虹とモンスーン

アジア連帯講座のBLOG

労働運動-反貧困

報告 10.30「守ろう!外国人労働者のいのちと権利」

DSC_1297― 外国人技能実習法3年を検証する!―
10.30「守ろう!外国人労働者のいのちと権利」



 一〇月三〇日正午から、参議院議員会館講堂で、「守ろう!外国人労働者のいのちと権利」―外国人技能実習法3年を検証する!―集会が、主催:集会実行委員会/日本労働組合総連合会(連合)、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)、在日ビルマ市民労働組合(FWUBC)、ものづくり産業労働組合JAM、外国人技能実習生問題弁護士連絡会、日本労働弁護団、外国人技能実習生権利ネットワークで開かれた。

 指宿昭一さん(外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表)が司会あいさつを行った。

 「外国人技能実習法ができて三年が経った。在留する外国人労働者は一六五万人と過去最高。そのうち技能実習生は四一万人。外国人技能実習機構が作られた。保護する政策ができたが、現場では解決していない。人権侵害も続いている。法律は五年後に見直しを付帯決議でなされている。特定技能実習制度が新たに二〇一九年四月から行われているが、四〇〇〇人未満にしかなっていない。送り出し機関・団体より中間搾取(年収の3~4年分)が行われている。日本の管理団体の搾取もある」と問題点を指摘した。

 参加している議員連盟の衆参の国会議員一〇人が紹介され、石橋みちひろ議員(立憲民主党、参院)が「三年前の法律のできる時、適正化なくして数の拡大をしてはならないと主張した。技能実習生は三年前の二〇数万人から四〇万人を超えた。現場での問題は悪化し、人権侵害が拡大している。現在の法律を原則廃止して、労働者・生活者として参画できるようにすべきだ。いっしょに未来をつくっていこう」と発言した。
 
技能実習生の訴えと支援団体からの報告
 
 次に技能実習生の訴えと支援団体からの報告(オンランも含む)が行われた。

 ベトナム人技能実習生と岐阜一般労働組合。

 ベトナム人技能実習生のKさんは五月二八日に解雇され、支援のシェルターで生活している。仕事は厳しく怒られた。会社は九回注意したが直さないので始末書を九枚書かせた。精神的に疲れてしまった。組合にかけこみ、労基署に相談したが解雇予告が通知されていれば合法だとの回答。会社は弁護士を立ててきているが話は進んでいない。次の技能実習先を探している。ベトナムの送り出し機関に五五〇〇ドル払っていてその借金が残っている。「悪い日本人だけではない。日本に来れてよかった」とKさんは発言した。

 岐阜のシェルターで一二人が生活している。一〇人の実習生とその家族二人。ほとんどが解雇されている。「仕事ができない、真面目でない」などの理由だ。即戦力に役立つ労働者が欲しい、実習生としてきちんと育てていくという姿勢が経営者に足りない。それに労働条件だけではなく、寮での集団生活や保険制度の環境の問題もある。会社は「解雇していない、本人が逃げた」と言い訳する。
 
 札幌地域労組の報告。

 栗山町実習生解雇事件。Cキノコ工場にAとBファームから働きに行っていた実習生がC工場の突然の倒産により解雇された。一四人が組合に加入した。残された実習期間九カ月分の給料の支払い、解雇予告手当、寮の使用を認めよ、と要求した。前二つの要求は認められなかった。C工場は以前にも実習生受け入れ停止処分を受けた会社であり、ファームはダミー会社だった。管理団体が会社とグルになっていた。その後新たな会社で働くことができ、解雇も撤回させ解決金もとれた。この問題では機構も管理団体もダメで組合が介入して初めて解決した。
 
 ミャンマー人技能実習生と在日ビルマ市民労働組合の報告。

  二人の女性ミャンマー人技能実習生が実情を語った。

 「一年間働いた。給料は多い時で一六万円、少ない時で八万円。電気代二万円、家賃で二万円取られた。スリッパで頭を叩かれるなど人権侵害がひどかった。管理団体におカネを取られた」。

パネル討論 外国人技能実習法3年を検証する

 続いてパネル討論が行われた。パネリスト。仁平章さん(日本労働組合総連合会(連合)総合政策推進局総合局長)、鳥井一平さん(移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)代表理事)、水野英樹さん(日本労働弁護団幹事長)、コーディネーター、小山正樹(JAM労働相談アドバイザー・在日ビルマ市民労働組合顧問)。

 鳥井さん。「実習生はベトナム、中国、フィリピン、インドネシアという順に多い。技能実習生は特に地方のどこにでもいる。機構ができたが受け入れ企業の七割で労基法違反があることが分かっている。残業代、労災、暴力の問題。人身売買的構造が変わっていない。この制度を適正化することはできない、廃止するしかない」。

 「コロナ問題で、実習生は困窮している。救済策にアクセスできない。この春キノコが不足した。それは収穫する人、集荷する人=実習生がいなくなったからだ。今後漁業がたいへんになる。この制度ではやりきれないことが明らかだ。帰れなくなった人に生活の保障をすべきだ。ブローカーを排しハローワークを使う。オーバーステイを合法化する。移民政策として受け入れる。いっしょに働き、い
っしょに生活する政策を」。

  仁平さん。「実習制度の法ができて三五年が経つ。それでもまともに働いても生活ができない。法に基づく監督指導できる機構ができたがその地方や人によって運用が変わり、違反が改善されていない。適正化が必要だ。労働市場をどう考えるか。共生社会へ抜本的改革が必要だ」。

  水野さん。「問題点。①劣悪な労働条件、賃金未払い、長時間労働、ハラスメント。②搾取。送り出し機関へ手数料を払わなければならない。③人権侵害。パスポートを取り上げる、帰国の強制など。その原因は①実習制度の目的は技術移転。しかし、日本の企業は単純労働者を確保したい。技術を教えていない。②転職の自由がない。この制度は廃止すべきだ」。

  「労働力としてではなく、人として受け入れる。除染作業を外国人労働者にさせることは違法だ。実習期間は柔軟に、転職は自由、日本人に認められている権利はすべて同じに、受け入れは公的機関にすべきだ」。

  最後に、「外国人労働者は、地域における『生活者』であり、社会保障や行政サービス、子どもの教育、住宅保障といった共生のためのインフラ整備は待ったなしの課題だ。政府は共生社会の実現に向けて覚悟を示し、国民的議論を行うべきだ」とする集会アピールを採択した。

(M)

【コロナ禍問題】労働者が感染爆発を生き残るには

sinagawa緊急事態宣言はいらない!

今すぐの生活保障が先だ!


 東京都での感染拡大を受けて政府は緊急事態宣言を発令した。我々は政府の緊急事態宣言発令に反対する。補償がないままの緊急事態宣言は、派遣やパート労働者を中心に多くの失業者が生み出され、ネットカフェで暮らす人々などが行き場をなくし、感染ではなく経済的苦境により命を落とすことになる。

しかも緊急事態宣言が発令されれば、企業は、現状では義務となっている労働者に対して休業補償を企業は免れることができる。このように一方的に労働者・地域住民のみにリスクを押し付けるやり方では感染封じ込めはできない。今求められているのは、労働者・住民の自主的「籠城」を政府・自治体が全面的に支援することである。

ロックダウンではなく自主的「籠城」の支援を

今回の緊急事態宣言の背景には、無策を糊塗したい政府や都が、感染拡大を前に日本医師会や一部専門家を中心に、緊急事態宣言に続きロックダウンという強力な措置を行い、感染を封じこめて医療崩壊を防ぐべきだという一定の世論の広がりを受けて判断したものだ。

例えばクルーズ船での杜撰な体制を実名で批判した岩田健太郎神戸大学教授・医師は自身のツイッターで「東京都は「ロックダウン」を決断すべきです。今日です。現状の患者の増え方は一意的でこれまでの患者選択、検査、コンタクトトレーシングでは抑え込めません。 つまり現状維持では状況は悪くなる一方で、別の方針に転換する、プランBに移行する必要があります。」とツイートしていた。

しかし特措法にはロックダウンは定義されていない。特措法で可能なのはあくまでも「外出の自粛」だけであり現行と変わりはない。つまり切り札的イメージと裏腹にロックダウンは実施不可能である。しかし感染拡大を封じ込めるためには岩田教授が言うように現在は外出制限が必要である。

であるから政府・自治体はロックダウンのような勇ましい言葉をもてあそぶのではなく、労働者・住民が自主的に「自宅」に「籠城」できるように支援を行う必要がある。そして自宅を持たない人、自宅に居場所がない人には新たに安全な「籠城」場所を提供する必要がある。

したがって政府・自治体がまず行うべきことは、住民にのみリスクを押し付ける現行の対策からの転換である。経済活動の縮小により困窮に陥った人々を救済することが待ったなしに求められている。一律平等な現金の支給が必要だ。

年度末をまたいだ現在、様々な支払いに苦慮する人々、とりわけ収入が減り家賃の支払ができなくなった人を早急に救済する必要がある。「5月目途に所得減少世帯に30万」が検討されているが遅すぎる。このままでは「籠城」どころか多くの人が路上に放り出されてしまい、感染の封じこめは不可能だ。

災害に無力な小さな政府

直接・早急に住民に援助を届けようとすると時に障害となるのが、国・地方を含めた公務員の少なさである。20年以上にわたって公務員定数を削り、民間委託を広げてきた小さな政府・自治体は、このような非常時には何もできない。どこに生活困窮者がいるのか等、現在の自治体では、住民のニーズをほとんどつかみ切れていない。そのため、このままでは多くの孤独死が発生する可能性がある。これがこの間、新型コロナウイルスの感染拡大が明らかにした事実である。

迅速一律平等な所得補償を

政府が強権で感染を封じ込めることはできない。そして感染のリスクは平等ではなく階級差が歴然と存在する。私たちが生き残るためには自主「籠城」と、矛盾するようだが連帯が必要である。必要なのは自主「籠城」とそれを支える様々なネットワークである。住民による自主的な地域ネットワーク(それは個人加盟労組、地域労組の取り組みや貧困対策に取り組んできたNPOだったりするだろう)が求められている。

必要なのは政府の強権ではなく、自主「籠城」を支えるネットワークとそれを支える迅速一律平等な所得補償である。様々なネットワークがつながりながら、共に政府に向けて運動を展開しよう。このままでは、医療崩壊と失業・困窮による大量の病死、自殺・孤独死が発生してしまう。


感染症医療体制の今すぐの確保を!

感染拡大のさなかに都立病院を半民営化の愚

オリンピックの延期が決定されて以降、緊急事態宣言まで国や東京都の対応は手のひら返しとなった。明らかに都知事選を意識している小池都知事は「ロックダウン(都市封鎖)」という強い印象を持つ言葉を使用し、強力なリーダーシップを発揮する指導者として自分を都民に売り込んだ。しかし小池都知事の「強力なリーダーシップ」は決して都民のためには発揮されない。

その力はどこまでも大資本の利益のために奉仕される。今現在、都知事が真っ先に行わなければいけないことは医療の確保、中でも集中治療体制の確保である。しかし小池都知事は、感染が拡大する中で、都内の指定感染症病床の約70%(80/118)を占める都立・公社病院を22年度中に地方独立行政法人化する方針を3月31日付で公表した。感染との闘いが長期戦になることは明らかにもかかわらず安倍政権に倣った真逆の方針である。

感染との闘いのただ中で都立・公社病院の地方独法人化を強行すれば、労働条件の切り下げによる看護職員の大量退職などで医療提供に支障をきたす可能性が高い。都は都立・公社病院の地方独法化を今すぐ撤回し、都立・公社病院へ人工呼吸器などの医療資源と人材を集中させるべきである。とりわけ感染症病床の確保は、軽症・無症状者の入院を制限したとしても深刻さを増している。

都は現在においても都立・公社病院を自己収支比率といった経営指標で評価することをやめようとしていない。経営指標で病院運営を縛ることを直ちにやめ、採算性を度外視しても住民の命を守るために都立・公社病院を最大限活用すべきである。民間病院との間で役割分担を行い、都立・公社病院を中心に感染症対応可能病床を確保するべきである。


地域医療を疲弊させた医療費抑制

都は感染症指定病床に加えて都内の拠点病院に協力を要請して感染症対応可能病床を1000床まで確保したとしている。今後、4000床まで拡大するとしている。しかし財政措置のないお願いにとどまっているため、対応可能病床の増床は感染者の拡大に追いつておらず、自覚症状がありながら病床が空くまで自宅待機や一般病院での入院せざるを得ない患者が多数いる。

病床確保が進まない理由は財政措置ばかりではない。この間政府が進めてきた医療費抑制政策と病床削減を義務付けた地域医療構想により、地域医療を支えてきた病院が感染症医療に対応する体力をなくしている。医療費削減のために診療報酬が改悪される度、地域の中規模病院では急性期医療を断念し人員配置の少ない慢性期病床へと病床が変更されてきた。

急性期病床に比べ少ない人員配置の慢性期病床では人手のかかる感染症医療を行うことはできない。したがって国は医療従事者を確保し感染症対応病床を確保しようとする病院に対して財政措置を行い全面的に支援するべきである。しかし国は、真逆な対応を取っている。地域医療構想実現のために病床を削減する病院を支援する84億円を計上した20年度予算をそのまま成立させた。このように小池都政の都立・公社病院の地独法化は、安倍政権の医療費削減と一体のものである。


脆弱な日本の医療体制

日本は病床数こそ多いが、そこに働く医師・看護師数は少なく、多くの医療従事者を必要とする集中治療室の数も少ない。人口1000人当たりの診療医師数はドイツ4.3、イタリア4.0人に対し日本は2.4人でOECD加盟35か国中30番目である。看護師数はドイツ12.9、イタリア5.8人に対し日本は11.3人、OECD加盟国中11番目である。集中治療室の病床数は10万人当たりドイツ29~30床、イタリア12床、日本は5床程度である。しかも看護師の配置数は他のOECD加盟国の半分である。

この人員配置数では感染予防を徹底させた場合4分の一程度しか運用できないと指摘されている。つまり新型コロナウイルス感染症の前では人口10万人あたり実際に稼働できるICU2床弱であり、イタリアの6分の1である。

日本では体制不備のため検査数が極端に少ない。そのため国内感染者数が5000人を超える前にあっけなく医療崩壊に至る可能性がある。


感染爆発を生き延びるために

1.財政措置による感染症病床の増床と軽症・無症状者の入所施設の早急な開設。

2.迅速一律平等な所得補償。

3.自主「籠城」を支える「自宅」の確保。

4.封鎖ではなく住民・労組などのネットワークを活用したすべての住民の自主「籠城」への相互援助、とりわけ自主「籠城」中の職の確保を企業に義務付けること、派遣切り、雇止め、解雇、内定取り消し等を許さない闘い。

5.自主「籠城」を支える公共サービスの維持。

6.公共サービスを支える労働者への支援、とりわけ長時間労働の禁止。この感染爆発を労働者階級が生き延びるための戦略・戦術を確立するために経験を交流させよう。


(矢野薫)

報告:移住者と連帯する全国フォーラム・東京2019

配信:19061移住者42日間にわたり 活発な論議が

 6月1、2日の両日、日本教育会館を会場に「出合う、感じる、多民族・多文化共生社会〜いっしょに考え、ともにつくろう〜」をテーマとして「移住者と連帯する全国フォーラム・東京2019」が開催された。主催は同フォーラム実行委員会。

 文字通り内容がぎっしりつまった催しであり、6月1日は、テレビなどで活躍するサヘル・ローズさんと矢野デイビッドさんのダイアローグで多文化共生とはどういうことかを考え、その後同会館の7・8・9階の会議室を使って、15の分科会でテーマを絞った議論、2日は、全体会「どうなる、どうする移民政策」を通じて、外国にルーツをもつ人々を迎え入れるに当たって、今年四月施行された新入管法があらためて日本の社会に突きつけている課題を共有、という構成だ。

