0,,15830398_401,00 迷走する北朝鮮、戦闘態勢の自衛隊
 
 二月二九日、米国と朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)両国は、北朝鮮が寧変でのウラン濃縮活動、核実験、長距離ミサイル発射を一時停止して、寧辺の核施設に国際原子力機関(IAEA)要員を受け入れるとともに、米国は北朝鮮への食糧支援を行うと表明した。さらに三月七日、八日の両日、米国が北朝鮮に栄養補助食品など二四万トンを提供する方法をめぐって、米朝両政府代表による協議が北京で行われ、合意に達した。三月一二日には、ニューヨークに滞在中の北朝鮮の核問題をめぐる六者協議における北朝鮮側首席代表の李容浩(リヨンホ)外務次官が、ウラン濃縮活動の一時停止に伴ってIAEA代表の受け入れが近いうちに行われる、と言明した。

 こうした動きは、北朝鮮の金正恩新体制が「米朝協議」を進めながら、深刻極まる食糧事情を改善し、「強盛大国の大門を開く」年と位置づけられた二〇一二年の最大イベントである四月一三日の最高人民会議、四月一五日の「金日成生誕一〇〇年式典」、そして朝鮮労働者党一四回大会を経て、自らを打ち固めるための基盤づくりと目されていた。国際的にも孤立を深め、国内的にもどん詰まりの飢餓状況からの脱却を、米朝協議を通じて図ろうとする外交と考えられたのである。



 しかし、三月一六日、朝鮮中央通信が四月一二日から一六日の間に「人工衛星を搭載したロケットを打ち上げる」と発表したことで一転して緊張が高まった。朝鮮中央通信によれば、それは、地球観測衛星「光明星3号」を運搬ロケット「銀河3号」に搭載し、北朝鮮西部の「西海衛星発射場」から南方に向けて打ち上げるもので、「平和的な宇宙利用」である、と強調している。北朝鮮が国際海事機関(IMO)に事前通報した情報によればロケットの一段目は韓国西方沖、二弾目はフィリピン東方沖に落下する予定となっている。

 日米韓政府は、この北朝鮮による「衛星」発射予告を批判し、北朝鮮への圧力を共同で行使することを確認した。韓国政府は「二〇〇九年の国連安保理事会決議では、北朝鮮の弾道ミサイル技術を使ったすべての発射が禁じられている」と指摘し、今回の行為は「明確な安保理決議違反」と非難した。米国政府も「重大な挑発」と北朝鮮に抗議し、米朝協議で確認した食糧支援準備を中断した。中国やロシアもまた、北朝鮮に「人工衛星ロケット」発射の中止を促すための外交的圧力をかけている。ソウルで三月末に開催された「核サミット」は、北朝鮮の「ロケット発射」を阻止するための外交的舞台になった。

 こうした国際的反発は、当然、北朝鮮にとっては織り込み済みである。北朝鮮は「平和的な宇宙利用の権利を否定し、自主権を侵害する卑劣な行為」と海外からの圧力を非難する一方で、「人工衛星」を海外の専門家や記者にも公開すると述べ、IAEAに対して監視員の派遣を改めて要請している。

 米韓両国は、こうした中で、韓国東部の浦項で、「北朝鮮有事」を想定した、一九八九年の米韓合同軍事演習以来最大規模の合同上陸訓練を三月二九日から開始した。そして野田政権は米韓両国と歩調を合わせながら、二〇〇九年の北朝鮮ロケット発射時と同様に、三月三〇日に安全保障会議を開催し、「弾道ミサイル破壊措置命令」を発動した。この命令によって、防衛省をイージス艦を沖縄周辺の東シナ海に二隻、日本海に一隻、そして地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)を首都圏三カ所(朝霞、市ヶ谷、習志野)と沖縄本島の二カ所(那覇市、南城市)と宮古島、石垣島に配備した。さらに石垣、宮古、与那国島には陸上自衛隊の救援部隊を派遣した。

 この弾道ミサイル防衛体制は米軍横田基地内に置かれた「日米共同調整所」を通じて、日米共同の作戦として展開されることになる。まさに実戦体制が敷かれているのである。沖縄へのPAC3配備、石垣、宮古、与那国への陸自部隊の投入は、新防衛大綱で示された米軍のアジア・太平洋戦略の一環としての自衛隊の南西重視戦略の格好の実験場となっている。



 米朝協議を通じて「ウラン濃縮」・核実験の一時停止、IAEA復帰に応じる一方で、各国からの非難と孤立化を招くことを十二分に承知した上で「人工衛星発射」=ミサイル実験に踏み切ろうとする北朝鮮・金正恩体制の姿勢を、どのように捉えるべきだろうか。

北朝鮮は一方で、金正日体制が招き寄せた国際的孤立化と経済的・社会的危機からの脱出の糸口を手繰り寄せなければならない。他方で、金正恩継承体制の確立のためには、金日成・金正日・金正恩三代体制の「正統性」を根拠づけなければならない。

四月の「人工衛星発射」は、金正日が死去する直前の昨年一二月一五日に北朝鮮の当局者によって米国側に伝達されていたことであり、金総書記の「遺訓」を「一寸の譲歩も一寸の抜かりもなく徹底的に貫徹する」と宣言している金正恩にとっては、やめるわけにはいかなったのだとも報じられている(毎日新聞、三月二四日夕刊)。金正恩が父・正日の遺志を実行できなかったのだとすれば、彼の「継承体制」の正統性が危機に瀕するからである。

かりに北朝鮮の体制が「ゆるやかな方向転換」を求めようとしても、「三代継承」体制の正統化の枠組みに縛られた金正恩体制は、内部から転換することはきわめて困難である。こうして強力な指導力を欠いたまま、支離滅裂で混乱した政策が今日の北朝鮮を支配することになる。「ハンドルとブレーキが故障したまま、坂を駆け下りる車」という韓国・柳佑益(リュウイク)統一相の北朝鮮への評価(朝日新聞、三月三一日)は、おそらく正しいだろう。しかしそれとともに、公式の発表の裏側にある、北朝鮮側の「政策転換」へのサインも見すごすべきではない。

われわれは、民衆の苦しみと飢餓をよそに、ただ特権的支配層の残虐きわまる独裁支配体制を維持しようとするためだけに行われる「人工衛星」発射という膨大な浪費を厳しく批判しなければならない。

そして同時に北朝鮮の民衆と真に連帯しようとするためには、こうしたロケット発射を絶好の口実にして「北朝鮮の脅威」を煽り、米日・米韓の軍事的同盟体制の実戦化に踏み込もうとする動きにきっぱりと反対することが必要である。

朝鮮半島の緊張緩和と東アジアの平和の実現は、日本帝国主義の朝鮮半島の侵略・植民地支配の真の清算に基づく日朝国交交渉の再開のための闘いによってこそなしとげられるのだ。

(四月一日、K)