物農場」のラストシーン
豚と人の見わけがつかない
區龍宇
ジョージ・オーウェルの「動物農場」をご存じの方も多いだろう。この物語は、動物農場の独裁者「ナポレオン」ら支配階層の豚たちが、かつての敵であった人間たちと祝杯を挙げているシーンで終わる。豚以外の動物たちは、かつての敵(人間)と現在の抑圧者(豚)の交歓を窓の外からぽかんと眺めるだけであった。どっちが豚でどっちが人間かの見わけがつかないくらい、交歓する両者の姿は似通っていた。
今日の中国でも、「動物農場」と同じような物語が演じられている。現在の政権党は、かつて国民党から「ソ連と繋がり、ルーブル[ソ連の通貨]を受け取っている」国賊だと誹謗中傷された。政権にある今、かつての国民党と同じようなことを言っているが、さらにひどい。というのも、かつて国民党から非難を受けた1920年代から30年代の武力革命の時代には、ソ連邦からの物質的支援は厳然たる事実であったが、現在オキュパイ運動に投げかけられている誹謗中傷--アメリカが仕組み、アメリカの資金を受け取っている色の革命--は、まったくの捏造だからだ。中国の特色ある豚の独裁者は、なんとも「偉大・光栄・正確」である。[この「偉大・光栄・正確」は、常に自分が正しいという姿勢の現在の共産党を揶揄する隠語:訳注]
◆羅織虚構も甚だしい
この「偉大・光栄・正確」のロジックはこうである。オキュパイ・セントラルは、3人の知識人が発動したもので、これら3人の知識人は主流民主派に所属しており、これまで主流民主派は親米親英の立場をとっており、全米民主化基金会(National Endowment of Democracy, NED)の資金援助を受けたり、関連する活動に参加してきたことから、アメリカ政府の代理人である、というものだ。しかし誰もが知っていることだが、雨傘運動はそもそも主流民主派が領導したものではない。3人の知識人がオキュパイ運動を発動したというが、そもそも立場もはっきりせず動揺していたことから、なかなか実現しなかった。学生連合会がまず7月2日にオキュパイ予行演習を決行し、9月22日に授業ボイコットを発動し、9月末になって雨傘運動に拡大してはじめて、9月28日に戴耀庭(3人の知識人の一人)がオキュパイ・セントラルの開始を宣言したのである。つまり両学生組織[学生連合会と学民思潮]の力を借りてに過ぎない。それ以降、3人の知識人には運動を指導するようなカリスマもない。[民主党など議会内ブルジョア民主派の]主流民主派
にいたっては言うまでもないことである。
某党機関紙[文匯報(香港紙)]にいたっては、学民思潮の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)がNEDから資金園居を受けていたと報じたが、なんら証拠を示すことのできない報道であり、しかも本人はそれを否定している。この報道には、黄之鋒と陳方安生(アンソン・チャン※)と正体不明の白人と一緒に撮った一枚の写真がつけられていた。これが「外国とつながっている」という証拠というのであれば、冗談にもほどがあるだろう。こんな報道をするまえに、もうすこししっかりと資料に当たっていれば、こんな間違いは避けられたであろう。2004年9月5日の香港紙The Standardでは、NEDが別の援助組織であるNational Democratic Institute for International Affairs (NDI)を通じて、香港の複数の政党に技術支援および研修を行っていたと報じている。対象となった政党は、民主党、前線の主流民主派だけでなく、親中派の民建聯、自由党も含まれていた。同年9月7日の香港紙「信報」では、民建聯と自由党は資金援助は断ったが、シンポジウムへの参加は認めた
。民建聯の蔡素玉(※)などは「何度も参加した」と語っている。さてさて、これで民建聯も「アメリカの代理人」ということになるのだろうか?