制服姿の高校生たちも参加して

 政府は新入管法で「特定技能(1号と2号)」という新たな在留資格を設定し移住労働者受け入れを拡大する一方で、現実に進んでいる移民社会の現実に背を向け、頑として「移民政策」を拒否、移住労働者を1人の人間として社会に迎え入れるための制度を整えていない。そうであるならば、市民の側から移民政策をつくっていこう、今回のフォーラムはその思いから企画されたという。

 実は同フォーラムには20年以上の積み重ねがあり、第1回が1997年に開催された。バブル経済の中で日本社会に、それ以前の中国や朝鮮半島にルーツをもつ人々以外のルーツをもつ人々(「ニューカマー」と呼ばれた)が増え始めたが、当時の日本社会には現在以上に多文化共生の備えがなく、政府は治安的管理以外はすべて放置、移住労働者が遭遇した生活上のさまざまな困難と必要には、労働組合運
動を含む市民が、遅れてその圧力の下に自治体が、まさに手探りで応じていた。同フォーラムは、それら市民団体の経験交流を進め、また移住労働者自身の声を集めつつ、それらを基礎に、市民の側から多民族・多文化共生の理念と施策の必要を発信する場として無視できない役割を果たしてきた。1999年以降は全国持ち回りで開催されてきた。

 政府が昨年秋から前述のように、手前勝手で御都合主義的な、「労働力」としてのみの移住労働者導入を画策し、実に粗雑で空虚な議論のまま新入管法を強行に成立に持ち込み、「共生のため」と称する急ごしらえの「総合的対応策」でも、共生施策を事実上自治体丸投げにする状況の中で、移住労働者が直面する困難と人権侵害はさらに深刻化することが懸念された。日本社会がすでに移民社会になっていることを直視した「移民政策」が避けては通れない課題になっていることは明白だ。

 今回のフォーラムは、まさにこの状況を前に20年ぶりに会場を東京に設定して開催されたものだが、いわば先のような危機感も背景に、移住労働者当事者はもちろん、弁護士や研究者、現場の労働運動活動家を含み実に多様な参加者が集い、また若さが溢れる催しとなった。実際、ダイアローグ会場は参加者で溢れ、分科会では事前申込で定員が一杯になるものがいくつも出た。また、制服姿の高校生の集団など、開会に当たって司会者があえて触れるほど、この種の集まりでは他に例がないほど若者の姿が光り、参加者平均年齢が格段に低下していたことは歴然だった。

 そのことだけでも同フォーラムは成功と言えるが、ダイアローグ、分科会(筆者は当然ながら一つにしか参加できなかったが)、全体会ではいずれも参加者に深く訴える問題提起があり、充実した資料集とパンフレット「移民社会20の提案」を加え、フォーラムは豊かな成果を残した。なお同フォーラムは、朝日、毎日、東京の各紙、および共同通信の後援を受けていた。このフォーラムの成果が移住者関連の報道にどう反映されるか、今後を注視したい。

「一人の人間」として生きること

 その上で簡単だが企画のいくつかを紹介する。

 まずダイアローグが刺激的だった。登場の2人が語った半生が実に壮絶だったが、2人の提言は、その経験に裏打ちされた強い感銘を参加者に残した。

 具体的にまず矢野さんは、どんどん進む多様化に追いつこうとすること、あるいは何かに合わせようとすることではなく、1人の人間として自分の人生を生きることを基軸に置いて、それに寄り添うことが何よりも大切、と力説した。そして、移住者が新たなものをつくる可能性をもっていることを前向きに受け止めることも必要、と加えた。

 サヘルさんは、移住者には各々事情があり、まず人として見て信じることから始めてほしい、と訴えた。そして実は「多民族・多文化共生」という言い方には引っかかりを感じていると語り、国境は誰が決めた、アイデンティティは私、自分探しではなく自分つくりこそ基本、と強調した。

 二人とも民族でアイデンティティをくくるのではなく、あくまで一人の人間として直接ふれあうことの重要さを語ったことが印象的だった。そして最後に、会場の若者による、イランやイラク人の人々に周囲のほとんどがテロリストの印象をもっていることを変えたいとの質問に、サヘルさんは躊躇なく、まず友達になろう、レストランに行こう、と直截に答えた。それは参加者に、笑いの中で、人としてふれあうことへ自分の中から変える必要をあらためて納得させるものだった。

医療・福祉の分科会に参加

 筆者が参加した分科会は、医療・福祉・社会保障分科会。当日受付の段階では定員に空きがあって参加できたのだが、ここも始まってみると、すぐさま補助椅子が必要になるほど会場は一杯になった。

 議論は、各地での実例紹介も含めて、移民政策の不在が、健康保険に入れないことによる医療抑圧や、医療通訳の問題、また予防接種に当たっての罹災確認の困難さなど、すでに移住者に医療のさまざまな問題をつくり出していることを明らかにした。そして今回の新入管法施行で打ち出された「総合的対応策」も、それらを克服するものであるどころか、健康保険の適切な適用を名目に移住労働者に対する差別的な施策に余地を与えていることが指摘された。

 多岐にわたるそれらの問題は、ことの性格上厳密さが必要でありここで簡略に紹介することは控える。しかしそれらの問題の根底に、在留資格の法的地位が権利ではなくあくまで資格にすぎないという問題が通底していること、したがって人権保障としての明確な移民政策が不可欠と強調されたことは明確にしておきたい。

 同時に、先の施策打ち出しに当たって、ネットを中心に流されたフェイクも大きな影響を与えたこと、そうしたフェイクがスーッと入り込む状況があること、さらに「なりすまし」防止を口実にすでに診療拒否を打ち出している医療機関が出ていることなど、市民の側からの警戒と対抗の必要があらためて浮き彫りにされた。

多民族・多文化共生社会実現へ

 全体会ではまず、国士舘大学教員の鈴木江里子さんから、新入管法と「総合的対応策」に関する制度解説が行われた。そして、「特定技能一号」という新たな在留資格は明らかに異なる扱いであり、職場移動に際して地域移動をコントロールする余地を残していること、永住許可の居住要件の就労資格から排除することで安定的な在留資格への移行を制限していることなど、重大な問題を残していることを指摘した。さらに「総合的対応策」に対しても、いくつかの具体的事項を指摘しつつ、事実上自治体丸投げであり、制度的不平等の改善がまったくなく、共生の実現を不可能にしている制度的な壁が依然放置されている、と厳しい批判が加えられた。

 この報告を受けて大阪大学教員の高谷幸さんが、政策提言としての「移民社会20の提案」を提起した。政府省庁への働きかけに力点を置いたこの間の活動における、当事者の視点の不足と広い社会への訴えの不足を反省し、その二点を意識し必要最低限なものに絞った内容にすべく作成には三年をかけたという。そしてあくまで議論の素材であるとして、移民政策の実現に向けたプロセスとして広く活用を呼びかけた。

 その上で、日系ブラジル人三世のアンジェロ・イシさん、韓国出身のイ・ソンヒさん、在日朝鮮人三世の金竜介さんの3人が前述の鈴木さんをファシリテータとして、「どうなる、どうする移民政策〜移動・定住・永住する人々の視点から考える」との標題で議論を交わし、さまざまな切り口から示唆に富む具体的な問題提起が行われた。たとえば権利防衛における自己決定権、特に職業選択の自由の決定的重要性、家族帯同を妨げることにはらまれる人権侵害の深刻さ、などが指摘され、権利は特権ではないことの理解を進める啓発、および社会構成員として一括的な権利を確立することの必要性が力説された。

 特に、移住者の権利の問題は日本社会の底辺にある問題と共通する、社会全体の連帯で底辺の問題全体のステップアップを、と訴えたイ・ソンヒさんの指摘は印象に残るものだった。ダイアローグを含めて、このフォーラム全体は確かに、人権そのものに関して日本社会が抱える問題を照らし出していたと言えるからだ。

 こうして参加者に今後に向け多くの刺激と示唆を残した今回のフォーラムは、その示唆を「一人ひとりを大切にする多民族・多文化共生社会を実現」する課題として確認する大会アピールを採択して終了した。
         
(D)   



読書案内『「働き方改革」の嘘 誰が得をして、誰が苦しむのか』

働き方改革本・写真『「働き方改革」の嘘 誰が得をして、誰が苦しむのか』
(久原穏/集英社新書
/840円)


 「働き方改革関連法」は、①長時間労働を強制する「過労死促進法」、②正社員と非正規の待遇格差のままの努力目標としての「同一労働同一賃金」、③労働時間の規制から外す「脱時間給制度(高度プロフェッショナル制度)」などを柱にしている。改革法〈①労働時間に関する制度の見直し(大企業が19年4月1日、中小企業が20年4月1日、自動車運転業務、建設業、医師が24年4月1日施行)②勤務時間インターバル制度の普及促進③産業医・産業保健機能の強化④高度プロフェッショナル制度の導入⑤同一労働同一賃金(大企業が20年4月、中小企業が21年4月1日施行)〉が19年4月から施行が始まる。

 反撃陣地を構築していくためにも理論武装を強化しなければならない。「働き方改革」法制定に至る過程を丁寧に取材してきた久原穏(東京新聞)が、一つの批判本としてまとめたのが本書(①裁量労働制をめぐる欺瞞②高度プロフェッショナル制度の罠③働き方改革の実相④日本的雇用の真の問題は何か)である。

 久原は、「誰が、何のために『改革』を言い出したのかを明らかにする。なぜ労働問題を所管する厚労省ではなく、経営者再度に立つ経産省主導で進んできたのか。問題の多い『高プロ』にこだわる理由は何か。副業やクラウドワークを推奨し、雇用システムを流動化させようとする狙いとは?……」などの問題意識からシャープに切り込んでいる。

 とりわけ注目すべきところは、「働き方改革とは、財界による財界のための『働かせ方改革』にほかならないことがわかる。政府は、働き方改革の目玉を『長時間労働の是正』と『同一労働同一賃金』だと強調する。しかし、真の目玉は、財界が望み、下絵まで描いた高プロ創設や裁量労働制の対象拡大といった労働時間制度の規制緩和なのである」という評価から、「長谷川ペーパー」という「陰の指針」をクローズアップしているところだ。

 産業競争力会議で雇用人材分科会主査を務めた長谷川閑史(経済同友会代表幹事)は、「個人と企業の成長のための新たな働き方-多様で柔軟性ある労働時間制度・透明性ある雇用関係の実現に向けて」(2014年4月)というタイトルで「働き方改革」法にむけて「長谷川ペーパー」を提起した。

 要するに「世界トップレベルの雇用環境の実現」に向けて「今後の中核となる
政策として▼高プロの創設や裁量労働制拡大など労働時間制度の見直し▼ジョブ型正社員の普及・拡大▼予見可能性の高い紛争解決システムの創設」を掲げた。

 資本が展望する今後のビジョンとするのが「職務は明確に定められ、昇給や雇
用保障は必ずしも約束されない欧米流の正社員(ジョブ型)へ置き換え」ることだ。「紛争解決システムの創設」とは、「不当解雇された労働者へ支払う解決金を明確化するものであり、いわゆる『金銭解雇』の導入である」など労働者の人権・待遇向上を無視し、資本のカネ儲けの拡大に向けた手前勝手な政策でしかない。

 安倍政権は、この長谷川ペーパーを土台に、財界の要求に忠実に応えるために「働き改革法」を準備し、強行制定したのである。「働き改革法」制定以降の安倍政権の野望は、ペーパーの「政府として、雇用改革を成長戦略の重要な柱として位置づけ、経済政策と雇用政策を一体敵・整合的に捉えた総理主導の政策の基本方針を策定する会議を設け、雇用・労働市場改革に取り組む」ことであり、安倍政権・官邸はその通りに「働き方改革」法の具体化に向けて着手しているのが現在なのである。

 この局面について久原は「労働者代表を排除し官邸主導で雇用改革の方針を決める会議の設置や、『失業なき円滑な労働移動』を掲げて雇用流動を強く求める記述が目立つことも非常に重要である」と指摘する。つまり、雇用流動と称して資本は、不当解雇を拡大していくために「金銭解雇」を導入していくことを獲得目標にしている。リストラにとって強力な武器となり、解雇コストの可視化が狙いだと厳しく批判している。「金銭解雇の動向は、働く人自身が注意して推移を見守らなければならない」と警鐘乱打する。

 なお本書は、連合幹部による安倍政権との妥協の立ち振るまいや取り込まれる状況も紹介されている。だが、「働き方改革法」反対を取り組んできた全労協、全労連、地域ユニオンなどによる国会闘争、争議なども含めた闘いなどが描かれていない。だから共有化すべき課題と成果を踏まえて実践的に今後の方向性に向けた方針の組み立てへとつなげていくのが厳しいかもしれない。そういった面を差し引いても、資料として読んでおくことを薦める。

(Y)

 

中央卸売市場の豊洲移転反対!

tukijiIMG_2753築地で「お買物ツアー」開催

築地市場営業権組合が抵抗の意思

働く人々の命に関わる問題だ


築地市場は廃止されていない

10月6日築地での営業が停止し、10月11日に都の中央卸売市場が豊洲で
開場とされた。しかし、問題続出だ。宮原洋志さん(築地市場営業権組合)は言う。「すでに豊洲市場ではフォークリフトが築地市場の時のように自由に使えない、駐車場が足りないなどの不満が仲卸業者から出ています。さらに心配なのが、豊洲市場が働く人の『命』に関わる問題を抱えていることです。地盤がゆるく、地震で液状化がきる可能性がある。そうなれば地下の汚染土壌が噴き出し、有害ガスが発生するかもしれない。施設内も完全密閉型で、湿度が高くカビが発生しやすい。食中毒が起これば人の命に関わります。そういった不安は、現在でもまったく払拭されていません」(AERA.com)。

10月10日に、東京・都庁記者クラブで、築地市場移転に反対する築地市場営業権組合から、築地市場の閉場・解体事業について—営業権存続—の説明が行われた。同組合は豊洲への移転の認可は「必要に応じ施設の改善を図ることができる中央卸売市場」から築地市場が外れただけで、廃止はされていないと主張。豊洲市場開場以降も築地市場の場内で仲卸業者六店舗が営業を続けることを発表した。築地市場で営業権を持つ約500人のうち約一150人が同組合に参加し、営業権の放棄を拒否しているという。「営業権は憲法29条で守られている財産権の一部で、都が勝手に権利を失効させることはできない」と同組合は主張している。同組合の宮原洋志さんらは、「市場内を見学しながら築地の歴史を学び、買い物もする。一般客の参加」も呼びかけた。10月11日午前8時からは支援者らが「場内お買い物ツアー」を開催し100人が参加した。同様に一二日も開催された。
 
「築地には心があるんだよ」

 10月13日午前8時半に、私は「場内お買い物ツアー」に参加するために、築地市場正門に到着した。すると、「築地市場は豊洲市場に移転するため、10月10日をもって閉場した。引っ越しを目的とする旧築地市場の場内事業者以外は入場できない」と看板が出され、都の職員がガードして入場を拒否している。支援者ら数十人が集まり、「なぜ、一昨日、昨日は入れたのに入れないのか。根拠を示せ。中で営業している店がある。買い物に来たのだ。入れろ」と詰め寄るが、「営業はしていない。閉場している」の一点張り。支援者が「政府の中央卸市場の整備計画で、『必要に応じて施設の改善ができる』の中に、築地が入っていたが、それをはずしただけだ。築地は廃止されたわけではなく存続している」と入ることのできる根拠を示したのに、都の役人は自らの根拠を示そうともしなかった。

中に仲卸の人がいることが入る条件なので、中の業者と確認をとり、正門前に来てもらった。「買い物と片付けの手伝い」ということで、市場の中に入った。東京ドームの何倍もある広さというだけありとても広い。しかし、ほとんどのお店が閉まり、発砲スチロールがあちこちに残り廃墟のようだった。ネズミ捕りがあちこちに仕掛けられていた。そんな中で、明かりが灯されている「明藤」さんのお店で、干物や乾物の買い物をして、片付けをした。都の役人はビデオを回し、「豊洲市場で営業許可を得ている店が豊洲市場外で営業すると豊洲市場での営業許可の取り消しを含む処分の対象となる」と、脅しをかけてきた。こうした妨害もものともせず、仲卸業者に連帯する買い物ツアーで、用意した物はすべて完売となった。「都民の台所であり、都民の土地に都民が入ってなぜ悪い。入る権利がある」という声も聞かれた。

「築地は小さな家族経営で成り立
ってきた。築地には心があるんだよ」という仲卸の女将さんの言葉がずしりと響いた。この後、築地市場場外市場に行ってみた。外国人観光客などがいっぱいつめかけ、美味しそうに「寿司」を食べていた。ここには築地が残っていた。

1tsukijiIMG_2755潮待ち茶屋も廃止された!

仲卸で買い付けた品物を、潮待ち茶屋に運び、そこで氷を入れたりして、トラ
ックでお店に運ぶシステムが潮待ち茶屋。発祥は江戸時代で、船で運んでいたのでこの名前が残ったようだ。仲卸業者などが資金を出し合い、300人が働いていた。ところが、豊洲ではそうした場所を作らず、駐車場でやっているという。潮待ち茶屋では真水と塩水を使い、ハエや蚊の発生をふせぎ食中毒の管理もしていた。豊洲移転により、この300人の仕事がなくなってしまったという。さらに、築地移転問題は、約5700億円もかけた整備費用のうち、3600億円を市場会計の借金に当てるという。これをどうするのか。年間100億円の字予想が140億円に拡大するということもどうするのか。都は赤字解消について「効率的に市場を運営する」としているが具体策は不明確だ。業者らには、使用料が上がるのではないかと懸念が消えない。

そして、築地の跡地はとりあえず、東京オリンピック・パラリンピックの駐車場・輸送拠点とするとしているが、その後どうなるのか。銀座に一番近い一等地は、巨大開発の目玉として、さまざまな利権屋がねらっている。今、築地を守ろうと立ち上がっている人々と連帯し、寄り添っていかなければならない。築地を都民・民衆のための憩いの場との要求を掲げ、築地市場の再誘致にもつながる可能性もひめて、民衆運動が監視していかなければならない。 
           

(M)
 
 
 築地市場の移転差し止め訴訟原告団よ

 
築地市場の移転の差し止めの仮処分を求めた訴訟は、10月4日、東京地方裁判所から「申立をいずれも棄却する」という決定が出されました。私たちの訴えは不当にも認められなかったということです。私たち原告団は、宇都宮健児先生ほかの弁護団の先生と相談の上、直ちに「決定」に異議の申し立て(抗告)をいたしました。諦めずに「納得がいかない!!」の旗は立てていこうと思っております。今後もよろしくのご支援をお願いいたします。

(2018年10月5日)

報告:2.29 郵政ユニオン 本社前集会に全国から200人参加

IMG_0833郵政非正規労働者の正社員化と均等待遇を求め

 二月二九日午前一一時半から、日本郵政本社前で郵政リストラを許さず労働運動の発展をめざす全国共同会議(事務局:郵政ユニオン、郵政倉敷労働組合)が「16春闘勝利! 郵政非正規労働者の正社員化と均等待遇を求め」本社前要請行動を行った。全国から多くの非正規労働者の仲間が参加し、郵政ユニオンの組合員、支援の組合など合わせて、二〇〇人が日本郵政本社前を埋め尽くした。

 日巻郵政ユニオン執行委員長が「『正社員化と均等待遇を求める要請署名』二万九四一三筆を今日本社に提出してきた。一一月四日、郵政は株式上場を行った。八八%の株式を政府が所有している。郵便にはユニバーサルサービスがかせられている。二万七〇〇〇の郵便局があり、逓信病院やかんぽの宿などでもサービスを提供している」と郵便事業の公共性を提起した。そして「その産業を担っているのが約四〇万の郵便労働者のうち、半数の一九万四〇〇〇人が非正規労働者。この労働者がいなければサービスを提供できない。しかし、労働条件には大きな格差がある。これを改善しなければならない。公共性の高い企業なので率先して待遇改善すべきだ。均等待遇を勝ち取る。そのために、裁判闘争を行っている。全国で働く労働者の待遇改善の一歩と位置付けている。16春闘は非正規春闘として闘う」と主催者あいさつを行った。

 共闘を代表として小田川全労連議長、金澤全労協議長からあいさつがあった。

 小田川さんは「郵政職場では裁判で連続して勝利している。みずほや三菱UFJ銀行はベア要求を断念し、春闘から離脱した。日銀のマイナス金利政策はカネを回すと言うが労働者にしたたり落ちていない。労使一体の姿勢を乗り越えていく。安倍首相は非正規労働者との会合に出て、同一労働同一賃金、最賃制の値上げを語った。これは不満が噴出している証拠であり、参院選対策だ。政府は追いつめられている。二〇万人の郵政非正規労働者の闘いは全体を動かすことになる」と連帯のあいさつをした。

 金澤さんは「日銀の黒田総裁は財界に二%の賃上げを財界に要請したと連合に伝えている。こんな屈辱的なことがあるか。安倍首相が二〇二〇年に最賃一〇〇〇円に引き上げると言ったとの似ている。われわれは均等待遇を求めて労契法20条で闘っている。完全実行すれば済むことだ。財界はそう簡単ではないと言っているが。闘いなくして、要求の実現はない」とあいさつした。

 続いて全国の闘いの経過を金子さんが組合員の五〇〇〇を超えるアンケートをもとに全国署名など運動を作ってきた。二〇一三年から通算で一一万二八九八筆署名を集めたが今年が最高だった」と報告した。
 
 
 
  次に解雇撤回を闘っている二人の仲間があいさつした。

  会社との和解を勝ちとり一月一八日に職場復帰した千葉中央局の吉村さん、一月一九日に横浜地裁で解雇無効の完全勝利判決(二二日、会社が控訴)を勝ちとった横浜青葉局の清水さん。吉村さん。「一一月二二日に高裁で和解し、職場復帰した。期間雇用だから首切られた。職場には差別がたくさんある。力を合わせればなくせる。職場の仲間もそう思っている」。

 清水さん。「雇い止め裁判に完全勝利した。控訴されたが今回も勝利できると思う。二〇一三年七月二九日、二二人の組み立て業務がなくなるが再雇用先をあっせんすると言われたが、それもなく雇い止めされた。二二人いるのに一〇人の枠しか提案しなかった。他局を探したというが九月二八日にあっせん先はないと言われる。裁判では雇止めの回避努力が足りなかったと認定し、さらに、期間雇用で一〇年以上働いていたので、期待権も認められた。控訴を取り下げろ、職場に戻せ」。
 
 
 
 非正規労働者四人が宣伝カーの上から訴えた。浜松東郵便局の鈴木さん。「非正規労働者にはいじめがある。同一賃金同一労働というなら、まず時給から月給制へ。ぼろ雑巾のように働いて病気をすれば賃金がカットされる。許せない」。

神戸中央の高橋さん。「一一年目になる。賃金のスキル評価を改善すべきだ。
『ランクAの習熟度あり』であっても時給一〇〇〇円にも届かず、年間二〇〇万円未満のワーキングプアだ。『ランクAの習熟度あり』しか、正社員の試験が受けられない。若者が希望を持てる職場を。希望する者は正社員へ」。

 東京の浅川さん。「一昨年、労契法20条違反として提訴した。手当も有給も与えられていない。物品のノルマだけは同じだ。ふざるな。待遇改善のために闘おう」。広島中央の岡崎さん。「一六年経つ。まったく同じ仕事をしている。仕事をまじめにがんばってきた。それなのに給料は半分ないし三分の一だ。一六年間の差額はどこにいったのか。郵政は内部留保金が一〇兆円あるとも言われている。これが搾取じゃなくてなんなんだ。一六年分の差額を戻して欲しい」。

 日本郵政本社に要求のシュプレヒコールを行い、郵政倉敷労働組合の川上委員長の団結ガンバローでしめて午後からの院内集会に向かった。郵便労働者の重要な闘いの一歩が築かれた。(M)
 
 
2.29本社前集会アピール

IMG_0838 私たちは毎年、春闘アンケートをとりくみ、多くの非正規の方の声を集約してきました。そこから見えてくるものは何か。

 「会社での収入が主な生活費ですか」20代、81%。30代、86%。40代、79%。

  「生活は苦しいですか?」20代、57・5%。30代、68%。40代、80%。

 次代を担い、社会の柱となる世代の方々が、将来を見通せない状況に置かれています。

 「勤続10年以上ですか?」30代、28・5%、40代、39%、50代、37%。青年層から壮年期の、まさに働き盛りといわれる年代の3割、4割という方々が、郵政の職場で10年以上働きながら、非正規のまま放置されてきた実態が浮かび上がってきます。

 これが、日本で有数の巨大企業である郵便局に働く非正規社員の姿です。

 昨年秋から冬にかけて、私たちはマイナンバー配達という激務に追われました。担い手の半数は非正規社員です。過酷な業務の中で、配達のミスなどがマスコミで報じられました。その時、この会社は何をしたか。一部の郵便局で、謝罪会見に当事者を、非正規社員を同席させると言い出だしたのです。私たちは今、「労働契約法20条裁判」をたたかっています。「不合理な格差は認められない」という法の趣旨に対し、会社は「責任の度合いが違う」といっています。責任をいうならば、十分すぎるくらい負わせているではありませんか。

 ある地方の郵便局での年賀はがきの販売指標。正社員が11000枚、非正規社員は7500枚。3分の2を超える実質上のノルマです。一方で、非正規の賃金は正社員と比べて概ね3分の1。賃金でこれほどの差別をしながら、責任とノルマには差別も区別もないのです。

 長いとりくみの成果として正社員登用も始まりました。しかし、不合格となったある非正規の方は、「なぜ落ちたのか理由を言ってくれない。人間として否定された思いだ」。そう、絞り出すような声で語っています。また、別のある非正規の方は、お子さんに尋ねたそうです。「将来何になりたいか」。お子さんは答えました。「大きくなったら正社員になりたい」と。

 返す言葉もない。この無念の思いを、どこに、どうぶつけたらいいのか。そのやり場のない思いを同じくするために、今日、私たちはここに集っています。

 今年の春闘での賃金交渉で、会社は決算状況について「堅調に推移」と説明しています。会社は、その堅調を支えてきた非正規社員の努力に報いるのか。それとも、堅調な経営は安上がり労働力のお陰とばかり、素知らぬ顔で捨て置くのか。

 日本全体で非正規化か進行する中で、日本郵政グループがその先導役であっていい筈がありません。

 希望する人すべての正社員化、有期雇用から無期雇用への早期転換、均等待遇。私たちはこれらを今春闘の柱として、精一杯たたかい抜くことをここに改めて誓います。

 2016年2月29日
16春闘勝利!非正規雇用労働者の正社員化と均等待遇を求める本社前要請行動 参加者一同

【報告】死ぬのはイヤだ! 生きぬくためにつながろう! 反貧困全国集会2015

IMG_1647 一〇月一七日、東京・田町の交通ビル六階ホールで、「死ぬのはイヤだ! 生きぬくためにつながろう!」をスローガンに「反貧困全国集会2015」が開催された。三五〇人が参加した。午前中は東京メトロの売店で働く契約社員の女性たちの「雇い止め」阻止の闘いを描いた「メトロレディーブルース3」などが上映された後、反貧困全国ネットワークの活動報告会が「子どもの今を考える」「自分が貧困?なんでやねん」「下流老人のリアル」の三つの分科会に分かれて行われた。

 午後の部は「死ぬのはイヤだ! 生き抜くためにつながろう!」をテーマにしたシンポジウム。反貧困全国ネットワーク世話人代表の宇都宮健児弁護士が「戦争法を成立させた安倍政権は、社会・福祉支出がどんどん削られる中で、削られないのは軍事費だけだ。青年層の死亡原因で一番多いのは自殺、というこの絶望的現実に立ち向かってつながろう」と呼びかけた。

 

雨宮処凛さんがコーディネーターを務めたシンポの発言者は、SEALDsで活動している小林叶さん(国際基督教大)、福島原発事故で札幌に自主避難した方、キャバクラユニオンの女性、高校生の子どもが給付型奨学金を受給したといく理由で生活保護を打ち切られた件で訴訟を行っている弁護士と当該の女性、反貧困ネットワーク北海道のメンバーなど。

 SEALDsの小林さんは「安保関連法と貧困は表裏一体の関係にある。安倍首相は『安全保障環境の変化』を理由に戦争法を持ちだしたが、『生活保障』についてはどうなのか。私は四年間で六〇〇万円の奨学金を受けているが、多くの場合、学生たちは大学を出た途端に不安定で低額の雇用しか見いだせない中で、多額の債務の返済を背負わされることになる」と語った。

 「ニート、ひきこもりを経て、今は活動家」と自己紹介したキャバクラユニオンの「えりこ」さんは、仕事を休めば多額の罰金を背負わされ(その罰金を計算に入れたら、「日当五〇円」などという場合もある)、「やめる」と言ったらこれまた罰金、未払いも多く、「野宿」せざるをえない、という雇用実態について語った。

キャバクラユニオンのもう一人の女性は「一七歳でこの業界に入り、七年つとめてユニオンに入ったことで、初めて給与がちゃんと支払われていなかったことが分かった」と語り、「マージャン店もブラックの中のブラック企業だ。バイトも賭けマージャンに入らなければならず、負けたら給料から引かれる。働きに行ってマイナスになって帰ってくる」と訴えた。

弁護士の関根さんは、福島市の生活保護世帯の子どもが給付型奨学金を受給したことが、市から「収入」と認定されて生保を打ち切られ、ネット上でバッシングされたことを報告した。厚労省はこの打ち切り処分を不当として取り消したが、それは「奨学金を収入と認定したことは不法とは言えないものの手続き上問題がある」という理由だった。一方、福島市は弁護士・当該女性の話し合いの申し入れを拒否している、という。

福島県生活と健康を守る会は、二〇一一年に原発被災者への義捐金が「収入」と認定され、生活保護費を差し引かれた(その後、収入認定しないことになったが)例を紹介し、「貧困を作って徴兵へ」という動きが進むことへの闘いを訴えた。

反貧困ネットワーク北海道からは、「貧困の問題とは自分の居場所がなくなるということ。人びとのつながりが密になる社会が必要だ」と強調した。



討論の中でSEALDsの小林さんは「生活できる雇用を求めて自衛隊に行き、死んだら『自己責任』ということになりかねない。この国がどういう状況を作り出しているのかを論議すべき」と強調した。福島からの自主避難者は「自主避難者の多くは母子避難だ。また避難区域指定が狭められれば、補償が打ち切られたところからどんどん困窮が増していく。なにが原発事故収束なのか!」と怒りを表明した。

キャバクラユニオンの女性は「組合で活動するようになったウツが治った。これまでキャバ嬢・ウツ・生活保護のサイクルの繰り返しだった。貧乏人が自己を取り戻す作業として組合活動をやっていると楽しい。誰かに相談すれば気持が楽になるという場が必要だ」と語った。

最後に山本太郎参院議員(生活の党と山本太郎と仲間たち)が「貧困に苦しむ人の生の声を議会に上げることが重要だと思って活動している。子どもの六人に一人が貧困というこの現実を変えなければ!」と訴えた。

最後に「集会宣言」(別掲)を大きな拍手で確認した。(K)



資料:反貧困全国集会2015集会宣言

死ぬのはイヤだ! 生きぬくためにつながろう!