◆アメリカの資金は中国の公的機関にも流れている
同年3月3日の香港紙「明報」では、米国会計検査院(General Accounting Office, GAO)が年初に下院に提出した報告によれば、過去五年間でアメリカ政府は3900万ドルを「中国の民主主義発展の基礎プロジェクトとして、中国の政府機関と司法部門が設立した機関に資金提供した。」このGAO報告はウェブでも公開されている。米国政府からの財政支援が、中国大陸や香港の民間団体に流れていることは確かだが、中国の政府部門や政府事業部門および大学などの機関にも直接/間接的に援助が行われてきたこともまた事実である。これらの報告では、中国最高人民法院[最高裁]、全人代[国会]および多くの付属機関に対して資金援助が行われ、中国刑事法の弁護手続きの改正を促してきた。
アメリカの資金援助は直接的な援助にとどまらない。国連人権委員会、ILO、国連開発計画など、さまざまな国際機関だけでなく、純粋な経済機構である世界銀行の対外援助なども、中国政府や各種の公的機構への資金援助を行っていることは、誰もが知っていることである。そしてこれらの機構ではアメリカ政府の資金が重要な支えになっている。GAOはこれらの国際機構における中国関連項目を国会に報告する責任がある。たとえば、国連開発計画では中国の関連機関に対して選挙制度と刑事法の改正に関するプロジェクトに対して援助を行っている。アジア開発銀行は1999~2006年の期間、中国の関連機関向けの同じようなプロジェクトに対して355万ドルの援助が行われている(原注i)
近年のデータは、アメリカのメリーランド大学法科大学院のThomas Lumの2012年の論文が参考になるだろう。(原注ii)
GAO報告や関連論文だけでは偏った情報だという批判もあるだろう。だが問題は中国政府自身が関係するデータを全く公開していないことにある。情報の非対称性の責任は中国政府が負わなければならない。
◆アメリカの民間基金
それでも中国メディアで関係する情報が報道されることもある。2004年2月23日の中国紙「経済観察報」は、英国人学者のAnthony Saichが2002年に清華大・ハーバード中国高級公務員連合研修プログラムを提唱し、次世代の中国官僚に対して管理研修を行ったという報道をしている。彼はその前にはフォード財団の駐中国首席代表を務めたこともある。
フォード財団はNEDとは違って民間の財団だ。中国の政府系宣伝メディアは、これらのアメリカ民間財団が中国の内政に干渉していると批判するのが常だ。だが実際には、アメリカの類似の民間財団の資金の多くが、中国政府を背景に持つ民間団体に流れている。そして本当の草の根の民間団体に流れる資金が最も少ないのである。この問題を専門に研究する香港の中文大学の社会学教授、Anthony J. Spiresによると「中国では、海外からの援助資金によるプロジェクトは厳格な政府の監視統制下にある。アメリカの大財団の巨額の援助の多くは、NGOあるいは草の根NGOにではなっく、中国政府のコントロール下にある組織に行われている。政府が設立したNGOはGONGO(Government-organized NGO)と呼ばれ、中国政府が支援しないプロジェクトへの資金を海外から集めている。それは同時に新たな社会的勢力を抑圧する装置にもなっている。」(原注iii)
州官は火を放つことを許されても、庶民は明かりを灯すことさえ許されない。(原文:州官可以放火,百姓不可点燈)
これが「偉大、光栄、正確」のロジックなのである。
2014年10月18日
原注
i GAO report 2004
ii US assistance programs in china
iii 《美国基金会資助了中国政府,而非NGO》
※訳注
陳方安生(アンソン・チャン)
香港返還前後に香港政府ナンバー2に就任。返還後、トップの董建華・行政長官のトップダウン方式と対立し2001年に下野。一時、立法議員をとつめ、現在は主流民主派の顔の一人。今年4月、彼女と民主党(香港)の李柱銘(マーティン・リー)が米国でNEDの地域副理事長ルイサ・グレーブらを前にオキュパイ・セントラルの計画を1時間にわたって説明したことが、アメリカ陰謀説の根拠となっている。しかしオキュパイ・セントラルは、それより1年以上前から香港の社会運動において公然と議論されてきたことであり、秘密でも謀略でも何でもないし、アンソン・チャンやマーティン・リーがオキュパイ運動を指導したこともない。
蔡素玉
当時は民建聯(親中派)の立法議員、現在は香港選出の中国全人代代表を務める。