子どもの貧困が注目されて大分時間がたった。2月、中学生の男の子が仲間に暴力を受け殺された。5人の子どもを抱えたシングルマザーの母親は、朝から深夜まで働いていたという。

子どもだけじゃなく、高齢世代の貧困も深刻だ。5月、川崎の簡易宿泊所で火災が発生し、10人が犠牲となった。居住していた74人のうち、70人が生活保護を利用し、多くは高齢者だった。

働く世代も大変だ。労働者派遣法が改悪され、働く土台はどんどん崩れている。

「生活が苦しい」と答えた世帯は62・4%(国民基礎生活調査)となり、過去最悪を更新した。

東日本大震災・原発事故から4年半が過ぎたが、いまだ約20万人もの人が避難生活を続け、多くの被災者が生活の不安を抱えたままだ。



すべての世代で貧困が拡大し、一部の富裕層に富が集中し格差が拡大している中で、政府は、社会保障費を年間3000億円から5000億円規模で削減する方針を決め、他方、軍事費は過去最大の5兆円規模まで膨らませ、9月19日、多くの市民の反対を無視して、戦争法を強行採決で成立させた。



貧困を悪化させ、格差を広げ、この国を戦争へと向かわせる政府を、私たちは認めない。誰もが、平和な社会で、人間らしく生きられることを保障している憲法を勝手に壊す政府を、私たちは認めない。人のいのとを軽んじ、人の尊厳を踏みにじる傲慢な政府を、私たちは認めない。

貧困で、そして戦争で死ぬのはイヤだ!民主主義の力で希望をつむぎ、生きぬくために、つながろう!

『賃労働と資本/賃金・価格・利潤』を巡る議論

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アジア連帯講座では、森田さんの新訳『賃労働と資本/賃金・価格・利潤』の発売すぐ、会員の間で話題となり、意見交換などが行われています。数か月前の意見交換ですが、10月18日の公開講座「現代から古典へ-- マルクスの経済学を学ぶ」での議論の参考までに紹介します。講座にもぜひお越しください。(H)


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カジノ推進法案を通すな!

無題利権に群がるマフィアと地域の破壊  根拠なき「経済効果」の大宣伝



「今国会で必ず」と躍起


安倍政権と自民党、維新の党、生活の党は、違法な賭博場建設の合法化にむけた「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」案(IR/カジノ推進法案)の臨時国会成立をめざして動きを加速化させている。法案は、カジノとともにホテル、劇場、イベント会場、国際会議場を併設するとしているが、あくまでも賭博場設置が柱だ。法案推進派は、先の国会会期末直前に審議入りを強行した。その推進役が超党派の国際観光産業振興議員連盟(カジノ議連/2010年結成、200人以上の国会議員が参加)だ。議連の会長は細田博之(自・衆)、最高顧問に安倍晋三(自・衆)、麻生太郎(自・衆)、石原慎太郎(次・衆)、小沢一郎(生・衆)、顧問に石井一(民・参)、下村博文(自・衆)、平沼赳夫(次・衆)、茂木敏充(自・衆)が就いている。


議連は2020年東京五輪とIR施設の建設期間から逆算して「臨時国会でのIR推進法成立がタイムリミット」だと居直り、10月前半の衆院通過を目指しているというのだ。公明党は、賛成の集約ができず慎重対応のポーズを示しているが、自民党との連立維持を優先して賛成していく流れを止めることはできない。しかも自民党は、維新の党、生活が相乗りしているから公明党抜きでも成立は可能だと恫喝しているほどだ。IR推進法の反動性を暴露し、制定阻止に向けて国会内外の取組みを強化しなければならない。

「成長戦略」「地方創生」の看板

IR推進法の目的として「第一条  この法律は、特定複合観光施設区域の整備
の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものであることに鑑み、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する基本理念及び基本方針の他の基本となる事項を定めるとともに、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより、これを総合的かつ集中的に行うことを目的とする」と明記した。冒頭からIR=経済振興、財政改善に直結すると、根拠も、調査も、検証も不十分であるにもかかわらず、とんでもない定義を行っている。

 


米国ニュージャージー州の大型ホテル「レベル・カジノ・ホテル」(2012年開業)が9月に閉鎖することを発表した(8月21日)。さらに同州の「アトランティック・クラブ・カジノ」「ショーボート・カジノ」「トランプ・プラザ」が次々と破綻した。「東のラスベガス」としてカジノビジネスで大もうけを企んだが、結局、カジノ乱立とギャンブルをしない観光客が増えたため廃業に追い込まれた。「病的ギャンブラー」(依存症)を多発させ、カジノ関連も含めた大量の労働者解雇を行い、地域経済を破壊しつくした。米国カジノ業界の衰退の流れは止まっていない。

 

だからラスベガス・カジノ運営企業であるMGMリゾーツ・インターナショナルが八月に来日し、東京都築地の中央卸売市場跡地をIR建設候補地として調査し、約1兆円を投資し、進出する計画を明らかにしている。日本マネーをターゲットにして国際的なカジノ資本が殺到することは間違いない。安倍政権とIR推進派は、米国カジノ業界の経済的社会的犯罪をどれだけ調査し、検証したのか。安倍首相にいたってはわざわざシンガポールのカジノを視察し、IRが「成長戦略の目玉になる」と豪語し(5月30日)、中味がなく大風呂敷の「地方創生」路線とIR建設はセットにしながら地域破壊を広げていくことは間違いない。


「ギャンブル依存症」問題


IR推進法は、国にIR設置区域の整備推進の責務を負わせ、民間の賭博事業者が国内に賭博場を開設することを認めるところに最大の獲得目標を置いている。成立後一年以内にIR解禁に伴う「実施法」を制定し、2016年に国が各地方公共団体の申請を受け付け→IR区域を指定→17年、IR建設地を決定→自治体がIR企業を選定→18~19年、ライセンス(運営許可証)の免許を申請し、取得→2~3箇所でIR開業というスケジュールだ。

 

グローバル派兵国家の構築の一環である「日本再興戦略 改訂 2014」(6月)でIR法制定について「統合型リゾートについては、観光振興、地域振興、産業振興等に資することが期待される」と位置づけ、成長戦略の要の一つとして明記していた。この結論ありきの文言をそのままIR推進法に組み込んでしまった。

 


だが賭博は、刑法で違法(賭博罪)だから「日本再興戦略」でもIR法制定について「犯罪防止・治安維持、青少年の健全育成、依存症防止等の観点から問題を生じさせないための制度上の措置の検討も必要なことから、IR推進法案の状況やIRに関する国民的な議論を踏まえ、関係省庁において検討を進める」と触れざるをえなかった。

 

IR推進法でも第十条で「政府は、カジノ施設の設置及び運営に関し、カジノ施設における不正行為の防止並びにカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行う観点から、次に掲げる事項について必要な措 置を講ずるものとする。

 

一 カジノ施設において行われるゲームの公正性の確保のために必要な基準の作成に関する事項

 

二  カジノ施設において用いられるチップその他の金銭の代替物の適正な利用に関する事項

 

三  カジノ施設関係者及びカジノ施設の入場者から暴力団員その他カジノ施設に対する関与が不適当な者を排除するために必要な規 制に関する事項                                                                      

四  犯罪の発生の予防 及び通報のためのカジノ施 設の設置及び運 営をする者による監視及び防犯に係る設備、組織の他の体制の整 備に関 する事項

 

五 風俗環境の保持等のために必要な規 制に関する事項

 

六 広告及び宣伝の規制に関する事項                                                                      

七 少年の保護のため必要な知識の普及その他の青少年の健全育成のために必要な措置に関する事項

 

八 カジノ施 設に入場した者がカジノ施 設を利用したことに伴い悪影響を受けることを防止するための必要な措置に関する事項」と明記した。

 

しかしこの1~8の規制条項について、なんら具体的に検証、論議が煮詰まっていないにもかかわらず、見切り発車でIR推進法の制定ありきで突進している。

 

とりわけIR推進法でIRによる「有害な影響」と一言触れているが、厚生労働省研究班(研究代表者=樋口進・久里浜医療センター院長)が「病的ギャンブラー」(依存症)に当たる人が推計で成人人口の4.8%、536万人(男性438万人、女性98万人)というかなり深刻な数字を明らかにしている(成人約4000人に面接調査)。海外での同様の調査では、米国(02年)1.58%、香港(01年)1.8%、韓国(06年)0.8%という結果があるが、日本の「病的ギャンブラー」率が突出している。研究班は「パチンコなど身近なギャンブルが、全国どこにでもあることが海外より率が高い原因ではないか」と分析しているが、IR建設によって「病的ギャンブラー」率が高まることは必至だ。


この悪法を葬り去ろう


内閣府の特命担当参事官は「分野は多岐にわたる。関係省庁がそれぞれ行う検討作業を統括するとともに、独自の調査、検討もすることになる」と言いながら、とにかくIR設置の合法化を先に決めて、後で審議会(弁護士、税理士、精神科医、カジノ専門家)をデッチ上げて、賭博場設置による諸弊害の対策と称するガイドラインを策定する狙いだ。IR法案に対しても拙速論議と強引な法案制定という安倍政権の体質をストレートに適用しているのが実態である。

 

先走っているのは、安倍政権だけではない。誘致を表明しているのは、北海道(釧路、小樽、苫小牧市が誘致立候補)、千葉(成田空港周辺の行政・地域ボス、千葉市幕張への誘致表明)、東京(フジテレビ、三井不動産、鹿島がお台場エリアの建設を狙う)、神奈川(横浜市が山下ふ頭への誘致表明)、和歌山(カジノと複合レジャー産業)、大阪(臨海部の人口島「夢洲」にカジノ建設)、宮崎(観光施設シーガイア(宮崎市)へのカジノ誘致)、長崎(大型リゾート施設ハウステンボス〈佐世保市〉を候補地)、沖縄(沖縄カジノ構想を立ち上げている)などだ。

 


悪のりは、これだけではない。IR関連会社であるセガサミーホールディングス、日本金銭機械(カジノ貨幣処理機)などの株価が上昇しているという。

 


いずれも各行政、資本、地域利権共同体が一体となって誘致運動を開始し、IR建設が「観光振興の切り札」「外国人観光客の誘致や地域活性化の起爆剤」などと根拠なしの願望を煽りたてている。産経新聞は、「経済効果は最大七兆円強に達するとの試算もある」(10.3)と応援しているが、この数字は米国の投資銀行CLSAが日本市場を対象にした金儲けのために積み上げた額であり、実体的根拠がまったくないものだ。

 

まだ法案が制定されていないにもかかわらず、なにがなんでもIR法案制定を狙っている安倍政権と推進派は、未確定な賭博による金儲け優先主義キャンペーンを強化しながら、先行して内閣官房に推進本部事務局(本部長・安倍首相)を設置し、その下に内閣府、財務、経済産業、総務、法務、国交、厚生労働の各省、金融庁、警察庁の官僚をかき集め、内閣府の外局に民間事業者の許可業務を行うカジノ管理委員会を設置する構想だ。

 

このようにIR法案は、賭博罪を合法化させ、政官財の利権共同体だけでなくゼネコン、地域ボス、ヤクザ、国際マフィアなどが群がり、地域経済を破壊し、多くのギャンブル依存症を多発させる超悪法だ。賭博促進のカジノ法案に反対していこう。


(Y)

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【10・18公開講座】現代から古典へ――マルクスの経済学を学ぶ

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現代から古典へ――マルクスの経済学を学ぶ


講 師 : 森田成也 さん

日 時 : 1018日(土)18:30~21:00

場 所 : 文京シビックホール会議室2(3F)

交 通 : 地下鉄「後楽園」、「春日」駅(地図

主 催 : アジア連帯講座

参加費 : 500円


参考図書 
『賃労働と資本/賃金・価格・利潤』
マルクス著、エンゲルス序文/森田成也 訳/光文社古典新訳文庫

日銀の「異次元の緩和」からはじまったアベノミクスの第二幕は「異次元の賃上げ」でした。安倍首相による財界への「賃上げ要請」や大手企業でのベアなども、物価上昇を勘案した実質賃金でみれば、賃金は下がっているという統計結果がでています。中小企業や非正規雇用で働く労働者にとっては、消費増税や社会保険料の引き上げなど、「安倍のベアという賃上げ騒動」は、まさに異次元の話でしかありませんでした。


アベノミクスはそれだけではありません。日本経済再生本部を頂点として、経済財政諮問会議や産業競争力会議、そして国家戦略特区などでブルジョアジーとその代弁者であるブルジョア経済学者たちが、ありとあらゆる労働者攻撃の主張をあけすけに展開し、実施にむけて牙をむいています。アベノミクスの「矢」はすべて労働者に向けられた攻撃なのです。


労働運動や革新系政党などからは、労働者を置いてけぼりにしたアベノミクスへの批判は高まり、春闘の時期には「賃上げで景気回復を」というスローガンが叫ばれました。労働者階級全体としての賃上げ要求は極めて正当な要求ですが、高度に成熟し、グローバルに展開する資本主義である日本社会における「賃上げで景気回復を」というスローガンは、搾取も戦争もないもうひとつの社会を目指すオルタナティブ派にとっては、「保守的なスローガン」(マルクス)です。


今回の講座では、賃金とは何か?を解明した古典『賃労働と資本』および『賃金・価格・利潤』の新訳を手掛けられた森田成也さんに、マルクスとエンゲルスがこの本のなかで展開した賃金論、そして現代経済の諸問題を考えるうえでマルクスの経済学を学ぶ意義などをお伺いします。

困窮と身分差別と弾圧のなかにある「わが国の指導的階級」?:中国全人代(その3)

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▲深センのIBM工場で2014年3月3日からストが続いている。
 労働者らは企業買収による待遇引下げへの抗議や契約解除補償を求めている。



3月5日に開幕した全人代は、李克強総理の政府活動報告を受け、各省および解放軍から選出された約2200名の代表が政府活動報告や国務院予算案の審議をおこなっている。

李総理の報告は、2013年活動報告、2014年の活動計画と重点を提起したものだが、ここでは労働者により直接関連する雇用問題についてみてみる。

政府活動報告で注目されたのは2014年のGDP目標といわれている。2013年は目標7.5%で実績は7.7%であった。2008年のグローバル経済危機の対応として実施した4兆元もの財政金融対策は、不動産バブルや無政府的建設ラッシュ、影の銀行騒動を引き起こし、いまだその余震(実際にはより巨大な本震の前震だが)は収まっていない。

李総理が主導する経済政策「リコノミクス」は、「小さな政府」「構造改革」「規制緩和」など新自由主義的色眼鏡をかけたブルジョアマスコミから過大な期待を寄せられてきた。しかし現指導部の経済政策の基本はそのようなところにあるのではない。グローバル資本主義における大国として党結成100年目にあたる2021年、そして建国100年にあたる2049年を「二つの100年」として盛大に迎えるために、党の支配のいっそうの近代化を目指している。そのための「改革の更なる深化」であり「リコノミクス」なのである。

習・李指導部はこの1年は「穏中求進」(安定の中で前進する)という総路線を位置づけ、李総理は、政府報告において「穏中向好」(安定の中でよい方向に向かった)と総括している。

李総理は昨年10月に開かれた中華全国総工会の16回全国代表大会で経済情勢に関する講演し、そのなかでGDPについてこう述べていた。

「GDP1%で130万から150万人の雇用を確保できる。新規雇用1000万人、都市部失業率4%程度を維持するには7.2%の経済成長率が必要である。我々が適度な成長を目指すのは、結局のところ雇用を守るためである。」

3月5日の政府活動報告によると、2013年の失業率は4.1%、新規雇用は1310万人を達成した。そして2014年の目標は新規雇用1000万人以上、都市失業率を4.6%とした。

全人代の第一副委員長(日本の国会の副議長にあたる)であり中華全国総工会の主席(会長)でもある李建国氏は、昨年の総工会16回全国代表大会の報告の中で「過去五年において調和ある労使関係の構築に努力し、労働関係は全体として安定していた」と総括している。

昨年のメーデーを前に全国の労働模範を集めた会議で習近平国家主席は、大慶油田の労働模範「鉄人」王進喜など歴代の労働模範を列挙し、「労働者階級はわが国の指導的階級であり、わが国の先進的生産力と先進的生産関係の代表であり、わが党のもっとも堅実で頼りになる階級的基礎であり、小康社会の全面的建設、中国の特色ある社会主義の堅持と発展の主力軍である」と持ち上げている。

だが現実はそのようなものではないことは、経済成長の裏で頻発するストライキによって「世界のスト大国」といわれていることからも明らかだ。

昨年の総工会16回代表大会で「労働関係は全体として安定していた」」と語った李建国総工会主席の報告は続けて以下のように述べて、少なくない労働者が生活に困窮していることをにじませている。

「過去五年のあいだに、延べにして4189.8万家庭の困難職員、困難労働模範の慰問を行い、困難職員と農民工3810.3万人を支援した。」

「社会主義の堅持と発展の主力軍である」はずの労働者階級が「困難」とは??


全人代開催の前日の3月4日、総工会の機関紙「工人日報」は、総工会出身の全人代代表らの活躍ぶりを報じる報道のなかで、つぎのように報じている。

「1980年代、インフレは労働者の生活に大きな影響を与えたが、工会[=労組]が最初に賃金と物価指数をリンクさせるように提起した。国有企業の制度改革において各級の工会はレイオフされた職員のために再就職や生活支援などの緊急支援をおこなった。」

1980年代のインフレでぼろもうけした官僚ブローカーに対する反発は、その後の民主化運動につながった。民主化運動の後期には総工会のなかからも民主化を求める声が発せられた。

国有企業の制度改革=民営化の過程で国有資産をただ同然で私有化した党官僚の腐敗を告発した労働者たちの抵抗は90年代末から2000年代初期にかけて全国に広がった。

しかし民主化運動は天安門で弾圧され、反民営化闘争は全国の工場や街頭で弾圧された。そのとき総工会は、労働者を支援するために何一つ動くことはなかった。国有企業のレイオフ・リストラは、2億6000万の農民工に対する過酷な搾取とあわせて、中国労働者階級の労働条件を大きく引き下げ、グローバル資本主義に利潤を保証した。

「更なる改革の深化」は累々たる労働者の階級的屍のうえに進められるといっても過言ではない。


新規雇用1000万人の掛け声は、中国で蔓延する派遣労働の前にかすんで見える。前述の「工人日報」は次のように報道している。

「2010年の全人代・政治協商会議では、労働界出身の委員が共同でこう訴えた。『2000万人の派遣労働者は早急に身分制度[雇用形態]の迷路から抜けだす必要がある』。しかし2012年にはこの数は3700万人に急増した。」

2008年の労働契約法施行以降、それまでも無規制に行われていた派遣労働が拡大した。2012年の同法改正で派遣労働は「臨時性、補助性、代替性」に限るとされたが歯止めにはならなかった。

2014年3月の労働契約法暫定規定の実施で派遣先の派遣労働者比率は10%という明確な規制数値が示され、偽装請負などへの罰則規定も盛り込まれたが、派遣比率については2年以内に実現すればよい、偽装請負など違法行為については賠償支払いすればよいというもので、派遣労働者が身分制度という迷路から抜け出すためのツールになるかどうかはきわめて疑わしい。

「スト大国」の中心の広東省の省都、広州では昨年8月、広州中医薬大学第一付属病院ではたらく職員ら100余名が違法派遣問題の解決を病院当局に申し入れてストライキを打った際、ストに参加していた警備員12人が病院のテラスから横断幕を掲げたことで「社会秩序騒乱罪」で逮捕され、現在にいたるも拘留が続いている。

同じく広東省の経済特区である深センでは昨年5月、工場移転に伴う正当な補償を要求した労働者がストを打ったが経営者が逃亡してしまい、政府に解決を訴えに向かった労働者たちが警察に拘束され、労働者の指導者と見られた呉貴軍がいまだに拘束されたままになっている。彼は「交通秩序集団騒乱罪」の容疑で起訴され、全人代開催日の3月5日に予定されていた第二回目の公判が理由もなく延期されている。

社会秩序を騒乱させているのは労働者でなく、社会の支配者の側である。


2014年3月7日 (H)

報告:10/26アジア連帯講座:公開講座 アベノミクスがねらう労働規制緩和 徹底批判!

無題 - コピー報告:遠藤一郎さん(全国一般全国協副委員長)

企業が世界で一番活動しやすい国づくり 雇用破壊攻撃、解雇特区・ブラック企業特区攻撃ゆるすな!





 安倍政権による労働分野の規制緩和攻撃は、特区構想も含めて事態はどんどん進んでいる。闘いの方向性について提起していきたい。



 ●労働法の変化の流れ



 小泉政権による構造改革は、「解雇をしやすくすれば、企業は安心して人を雇って、失業が減る」など言っていた。誰が聞いてもおかしいと思うが平気でこのようなことを言っていた。

 しかし小泉構造改革による行き過ぎた労働分野の規制緩和の動きに対して現場の労働運動と法改正の要求が結合して政治を動かした。

 第一がホワイトカラーエグゼンプションだ。第一次安倍政権の時に、労働政策審議会で建議までされて、法案要綱まで準備し、閣議決定して国会に提出する直前までいった。ところが私たちは、「過労死法案」、「過労死促進法案」、「残業ゼロ法案」だとして多くの労働団体が結集し、安倍は国会上程を断念した(2007年1月)。大衆闘争で法案要綱までできていたのに吹っ飛んだ。大きな出来事だった。

 リーマンショック後、派遣切りが起こり、年越し派遣村が作られていった(2008年12月)。派遣労働者が職を失うだけではなく、家がなくなり、生活のための賃金も失う状況を可視化させた。派遣企業は、派遣先から自分のマージンを取って労働者に賃金を払う。さらにそこから派遣労働者を管理するためのコンピューターに費用がかかるからと称してデータ管理費などをとっていた。派遣労働者は、二重のピンはねではないかと本社にむけて抗議行動をやった。

 例えば、私のところの組合で言えば、パナソニツクで二十数年近く働いていた佐藤昌子さんが派遣切りにあった。彼女は派遣ではないと思って働いていた。しかし、会社に色々と聞いてみたら派遣だった。2008年12月4日に「派遣法抜本改正日比谷集会・デモ」の集会で東北全労協から30人が闘争旗を林立させ、佐藤さんは壇上から発言を行った。さらに有期労働契約の規制緩和の攻撃に対しても反撃していった。

 このように労働運動と法改正を求める運動が結合しながら政治を動かしていった。それが自民党が敗北し、民主党政権に交代した(2009年8月)ことにつながった。労働者民衆の期待が民主党政権に込められる。中曽根から小泉まで日本の新自由主義的な攻撃と流れを転換させなければいけないのではないかという運動が起こり、自民党政権を退陣に押しやったという事態が進んだ。

 しかし民主党は、改正労働者派遣法、有期労働契約規制、高齢者雇用安定法に対して自民党政権はノーだと押し上げたエネルギーと比べ、きちっと実現させる立場をとれなかった。やがて民主党政権の変質と財界の巻き返しによって3つの法改正は、換骨奪胎、全く不十分な内容に終わる。

 大衆闘争の押し上げがあったが、政治的表現としては限界にぶちあたり、民主党政権に対する失望が拡大していった。労働法制だけの問題だけではなく、沖縄の問題とか、多くの問題について民主党政権の弱さが暴露された。民衆の期待が大きかったぶんだけ、その反動も大きく自民党政権への交代が再び起こり、安倍政権が登場した。労働運動の闘いの積み上げと、法改正へと結びついた流れが、残念ながら逆転してしまった。安倍政権の登場によって一挙に流れが反転した。



労働規制に穴を開ける



 安倍は、「日本を世界で一番、企業が活動しやすい国にする」と宣言し、成長戦略の柱とした。新自由主義路線の本質をそのまま、ものすごくわかりやすく表現している。国の首相は、少なくともこれまでの統治のあり方からすれば、国民全体を幸せにするという装いをともないながら、現実に資本の利益を追求する。そうでなければ国民統合ができなかったからだ。ところが安倍は、日本の政策目標の決定的な主語を企業にした。企業、財界の六重苦と言われる円高、高い法人税、FTAへの対応遅れ、労働規制、環境規制、電力不足を克服するということで、アベノミクス、TPP参加、原発再稼働・輸出で対応していくことを押し出した。残る最大の課題が岩盤のような労働規制に穴を開けるんだというのが安倍の成長戦略のポイントだ。

 すでにOECDの労働市場研究が世界の全体的な経済成長の限界、停滞のなかで、一国だけではなく、先進国の経済全体の危機の中でどのように乗り切るかと模索してきた。1980年代の終わりから90年代初頭に、その柱としてヨーロッパ大陸型の雇用のあり方を転換しなければならない、つまり緊縮財政と解雇規制緩和をはじめとする雇用破壊、労働分野の規制緩和、雇用改革が決定的だと方針を打ちたてた。

 さらに対日審査報告書を出し、日本的雇用関係の全面的批判をおこった。これに対して日本政府はまったく反対しなかった。この報告が基礎になって日経連が「新時代の経営戦略」(1995年5月)を提起した。このように緊縮財政、福祉の切り捨て、労働分野の全面的な見直し、搾取を露骨に行う流れが90年代から強まってきた。

 安倍政権は、もう一度、小泉構造改革の手法に戻って経済財政諮問会議、規制改革会議などの審議会、委員会を設置して、トップダウンで規制改革をやろうとしている。本来は、労働法制はILOの規制もあって、政労使の三者の構成による審議を経て、労働法の改正が進められるのだが、そういうあり方そのものを全部ぶっ壊して、上からやるというやり方だ。



 ●安倍政権の具体的狙い



 経済財政諮問会議、日本経済再生本部、規制改革会議、産業競争力会議は、全部、労働者の代表なしで進められている。八田 達夫、竹中平蔵、八代尚宏、鶴光太郎など名うての規制改革
論者が参加している。

 鶴光太郎は経産省上がりの慶応大学の教授で規制改革会議雇用ワーキンググループの座長だ。

 鶴報告は、①雇用維持型から雇用流動型へ。失業なき円滑な労働移動をめざす②正規・非正規二極化の是正、非正規労働の規制と待遇改善・均等待遇でなく③「正社員改革」ジョブ型(限定)正社員の普及・拡大、解雇ルールの明確化――を示した。

 経団連は今年四月に「労働法制提言」を行ったが、「労使自治の尊重」「良好な労使関係の下での労使自治に任せろ」という主張だ。つまり、「各規制を撤廃する方向で努力するのは当たり前だ」、「しかしその前提に牙がぬかれた良好な労使関係があるのだから、本来の労使自治にまかせろ」という主張だ。

 この間、これらが合わさって労働分野の規制緩和の議論が進行している。「日本再興戦略-JAPAN is BACKー」としてまとめ、そのうえで規制改革会議の実施計画を6月14日に閣
議決定している。

 雇用改革は、①限定正社員―多様な働き方、多様な正社員モデルの普及②労働時間法制の見直しだ。評判が悪いから「ホワイト・カラー・エグゼンプション」を再びやるとは言えずに裁量労働制条件緩和と提起している。さらに③労働者派遣法の見直し④有料職業紹介事業の規制改革を提起している。

 この四つを日本再興戦略として閣議決定した。財界は、解雇自由、ホワイト・カラー・エグゼンプション、有期雇用の規制緩和をねらっていたが載せることができなかった。だから有期と解雇の問題が残されているわけだ。



●多様な社員?



 厚生労働省は、日本再興戦略の着実な実施について9月18日に発表した。労働改革の次のように進行している。

 第1が「雇用維持型から労働移動支援型への政策転換」だ。

 これは労働運動をやっているものからすると大事な問題だ。これまでの雇用調整助成金から労働移動支援助成金へのシフトするということだ。今まで景気が変動すると、労使で交渉して申請をして、雇用調整助成金をもらう。生産が低下して仕事がない時に、助成金で生き延びる。再び景気が回復したら助成金を打ち切る。解雇をしない体制を作ってきた。

 ところが15年までに予算規模を逆転すると主張している。中小企業だけでなく大企業にも移動支援金を拡大すると言っている。

 すでに14年度予算案の労働移動支援助成金は、1・9億円から301億円へと概算要求している。雇用調整助成金は、前年には1175億円あったのを545億円にしてしまった。需要があるにもかかわらず削ってしまった。

 第2は、「民間人材ビジネスの活用によるマッチング機能の強化」を掲げた。要するにハローワークの民営化だ。

 第3が「労働者派遣法の見直し」だ。

 8月20日、「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が報告を発表した。続いて労政審の労働需給制度部会で審議を開始し、年内に結論を得て、14年度通常国会で法制上の措置を行う。

 審議は超スピードだ。1998年の労基法改正、有期法制改正を強行した労政審の審議のやり方と同じだ。

 報告の問題点は、派遣の全面自由化だ。つまり、派遣が全面的に自由化され、業務の規制もない、期間の規制もないというのだ。派遣が一般的な働き方だとなれば、企業中枢は持ち株会社だけ持っていれば、丸投げしてもかまわないとなってしまう。正社員のごく一部の幹部要員だけを残して、あとは全部派遣でいい、有期でいい、こういうことになってしまう。本来の派遣という間接雇用という働き方は、口入れを禁止した職安法44条の特例として生まれた。派遣が全面自由化されれば口入れ屋がどんどんはびこるのだ。

 「『多様な社員』の普及・拡大のための有識者懇談会」が9月10日に発足し「限定正社員」の普及・拡大にむけて一六年度中にまとめようとしている。

 「限定正社員」は、今だって一般職、総合職とかで正社員の種類がある。しかし、この「限定社員」を普及・拡大するという考え方は、処遇の低い、解雇しやすい第二正社員を作るということだ。アルバイト、臨時の非正規の労働者を第二正社員に引き上げていくのかというと、そうじゃない。

 これは大変なことだから、有識者懇談会でどういう手続をしたらいいか、本人同意がかならず必要だとか、色々と論議している。

 今の無法化している職場環境では、「君は第二正社員になってくれ」と言われれば、実質的な命令と同じだ。だけどいちおう本人の同意を得なければいけないみたいなことを有識者懇談会で論議している。



●日本再興戦略と国家戦略特区



 産業競争力会議の国家戦略特区ワーキンググループ(座長・八田達夫大阪大学招聘教授)は、日本再興戦略で盛り込めなかった雇用規制をめぐる問題を突破するために雇用特区を持ちだし(9月20日)、特例諸措置を設けることを提言した。

 「有期雇用」については、すでに労働契約法18条が4月1日に施行されている。五年有期で働いたら無期転換権を付与することになっている。しかしまだ誰一人、その法律の恩恵に預かった人はいない。五年たっていないからだ。しかしこの労働者の権利をもう一度なくしたいというのがねらいだ。

 第2は「解雇ルール」について。契約締結時に解雇の要件・手続きを契約条項について「特区で定めるガイドライン適合する契約条項に基づく解雇は有効となる」とした。契約締結時に契約条項を拒否できる労働者はほとんどいないだろう。

 例えば、3回遅刻したら解雇という約束をして雇った場合、解雇できるというのだ。さらに特約条項で企業に都合がいい条件を付して雇用して、その条件が発生したら解雇できることにしてしまう。例えば、企業の業績が停滞したら解雇する。契約が打ち切られる。そういうようなことができるようにするということだ。特区内は解雇自由になってしまう。

 第3が「労働時間」の問題だ。

 一定の要件を満たす(年収など)労働者が希望する場合、労働時間・休日・深夜労働の規制をはずして、労働条件を定めることを認めるというのだ。

 「雇用特区」設定について、さすがに厚生労働大臣は、憲法・労働法との関係から特例措置導入は無理と抵抗した。竹中、八田は、厚労省の省利益を代弁する大臣だとして、特区戦略会議に入れておくからいけないんだと言った。結果として、特区戦略会議をやる場合、担当大臣は外すことになった。

 憲法で認められた法の下の平等を無視してある特定の地域には、労働時間を八時間働いても、10時間働いても、同じ扱いでいいようなことを、36協定を結ばなければ残業ができないという労基法法規をごまかして労使で勝手にできるというのは、いくらなんでもできませんというのが当然だ。

 だが安倍は、これを制して、具体的提案の提示を厚生労働大臣に求めた。竹中は、大臣に向かって「できないことをやるのが特区なんだ」と言った。憲法違反をやれと言ったに等しい。

 さらに10月8日、ワーキンググループは最終決定(雇用条件の明確化、有期雇用の特例)を出したが、朝日新聞が「解雇特区」と報道した。八田と竹中は、朝日新聞に乗り込んで「誤報だ」と抗議し、「われわれは、この特区で働きやすい労働条件を守るための制度を作ろうと思っている」などと言った。



特区構想とは



 ワーキンググループの特区構想は、東京圏、名古屋圏、近畿圏を設定し、圏内に本社を置くところが対象となる。また東京に本社があり、特区の適用が受ければ、系列の全国工場が全部適応される。東京圏、名古屋圏、近畿圏は、日本の大企業はほとんど入っている。これは特区という名を借りた労働分野の規制の岩盤に穴を開けるということだ。

 ところが財界から文句が出た。3つの経済圏に入らないところにある企業は、まったく別の条件でやらなければならない。ひどいじゃないかと財界で文句が出た。

 最終的に特区内では、雇用条件の明確化と有期雇用の特例の二つに絞られた。雇用条件の明確化とは、「雇用労働相談センター(仮称)」を特区内に設置して、企業に「雇用ガイドライン」を適用して、個別の相談について対応すると言っている。しかし、この中身は、日本の解雇裁判の判例を資料にして、それを免れるために対応することだ。雇用条件について相談窓口を作り、解雇自由特区を作りたかったが、とりあえずこれでやらざるをえなくなった。

 有期雇用の特例では、5年の期間を取っ払って、有期雇用18条の適用を除外させたかったが、5年の有期の期間を10年に伸ばせと提言している。これは特区じゃなくて全国対象であり、労政審で検討せよと言っている。要するに今年4月1日に施行された法律を、また一からの有期規制の見なおしをやれというのだ。

 日本再興戦略で決めた労働分野の規制改革、特区でねらったものはかなり削った。だけれども特区のほうで切り縮められたから、いいかというとそうはいかない。もうすでに4項目は、どんどん進めている。



●反撃の視点



 労働の規制緩和は、派遣法、有期法、限定正社員などパックになって押しかかっている。つまり、職場の無法化地帯をねらっている。ブラック企業がどんどん増えていくことだ。

 この攻撃に反撃していくためには、個別労働法改悪の問題だけではなく、トータルで跳ね返していかなければならない。労働分野だけではなく安倍政権がやろうとしていることに対して反撃していくことだ。

 例えば、JAL争議の集会では、争議と憲法改悪反対の闘いを結び付けないと勝てないと強調していた。労働法制だけではなく特定秘密保護法、憲法改悪、集団的自衛権、原発、沖縄などの問題など安倍政権と全面対決する行動の中に労働分野の規制緩和を許さない闘いを行っていくことが求められている。

 職場の闘う勢力として物分かりが悪い、異議申立てができる、必要な時に実力行使ができる、そういう職場の力を、労働組合をどのように作るか。全体の政治状況の中で労働法制の改悪反対闘争と結びつけて、政治闘争を闘っていくことだ。この二つがないと喧嘩にならない。

 全労協は、今後、対労政審闘争に取り組み、広範な戦線づくり、共同闘争を追求していく。すでに労働法制プロジェクトを設置し様々な取組みを展開している。さらに安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクションにも参加している。

 労働は商品ではない、人間らしい労働と生活の確立!直接雇用原則、安定雇用原則、均等待遇原則を主張していこう。非正規雇用の規制こそ必要だ。入り口規制を!均等待遇の確立を実現しよう。

【報告】ブラック企業大賞2013授賞式

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 八月一一日、水道橋の在日本韓国YMCAで「ブラック企業大賞2013授賞式」が行われた。この企画は昨年から、労働組合、弁護士、ジャーナリストらによって企画委員会が作られ行われている。昨年のブラック企業大賞は東京電力である。

 以下、企画委員会がブラック企業大賞をつくった理由について紹介する。

 パワハラ、セクハラ、残業代未払い、長時間労働、派遣差別、偽装請負・・・。日本の労働環境はいまますます悪化の一途をたどっています。それらの職場はここ数年で「ブラック企業」と称され、社会的にも注目されつつあります。しかし個別事例の調査やその問題の発信・解決も簡単ではなく、ブラック企業で働く当事者は、不当な処遇を受けていても声をあげられる状況ではありません。さらにはブラック企業を生み出す社会・経済的な構造についての分析や提言についても不十分であるため、きわだったブラック企業の存在は一時的に取り上げられても、企業全体・働く場全体の質の向上にはなかなか結びついていません。そこで私たちは、ブラック企業の個別の事例はもちろんのこと、それら企業を生み出す背景や社会構造の問題を広く伝え、誰もが安心して働ける環境をつくることをめざして「ブラック企業大賞企画委員会」を立ち上げました。

ノミネート企業選定について

 ブラック企業とは・・・・①労働法やその他の法令に抵触し、またはその可能性があるグレーゾーンな条件での労働を、意図的・恣意的に従業員に強いている企業、②パワーハラスメントなどの暴力的強制を常套手段として従業員に強いる体質を持つ企業や法人(学校法人、社会福祉法人、官公庁や公営企業、医療機関なども含む)。


 Web投票と当日の集会参加者の投票で全体の七割、二万数千票を獲得したワタミが2013ブラック企業大賞。ワタミは二〇〇八年、社員(当時26歳)を入社二カ月で過労自殺においやった。創業者である渡辺は遺族からの面談も謝罪も拒否している。教育的指導賞はいわゆる「追い出し部屋」で従業員から訴訟を起こされたベネッセコーポレーション、特別賞は薬学部助手が研究室から投身自殺した東北大学、業界賞は入社一年目の女性正社員が過労死し、労働災害として認定されたクロスカンパニー。

 このほかサン・チャレンジ(ステーキのくいしんぼ)、王将フードサービス(餃子の王将)、西濃運輸、東急ハンズの合計八社がノミネートされていた。

 ブラック企業大賞2013授賞式は昨年の受賞企業と今年度のノミネート企業八社の内容を紹介した(随時、次号以降本紙に掲載予定)。そして、昨年の受賞企業のその後が報告された。

 昨年の大賞の東京電力は福島原発事故の責任ということではなく、原発労働者の健康破壊や偽装請負での問題が指摘された。五日前に、福島第一原発で働いている労働者一万人以上が年間五ミリシーベルト以上の被曝をしていることが分かった。今後白血病を発症する可能性があるが確かなことは誰も分からない。東電は対応できない。また、社内アンケートで一万二千人の半数が偽装請負の経験があると回答した。新たな事実が発覚した。

 ありえない賞の牛丼のすき屋のゼンショー。首都圏青年ユニオンの闘いによって、残業代を一万人以上の従業員に払わせた。二〇〇六年以来、団交拒否していたのも再開した。目茶苦茶な扱いを受けていたが組合員になれば成果をあげることができる。ブラック企業をなくしていける。

 特別賞の天気予報を配信しているウェザーニュース。二〇〇八年過労自殺が起きた。研修と称して「追い出し部屋」を作った。それに対して外国人組合を結成して闘っている。事態は変わっていないが自分で闘っていくしかない。報道され応援が増えたのは心強い。


 次に「追い出し部屋」をキーワードにして実例が報告された。「朝日新聞」が二〇一二年一二月三一日にパナソニックの追い出し部屋について大きく報道した。一〇〇人がそこに追いやられ、結局三〇人以上が会社を辞めたとのこと。二〇一三年一月、厚労省がシャープ、ソニー、NEC、朝日生命に調査に入った。集会では文芸社などの実態が明らかにされた。

 特別報告として、郵政産業ユニオンの丹羽良子さん(郵政非正規社員の「定年制」無効裁判)が自爆営業について報告した。

 「一万二千人の非正規労働者が六五歳定年制で解雇されたが九人が雇用の継続を求めて提訴して闘っている。年賀状、かもメール、イベント小包、各地の名産品の小包にノルマが課せられる。ある支店の場合、年間で小包四〇個、かもメール三〇〇枚、年賀状二五〇〇枚。達成するためには自分で買い取る=自爆するしかない。会社から現金と引き換えで渡され、それを金券ショップに持ち込み換金する。正規・非正規も同じように扱われる。自分の場合も給料の三分の一から四分の一になってしまったことがある」。
 「目標額と売り上げを職場に張り出している。正社員になるにはノルマを達成しなければならないという恐怖感を利用している。生活できる賃金で雇うのが当たり前ではないか。郵政会社は知られざるパワハラ職場だ」。


 参加者が投票した後、すさまじい企業トップのブラック語録が紹介された。そして、大賞など各賞が発表され、最後に佐々木亮さん(労働弁護団事務局長)と竹信三恵子さん(ジャーナリスト、和光大教授)がまとめのトークを行った。

 佐々木さんは次のようにまとめた。

 「七〇社ほどピックアップした。順番をつけたりするのは本来いけないのかもしれないが、知らせることが重要だ。被害に合っているのは若者だ。正社員は転落すると非正規しかない、がんばる。これにつけこんでブラック企業ができる。労働者の意識を麻痺させる。だれかに相談することが重要だ」。

 「長時間労働の問題、過労死などたくさんある。精神疾患が増えている。これを防ぐ法律的仕組みが必要だ。厚労省が監視の取り組みを始めた。行政が何をするのか監視する必要がある」。

 竹信さんがまとめを提起した。

 「今回の特徴は大学や企業イメージのよい会社が入ったことだ。これは日本社会にはびこり、根づいていることだ。共通点は法律に反した労務管理、労働者の生存権をおびやかしている、ビジネスモデルになっている、長時間働かせている」。

 「かつて、日本の企業は労働者への拘束度が高く問題が多かった。例えば企業ぐるみ選挙、家畜のような社員を社畜と言った。国労組合員を解雇するための人材活用センター(追い出し部屋の大規模なもの)。このように企業戦士と言われ、日本の風土のように言われる根強いものがある」。
 「ではなぜ労働者は許容したのか。それは、保障はちゃんとするという高保障の約束だった。それがなくなっているのになぜ従っているのか。今の問題点。①正社員は非正規になりたくないのでしがみつく②会社はそういうものだと思わされている③就活が厳しいので、拾ってもらったらよいと思わされている。利益のために何をやってもよいという新自由主義と前の土壌の高拘束を使っている。このふたつを見直し二正面で闘わなければならない」。

 「ピンポイントだけでなく全体を変えていく。洗脳に負けず、外に優しい、緩やかなネットワークをつくる。その先に労働組合がある。非正規・正規職差別問題は同一労働・同一賃金がない、これを取り戻す闘いだ」。

 労働現場で何が起きているのか、知る手がかりになる重要な集会であった。(M)

2013ブラック企業 ノミネート企業

 選定基準は「労働法やその他の法令に抵触し、またはその可能性があるグレーゾーンな条件での労働を、意図的・恣意的に従業員に強いている」「パワーハラスメントなどの暴力的強制を常套手段として従業員に強いる体質を持つ企業や法人」。

 ワタミ・東北大学・餃子の王将・東急ハンズ・西濃運輸・ステーキのくいしんぼ・ベネッセ・クロスカンパニーの8つがノミネートされており、それぞれについて一体どういう理由でノミネートされたのかは以下のとおりとなっています。


◆ワタミフードサービス

hdr_logo居酒屋チェーンや介護事業を全国展開している同社では、2008年6月に正社員だった森美菜さん(当時26歳)が、厚生労働省が定める過労死ライン(月80時間の残業)をはるかに上回る月141時間の残業を強いられ、わずか入社2カ月で精神疾患と過労自殺に追い込まれた。昨年2月に労災認定されたあとも、同社は責任を認めることなく、創業者である渡辺美樹会長は遺族からの求めに応じず、いまだに面談も謝罪も拒否している。

 亡くなった森美菜さんは連続7日間の深夜労働、午後3時から午前3時半の閉店まで12時間働かされた。閉店後も遠く離れた社宅には始発電車まで帰ることもできず、休憩室のない店舗で待つしかなかった。ほかにも休憩時間が取れない、休日出勤、強制的なボランティア活動、早朝研修、給料から天引きで買わされた渡辺会長らの著書の感想文提出などで疲労は蓄積した。残業に関する労使協定(36協定)も店長が指名したアルバイトに署名させるという違法行為が労働基準監督署から是正指導を受けた。

 遺族と支援する労働組合は、森美菜さんの労働実態と原因の解明のために経営者ら責任ある立場の人との面談を同社に求め続けているが、同社は顧問弁護士のみとの面談を除いて応じる姿勢を見せていない。逆に同社は昨年11月、遺族を相手取って同社が支払うべき損害賠償金の確定を趣旨とした民事調停を申し立てた。

 報道によると、同社が全社員に配布している「理念集」という冊子には「365日24時間死ぬまで働け」と書かれているという(『週刊文春』2013年6月13日号)。


◆クロスカンパニー

logo 人気女優の宮崎あおいをCM起用したメインブランド “Earth Music&Ecology”で若い女性に人気の企業であり、また、店舗従業員も含めて、全員が正社員として雇用されているとして一部で「女性社員の働きやすい企業」として宣伝されている企業だが、その労務管理には、大きな問題があった。

 2011年2月9日、立川労働基準監督署は、入社1年目の女性正社員(2009年10月死亡)が極度の過労・ストレスにより死亡したとして労働災害として認定している。この女性社員は、大学を卒業した年である2009年4月にクロスカンパニーに入社。同年9月に都内の店舗の店舗責任者(店長)に任命された。店長就任以来、日々の販売の他に、シフト・販売促進プランの入力、レイアウト変更、メールによる売り上げ日報・報告書の作成、本社のある岡山での会議出席などに追われた。スタッフが欠勤連絡のために、深夜0時や早朝5時に携帯電話に送ってくるメールにも自宅で対応しなければならなかった。勤務シフトは通常3~5人で組まれていたが、相次いで3人退職した後も会社は人員を補充しなかった。売り上げ目標達成に対する上司からの追及は厳しく、マネージャーから店長に「売上げ未達成なのによく帰れるわねぇ」という内容のメールが送られてきた。

 亡くなった女性のノートには、本社のある岡山での会議で「売り上げがとれなければ給料も休みも与えない」旨の指示があったことが記されている。この女性は、働いても働いても売り上げ目標が達成できないので、2009年9月には、売上額を上げるために自分で計5万円以上も自社商品を購入していた。彼女の2009年9月の時間外労働は、労働基準監督署の認定した時間だけでも少なくとも111時間以上だった。そして、極度の疲労・ストレスの中、2009年10月に亡くなった。


◆ベネッセコーポレーション

header_ci 2009年、人事を担当する人財部のなかに「人財部付」という部署が新設された。ここに配属された女性社員は、「あなたたちには問題があります。受け入れ先を獲得する活動をしなさい」と上司から指示された。電話に出ないように指示され、名刺も持たされなかった。社内ネットにもアクセスさせなかった。自分を受け入れてくれる部署をさがす「社内就職活動」をしながら単純作業をするように命じられていた。また、他部署をまわって雑用をもらってくることも命じられた。

 仕事の大半は、段ボール箱の片づけや懐中電灯へのテプラ貼りなどの単純作業だった。「再教育」は名ばかりで、単純作業をやらせることによって、社内には仕事がなく、退職以外には方法がないと思い込ませる場として設置されていた。ベネッセ側は、「『人財部付』は従業員の配属先を決めるまでの一時的な配属先。退職を勧めるための場ではない」と主張していた。

 2012年8月、東京地裁立川支部判決(中山典子裁判官)は、人財部付が「実質的な退職勧奨の場となっていた疑いが強く、違法な制度」と判断し、この部署への異動も「人事権の裁量の範囲を逸脱したもの」として「無効」を言い渡している。


◆サン・チャレンジ(ステーキのくいしんぼ)

header 2010年11月8日午前1時ごろ、株式会社サン・チャレンジ(本社東京都渋谷区 上田英貴代表取締役)が運営するレストランチェーン「ステーキのくいしんぼ」渋谷センター街店の店長だった男性(当時24歳)が、店舗が入居するビルの非常階段の踊り場で首吊り自殺した。男性の自殺は、2012年3月に渋谷労基署が過労によるものと認定。同署が認定したところでは、男性が亡くなる前8カ月間(4月1日から11月7日)の残業時間は最も少ない月で162時間30分。最も多い月で、227時間30分に達していた。またこの間に男性が取得できた休日はわずか2日のみであり、亡くなった当日まで連続90日勤務していた。

 これほどの長時間労働をしながら、男性は名ばかりの「管理監督者」として扱われ、残業代、ボーナスも支給されていなかった。また、やはり渋谷労基署が事実として認定した内容によれば、男性上司から「ひどい嫌がらせやいじめ、または暴行」を受けていた。「業務の指導の範疇を超えた、人格否定または罵倒する発言」が執拗にあったほか、「時には頭を殴るなどの暴行も行われていた」という。


◆王将フードサービス(餃子の王将)

ohsho 2013年2月5日、「餃子の王将」で働いている25歳の男性が、王将フードサービスを相手取り損害賠償を求める裁判を起こした。男性ははじめアルバイトとして王将で働き始め、10カ月後に正社員として登用される。京都府内の店舗で調理などの業務を担当していたが、長時間労働のためにうつ病を発症し、11年4月から休職を余儀無くされている。うつ病を発症する直前の6カ月の時間外労働は平均して月に約135時間だった。男性のうつ病は、労災として認定されている。

 餃子の王将では労働時間管理をコンピュータで行っており、1日10時間を超える労働時間は入力できない仕組みになっている。このように、組織的に残業代の不払いを行っていたことも明らかとなった。原告の男性は、マスコミに対して「何やと思ってんねやろう、人を」とコメントしている。また、王将フードサービスは、過酷な新人研修についても度々報じられている。逃げ場の無い合宿形式で行われる研修では、「2メートルでも瞬間移動」などの指導に始まり、「王将五訓」の暗唱や王将体操などをさせられる。一連の研修は、「人権」の考え方を「ペスト菌」のようなものだと主張する染谷和巳氏の経営するアイウィルが請け負っており、パワハラとみなされてもおかしくない状況が延々と続く。



◆西濃運輸

picture_3kv6hoqdmvnte4b0b5jq4atoi5_20091118091309 岐阜県に本社を構え、「カンガルーの西濃」として知られる運送大手の西濃運輸。神奈川県内の支店で事務職をしていた23歳の男性が、2010年12月31日にキャンプ場で硫化水素を発生させて自殺した。「毎日12時間以上働かせ、サービス残業を強要した」などと遺書に綴っていた。

 男性は2007年3月に入社し、荷物管理やクレーム対応などを担当していたが、タイムカードを実際の帰宅より早い時間に押させられて恒常的にサービス残業を強制されてうつ病を発症。亡くなった月の残業時間は98時間だった。

 西濃運輸の過労死事件が特に悪質な点は、2009年11月以降、三度にわたり男性が退職を申し出ているにもかかわらず、会社側がそれを拒否していたところにある。一度ならず三度にまでわたり退職を拒否し、一年以上仕事に縛り続けたのであるが、もし退職できていれば、男性は命を落とさなくて済んだかもしれない。

 その後、労働基準監督署で彼の死は労働災害として認定されたが、遺族に対する真摯な反省などもないため、男性の両親は2012年12月8日に同社に対して慰謝料や時間外労働の未払い賃金など約8100万円の損害賠償を求める裁判を横浜地裁に提訴している。報道によれば、男性の母親は、「会社側はサービス残業の実態を認めず、反省していない」「改善して墓前で謝ってほしい」などと話している。


◆東急ハンズ

header_logo 生活雑貨の大手量販店として有名な「東急ハンズ」では、バレンタインデー商戦の裏で30歳の男性が命を落としている。男性は、1997年に東急ハンズに入社し、1999年から心斎橋店(大阪市中央区)の台所用品売り場を担当するようになった。亡くなる直前には、チームリーダーを務め、7000点の商品の仕入れから販売までを管理しながらアシスタント3名の指導も担当していた。亡くなる直前の2カ月間はバレンタイン商戦などの繁忙期で、時間外労働は平均して月に約90時間を数えた。そして、2004年3月、帰宅後に「しんどい、もう限界や」と話した後、心臓に異常をきたして就寝中に突然死した。

 2013年3月13日、神戸地裁で遺族が東急ハンズに対して損害賠償を求めた訴訟の判決が下り、東急ハンズは約7800万円の支払いを命じられる。長井浩一裁判長は、長時間労働からくる睡眠不足で心身が不調をきたしていたことにくわえて上司から怒鳴られるなどの精神的ストレスがあったことを指摘し、男性の死を過労死と認めた。また、「残業は指示していない」と主張する会社に対して、「会社側が設定した残業制限時間では、こなせない仕事量になっていたのが実情。カウントされない不払残業が構造的に行われていた」、「会社は業務軽減などの対策をとらずに単に残業の規制をしただけ」だと評価し、安全配慮義務違反を認めている。


◆国立大学法人東北大学

site-title 2007年12月、東北大学薬学部助手の男性(当時24歳)が「新しい駒を探して下さい」との遺書を遺し、研究室から投身自殺した。

 同大大学院薬学研究科博士課程に在籍していた男性は07年6月、「人手不足」との理由で指導教授から請われ退学し、助手に就任。当初の話では学位取得のための研究を優先できるはずが、実験機材の修理や実習指導に忙殺され、自殺直前2カ月の時間外労働は104時間、97時間だった。また07年10月からは指導教授の指示により、生殖機能異常などの副作用がある抗がん剤の実験に従事。排気も十分にできない環境で、ほぼ一人だけでの実験を強いられ、友人達に「もう子どもはできない」と漏らしていたという。このような環境にもかかわらず指導教授は、「仕事が遅い。他の子を採用すれば良かった」などと男性を叱責。自殺前にはうつ病を発症していたと見られている。12年3月に宮城県労働局が「業務上の心理的負荷が強い」として過労自殺と認定。12年12月には、遺族が大学側に安全配慮義務違反があったとして、仙台地裁に約1億円の損害賠償を求める訴えを起こしている。

 さらに東北大学では12年1月にも、工学部准教授の別の男性(当時48歳)が自殺している。この准教授は、室温でリチウム高速イオン伝導を示す水素化物の開発に世界で初めて成功するなど、学会で注目を集めていたが、11年3月の東日本大震災で研究室が全壊。再開を目指し、授業と並行して国内外に93日出張するなど奔走したものの、ようやくメドがついた12年1月、大学側から「2年以内の研究室閉鎖」を一方的に告げられた。心のバランスを崩した彼は、そのわずか半月後に自ら命を絶った。

 男性の死後、遺族は労災を申請し、2012年10月に「過重労働の恣意的強制があった」と認定された。

報告:6.14〝骨太は弱いものイジメだ!〟生活保護改悪反対のスタンディングアクション&緊急院内集会

jpg6月14日、「STOP!生活保護基準引き下げ」アクションは、安倍政権の民衆の生存権・生活破壊につながる骨太の方針(「経済財政運営と改革の基本方針)の閣議決定(6月14日)に抗議する「〝骨太は弱いものイジメだ!〟生活保護改悪反対のスタンディングアクション&緊急院内集会」が行われ、全国から200人以上が参加した。

 安倍政権の「骨太方針」)は、消費税増税の強行(14年4月8%、15年10月10%引き上げ)、社会保障費について「聖域とはせず、見直しに取り組む」と明記し、一方では大型公共事業など大資本とゼネコンが大喜びの政策を柱にしている。この骨太決定と連動して生活保護法を改悪する動きが加速している。すでに衆院本会議(6月4日)で可決し、参院でも採決を強行し成立させようとしている。改悪法案は、多くの批判によって申請書や添付書類の提出を必須の要件とはしない内容に修正したが、親族の扶養を事実上生活保護の要件とすることなどはなんら修正されていない。これでは生活保護申請をためらうケースが多発化することは必至だ。さらに後発医薬品の事実上の使用義務づけ、被保護者の生活上の責務、保護金品からの不正受給徴収金の徴収なども提示している。つまり、生活困窮者を制度から排除するために設定したのである。生存権を否定する改悪法案の制定を許してはならない。



改悪法案制定反対!



 首相官邸前のスタンデスングアクションは、「骨太方針は弱いものイジメだ!社会保障の切り捨てをやめろ!生活保護法の改悪をやめろ!私たちの命綱を断ち切るな!人の命を財源論で語るな!」のシュプレヒコールから始まった。

 稲葉剛さん(自立生活サポートもやい)から開催あいさつが行われ、「今日の午前に安倍政権は、骨太方針2013を閣議決定した。社会保障削減にねらいがあり、とりわけ生活保護費のさらなる削減を主張している。改悪は、介護、医療、年金などに影響が広がり、生活破壊そのものだ。法案の制定を許さない」と強調した。

 埼玉の男性は、生活保護申請時の役所の窓口で「水際作戦」によって何回も追い返されたことを告発し、改悪によってさらに強化される危険性を糾弾した。続いて生活保護受給者、障がい者、福島の女性などから改悪反対アピールが行われた。

 アクション終了後、衆議院第一議員会館で緊急院内集会が行われた。

 基調講演を布川白佐史さん(法政大学教授)が「現在の生活保護をとりまく情勢と課題」をテーマに提起し、改悪法案を批判した。

 役所窓口での「水際作戦」の録音が紹介され、人権否定の追い返しの実態が明らかになった。

 田村智子参議院議員(日本共産党)から参院での改悪法案の審議状況、六月二一日に採決強行に踏み込もうとしていると報告し、最後まで全力で闘うことを表明した。

 最後に法案阻止にむけて反対キャンペーンを強化していくことを確認した。(Y)
 

【報告】5.3 2013野宿者・失業者・持たざる者のメーデー

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12時45分より、恵比寿公園で始まった集会では山谷争議団、渋谷のじれんの仲間が司会に立ち、今メーデーは1、野宿者への排除・追い出し、差別襲撃を許さない!。2、生活保護切り下げ、社会保障削減をやめろ!。3、東日本大震災被災者、被曝労働者連帯!。という3点を基調に行われるという事を確認して集会は始まった。

 続いて実行委員会を代表して府中人権派遣村の仲間より、「メーデー宣言」が読み上げられ、全体の拍手で確認された。

 そして実行委員会参加団体の発言、まずは市部の仲間から、三多摩野宿者ネットワークの立川サンキューハウスの仲間は安倍政権による改憲、原発、社会保障・生活保護切り捨てなどの攻撃との対決を訴えた。さらに府中人権派遣村、夜回り三鷹、三多摩自由労組の仲間が発言した。

 次に23区東部圏の発言。江東区による排除と闘っている竪川河川敷公園の仲間、荒川河川敷で国土交通省の追い出しと闘う仲間、アルミ缶・古紙組合、山谷争議団の仲間が発言。

 続いて東部圏から渋谷・のじれん。

 さらに竪川での被弾圧者の園さん、被曝労働を考えるネットワーク、ストップ!生活保護切り下げアクションが発言。

 被曝労働を考えるネットワークの仲間は除染労働者が過酷な労働に従事しながら、重層的下請け構造の中でピンハネされ、低賃金で働いている実態を報告し、被曝労働者との連帯を訴えた。

 集会の後、約160人の参加者は、恵比寿から渋谷一周のデモへ。宮下公園での総括集会ではAPFS労働組合、差別排外主義を許さない連絡会、反五輪の会、争議団連絡会議、自由と生存のメーデー実行委員会の発言を受けて、この日の行動を終えた。     (板)

【新刊紹介】さんいちブックレット『原発事故と被曝労働』

原発事故と被曝労働
さんいちブックレット『原発事故と被曝労働』/被ばく労働を考えるネットワーク編/1000円
 
 本書は、「『3・11』後の被ばく労働の実態」と「深刻化する収束・除染作業、拡散する被ばく労働現場からの報告」を中心にした第一弾の告発本だ。同時に「被ばく労働問題を一部の専門家や労働運動の課題に閉じこめず、社会的に提示して、大衆的な反/脱原発の取り組みにきちんと位置づける」ことを強調する。

 すでに福島第一原発事故の収束作業に約2万人の労働者が投入された。放射線被ばくを避けることができずに過酷な労働が強いられ、しかも重層的下請構造の中でいいかげんな安全対策、ピンハネの横行、低賃金等々、深刻な人権・生存権破壊が拡大している。さらに原発事故によって拡散した放射能は、すべての労働者も被ばくしてしまう事態へと追い込んでいった。

 このような事態の中で被ばくに関係する労働問題の情報を共有し、検討し、共同で取り組む連絡組織として「被ばく労働を考えるネットワーク(準備会)」(2011年10月)が出発した。「どう取り組むか被ばく労働問題 交流討論集会」(12年4月22日)を行い、労働者の命と安全を守るための運動、被ばく労働に関する労働相談の実施と運動化・組織化、政府・自治体・事業者に対する取り組みなどをテーマに論議を深めた。この討論集会で提起した仲間たちの発言が丁寧に収録され、明日にむけた実戦書としてまとめられている。



 巻頭でなすびさん(山谷労働者福祉会館活動委員会)は「被ばく労働に隠されている原発の本質とこの社会の闇」を暴き出し、「被ばく労働をめぐる問題の深刻さ・根深さ」を解き明かしていかなければならないとアピール。続いて西野方庸さん(全国労働安全センター連絡会議)が「被ばく労働をめぐる政策・規制と福島の収束作業」を解説する。

 「さまざまな労働現場に拡がる被ばく問題」では松本耕三さん(全港湾書記長)、岸野静男さん(東京清掃労働組合一組総支部委員長)、中村光男さん(全国日雇労働組合協議会)、北島教行さん(フリーター全般労働組合)が各現場から報告。

 「福島現地の現状と家族の声」では、桂武さん(いわき自由労働組合書記長)、木幡ますみさん(大熊町の明日を考える女性の会)、木田節子さん(原発作業員の家族)が訴える。

 最後になすびさんが「除染という新たな被ばく労働」で「除染事業をめぐる制度整備や労働者の安全確保の体制は、付け焼刃的で不十分だ。除染―帰還―復興という流れの中で、除染事業はゼネコンにとってうまみのある新たな産業領域の公共事業として走り出してしまっている」と批判し、被ばく労働問題の社会的取り組みの重要性を再確認した。



 被ばく労働を考えるネットワーク準備会は、この一年間の取り組みの成果のうえで11月9日に「被ばく労働者に安全と権利を!11・9『被ばく労働を考えるネットワーク』設立集会」(午後6時半/江東区亀戸文化センター(カメリアプラザ)5階 第 1、2会議室/総武線、東武亀戸線「亀戸駅」下車徒歩二分)を行う。集会は、①福島における労働問題と被ばく問題=いわき自由労組②原発事故以降の被ばく労働に関する問題提起=神奈川労災職業病センター③福島での相談活動の呼びかけ=被ばく労働を考えるネットワーク準備会が報告する。

 翌日、アジア連帯講座の主催で「いわき自由労働組合の報告『労働者を襲う解雇・失業・被曝労働に抗して』」をテーマに桂武さん(いわき自由労働組合書記長)、齋藤春光さん(同組合員)が報告する(11月10日(土)/午後6時30分/文京シビックセンター(障害者会館3階C会議室)〔地下鉄三田線春日駅下車〕)。桂さんは、自由労組の労働相談活動、除染労働者の組織化などについて報告する。齋藤さんは、「脱原発運動の課題と今後」をテーマにいわきでの脱原発運動、被ばく問題を問題提起する。

 11・9「被ばく労働を考えるネットワーク」設立集会、11・10アジ連公開講座「いわき自由労働組合の報告」の事前学習として、ブックレット「原発事故と被曝労働」は必読書である。ともに被ばく労働問題を取り組んでいこう。(Y)

【報告】10月20日、竪川で芋煮会

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 10月20日(土)竪川河川敷公園で芋煮会がおこなわれ、40人ほどの人々が集まった。

 この芋煮会はこの数年、江東区による竪川の野宿者排除が激しさを増して以降、毎年秋に行われてきた。今回で3回目。


 竪川では09年より始まった公園改修工事に伴い、野宿者の排除が行われてきた。特に昨年暮れから今年始めにかけておこなわれた行政代執行では代執行の指定地域外へ引っ越した仲間に対しては不当不法な暴力が行われ、引っ越しを予定しながらも残っていた1名の仲間に対しては、行政代執行が行われ、体調を崩したその仲間を救急車で他区の病院に運んだ後、路上に放置した。

 その後、江東区は公園を封鎖し、「野宿者が占拠しているため公園が使えなくなっている」などというデマ宣伝を行ってきたが、効果が無いと見ると、話し合いに応じてきた。

 これまで江東区との話し合いは3回を数え、地道に行われてきたが、4回目の話し合いの日程を調整中に突然、江東区が話し合いの打ち切りを、通告してきた。

 そして10月11日、テントの仲間たちに、「弁明機会付与通知書」が配布された。これは行政代執行を行うにあたり、弁明の機会を与えるという形式的なもの、この配布により、江東区が竪川の仲間に対して2回目の行政代執行を行うつもりである事が判明する。1年間に同じ場所に2回も代執行を行うとは前代未聞である。

 この事を知って、芋煮会には多くの仲間が参加した。みんなで野菜を切り準備した芋煮を食べながら、参加者が発言。経産省前テントからの仲間や、渋谷のじれん、竪川弾圧救援会、国土交通省による排除と闘う荒川の仲間、などが江東区の非道を多くの人々に伝え、仲間のテントを守るための大きな陣形を作っていこうと話し合った。

 後片付けを終えお開きとなった後、仲間のテント一部の引っ越しが行われた。引っ越し先は「副堤」、竪川河川敷公園は元々河川を暗渠にして、その上に公園が作られている。かつて河川であった時には堤防の外に避難路として幅3メートルほどの土地が確保されていた、それが副堤である。今は避難路の必要性が無くなったため、隣接する民家や企業が、物置をおいたり、植木をおいたり、中には家を増築していたりする。所有は都で、江東区が管理している。今回の代執行の対象地からは外れている。

 竪川の仲間たちは、強制排除ではなく、あくまで話し合いでの解決を望んでいる。そのために、対象地からの引っ越しを選択したのだが、江東区はあくまで強制排除を敢行する構えである。

 25日には公園内に残ったテントに対しての除却命令に職員40名、公安警察5名という陣容でやってきた。除却命令の期日は10月31日、この日までに出て行かないと、「代執行令書」が出され、行政代執行が行われる。

 幅堤に引っ越した小屋には警告書を貼っていった。11月1日までに撤去しろという内容だ。なぜ警告書を貼るのか?どういう事なのか?と聞くと、「河川法に基づく監督行為である」と江東区土木部、それではそれ以外の地域住民による「利用」に対してはなぜ「監督行為」を行わないのか?。

 竪川現地は今、きわめて緊迫した状況におかれているが、同時に野宿の仲間に心を寄せ共に闘おうという仲間の輪も広がりつつある。

 11月7日には江東区役所へ向けてのデモも予定されている。多くの仲間の結集を。(板)

 

 

 


江東区による竪川河川敷公園の野宿の小屋に対する2度目の行政代執行を許さない 

11.7 江東区役所包囲デモ 
午前11時 東陽町公園集合(東西線東陽町下車)、 11時半 集会、 12時デモ出発

【報告】「脱原発をめざす8.12労働者集会」が1260人の参加で大成功!

DSCF1289脱原発社会実現に向けた労働運動の第一歩

 「脱原発をめざす8.12労働者集会」が大成功!

 

"小出裕章が語る原発のない世界へ「放射線の現実を超えて」と題した「脱原発をめざす8.12労働者集会」"が、東京都江東区の「ティアラこうとう」において1260名の労働者市民の参加で開催された。この集会は、労働組合として「脱原発社会と実現していくための具体的取組み」の第一歩として、全港湾労働組合、国鉄労働組合、全日本建設運輸連帯労働組合、全国一般労働組合全国協議会、東京清掃労働組合、全水道東京水道労働組合、東京都労働組合連合会の7労組呼びかけに応えて結集した労働組合による実行委員会の主催で開催された。「お盆」休日でかつ残暑のなか、開会2時間くらい前から当日券を求める市民が集まり、協力券を持たない方を実行委員が断る対応が出るほどの盛況であった。



集会の始めに、大分県から駆けつけた「唄う農民」(シンガーソング・ファーマー)姫野洋三さんによる原発批判の楽曲「若狭の海」、原発予定地の上関の小学生が書いた「スナメリの唄」など、迫力ある歌が披露された。



労働組合のありかたが問われている

続いて、全港湾労働組合の伊藤委員長の集会基調報告が提案された。伊藤委員長は、「福島第一原発事故を受けて、これまでの労働組合が取り組んできた脱原発運動を今まで以上に取組みを強化すること。労働組合が推進勢力の一部として見られているが脱原発を掲げる労働組合が存在するということを明らかにし、再稼動を許さず、命を大切にし脱原発社会を実現する取組みを職場、地域から展開すること。何年も続くであろう放射能の汚染から命と暮らしを守る取組みを職場現場から作り出すこと。労働者被ばくに関しては、原発労働者の健康管理、汚染処理、廃棄物処理に携わる労働者の放射能安全対策を単に政府の法令や指針に基づく対策だけではなく、現場労働者の知恵を出し合い、情報交換しながら追求していくこと。地域運動、住民運動と連携して経済優先ではない命を大切にした社会のあり方を問いながら運動を進めていくこと。」を提案し、「さようなら原発1000万人アクション」を労働運動の側から担うことを表明した。

 

放射能が空気中に流れれば地球全体を汚染
 
koide小出さんの講演は、広島、長崎の原爆投下と世界で行われてきた核実験を示し、それによる放射能汚染の実態と原発を比較させながら話を始めた。広島原爆で燃えたウランの重量800gが放出した核分裂生成物と100万kwの原発1基が1年間運転することに燃やすウランの重量1トンで作り出される核分裂生成物を比較すると数千倍であり、800gで広島の町が廃墟になったが、これだけでも原発の危険性がわかるだろうと指摘した。そして、チェルノブイリ事故が8100km離れた小出さんが働く京都大学の原子炉実験所まで1週間後に飛んできたこと、その後20日経て地球を一周して戻ってきた調査資料を示し、放射能が空気中に流されれば全地球を汚染してしまうことを明らかにした。

この危険性をごまかしながら安全神話のもと推進派が取った対策は、「原発や核施設を都会に作らないこと」であり、原子力立地審査指針で示している内容は、原子炉の周囲は「非住居地域」で、その外側は「低人口地域」であることと原子炉敷地は「人口密集地帯」から離れていることと、都会で引き受けられない危険を過疎地に押し付けることであったこと、東電が所有している原発はすべて東北電力管内(福島、柏崎、東通)にあることを示し、差別、犠牲の上に原発政策があることを指摘した。

 政府は収束を宣言したが、福島原発事故は進行中であり、広島原爆の実に168発分のセシウム137が大気中に放出され、4号基は危機の状態が続いていること、東日本全体に拡散した放射能汚染のマップを示し、「放射線管理区域から1㎡あたり4万ベクレルを超えて放射能で汚れたものを管理区域外に持ち出してはならない」という法律があるが、福島県の東半分を中心に、宮城県と茨城県の南部、北部、栃木県、群馬県、千葉県の北部、新潟県、埼玉県と東京の一部地域が「放射線管理区域に指定しなければならないくらい汚染を受けたこと」を示し「福島県の人たちが私の実験室に避難してきた方がまだましなくらいだ」とその深刻さを明らかにした。

 

大人の責任として子どもを守る取組みを

小出さんは、「放射能で汚れた世界で生きていくしかない」として、どうするのかいくつかの課題を提起した。その第一は、この事態を許した大人の責任として「子どもを被ばくさせないこと」第二に「一次産業を守ること」だと提起した。第一の点について、「原子力を選んだことに責任のない子どもたち」は被ばくに敏感であり、内部被ばくも外部被ばくからも守ることを大人の責任としてやり切ることであると強調した。そして、放射能で汚染された農業、漁業、酪農、畜産業などをどう守るのか、福島の一次産業はこのままでは崩壊してしまうこと、基準値を更に低くしていく対策を求めながら、それを食べることも必要であり、「R18」の喩えを使って、年齢別の使用制限をかけることなどみんなで知恵を出し合うことを訴えた。



労働運動の奮起が求められている

まとめとして、労働組合に期待するとして小出さんは、東京電力労働組合新井幸夫中央執行委員長が中部電力労働組合大会で「裏切った民主党議員には、報いをこうむってもらう」「不法行為はない。国の認可をきちっと受け、現場の組合員はこれを守っていれば安全と思ってやってきた」と発言したことや関西電力労働組合が「大飯原発再稼動問題で政府に慎重な判断を求める署名」に名を連ねた民主党議員に対して「署名を撤回するように」と求め「さもなくば、次の選挙は推薦しない」と脅したことを上げ、これが労働組合の姿なのか、推進勢力そのものではないかと糾弾した。一方で、水俣病と闘えなかったチッソ労働組合が1968年の組合大会でこれまで闘えなかったことは恥であったとして心からの反省と自分たちの闘う課題だとした「恥宣言」を示し、その宣言をした労働者、労働組合に賞賛を送り、今後の脱原発社会実現に向けて労働組合の奮起を求めて講演を終えた。

質疑討論では、福島第一原発事故の実態と今後の深刻な事態になりうるのか、子どもの被ばく、外部被ばくと内部被ばく、除染の問題、労働者被ばくの問題をどうするのかという質問が出された。小出さんは、国会事故調査などが報告しているが、誰もその現場の状況を知らないし、炉心溶解もじわじわと進行していると考えられる。4号基については、使用済み核燃料広島原爆5000発分の処理があり、時間のかかることを指摘した。また、原発現場で働く96%が下請労働者であり、被ばく線量隠しに見られるように、被ばく線量が切り売りされる事態を憂い、そこでは働く労働者の健康管理、対策を労働組合がしっかり受け止め対策を求めていくことが重要であり、労働組合の真価が問われていることを訴え、さらなる奮起を求めた。

続いて、連帯の挨拶にたった平和フォーラムの井上年弘事務局次長は、自民党や県知事まで福島第一原発の廃炉を求めているのに連合福島だけがそれを表明していないことを批判して、労働組合の任務として脱原発社会実現に向け闘っていくと決意を述べた。

閉会の挨拶で全水道東水労委員長は、脱原発運動の一翼としての労働運動が問われていること、地域運動、住民運動と連携して脱原発社会実現にむけた取組みを展開してくことを表明して集会を締めくくった。

(H)

【報告】8月11日、貧しい人々の存在を覆い隠すな・亀戸デモ

P8118699 8月11日、公園のリニューアルの陰で貧しい人々の存在を覆い隠すな・亀戸デモが行われた。 10時から亀戸駅近くの文泉公園で行われた集会では、山谷労働者福祉会館の仲間が発言した。同日、8月11日、竪川河川敷公園のB工区に五渡庭園という日本庭園がオープンしたが、それに伴って8月6日には公園に鋼板フェンスが設置され、公園内の通行が遮断され、野宿の仲間のテントが隔離される形となった。
 
 公園の改修は地域住民のためとされてきたが、改修されたB工区(五渡庭園)は全ての入り口に鉄製のゲートが設置され、朝10時から、夕方4時までしか開けないとの事で、公園の他のエリアも夜間は閉じるという。工事が終了したのに公園の封鎖は解かれていないのだ。
 
 野宿の人たちを排除するために公園の改修が行われている。差別の鋼板を撤去して公園封鎖を止めろと訴えた。
 
 6日の鋼板フェンス設置を受けての緊急の呼びかけにも関わらず、40人の仲間が結集し、亀戸一周のデモに出発した。デモ中にはこの日のために用意したビラを沿道で撒いたが、注目度は高く、次々と受け取られていく。
 
 解散地では三鷹や、立川など遠方より駆けつけてくれた仲間の発言を受け、亀戸駅に移動し、情宣を行った。
 
 午後からは月1回行っている「竪川カフェ」今回は先月好評だった南條直子「山谷への回廊」写真展をもう一度行った。ゲストは七十年代に山谷の活動に関わっていたという救援連絡センターの宇賀神さん。
 
 仲間たちが交流していると、五渡庭園を見に行った仲間が戻ってきて「コイが死んでるぞ!」と報告。この日は開園の式典があり、子供たちによるコイの放流があって、数百匹のコイが庭園の中の池に放流されたが、それがほとんど死んでしまっており、放流した子供たちがショックで泣いているという。
 
 かつて水道屋さんで働いていた仲間によると、打ち立てのコンクリートの池にすぐに魚などを放流しては死んでしまうという事だ。その仲間の見立てによると浄水施設も、「ありゃ、かなり業者にボラレてるな。」との事である。
 
 五渡庭園を夜間封鎖する事の根拠を江東区土木部は「コイがいるから」としていたのであるが、そのコイが死んでしまったのだ。逆に言うと公園を封鎖するためにはこの日にコイを池に入れる必要があったのだ。
 
 竪川河川敷公園は首都高小松川線の下に河川を暗渠にして埋め立てた約4キロに及ぶ細長い公園で、地域住民の通勤通学路であり、散歩道となっていた。それがスカイツリーに来た海外の観光客を呼び込もうと、グロテスクな、まるで「昔のアメリカ映画に出てきたトンデモな日本」のような日本庭園へと改修された姿はあまりにも痛々しいだけではなく、地域住民のニーズにも全く合致していないはずだ。
 
 そして、仲間たちが今まで利用していた五の橋の脇にあるトイレ(野宿の仲間が毎日清掃していた)も秋以降に3ヶ月かけて改修工事が行われる予定であるという。
 
 江東区とは6月以降3回にわたって話し合いが続けられ今も続いているが、区は野宿者排除の姿勢を全く崩していない。

(板)

8月4日~5日、山谷夏祭り2012が盛況

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 8月4日から5日の2日間、台東区の玉姫公園で山谷夏祭りが行われ、多くの労働者、支援者でにぎわった。
 
 4日昼に山谷労働者福祉会館に集まった仲間たちは、打ち合わせを済ますと物資を玉姫公園に運び込む。盆踊りのやぐらを建て、舞台や祭壇、屋台の準備に汗を流す。同時に共同炊事の準備も進められる。
 
 4時半に共同炊事が始まり、ひとさじの会のお坊さんたちが無くなった仲間たちの写真の飾られた祭壇でお経を上げ、追悼を行う。
 
 ステージでは山谷争議団の仲間が、開会の挨拶を行った。東京の東部地域ではスカイツリー開業に伴う再開発によって、野宿の仲間のテントの排除が激しさを増し、それとともにこの間少年たちのテントや、野宿者に対する襲撃が激増している。 また生活保護制度や受給者に対する攻撃も激しさを増している。このような中、貧乏人同士が分断される事を許さず多くの仲間と結びついて夏祭りを成功させようと訴えた。
 
 そして今回の夏祭りの呼びかけが遅れた事について説明した。 この間、山谷争議団、山谷労働者福祉会館活動委員会が中心的に関わっている取り組みの中で、その呼びかけによって参加した者による別の参加者に対しての深刻な性暴力事件が発生した。今も解決とはほど遠い状態にある。
 
 そのような中、夏祭り実行委員会の呼びかけを発する事に大きな躊躇があり、討論を重ねてきた。
 
 この数年、夏祭りや、越年の取り組みの中で、力の強い者も弱い者も、若者も年寄りも性別による差別も無く、誰もが安心して参加できるようにと「セーファースペース」の取り組みを行って来たが、我々の差別に対する取り組みが全く十分ではなかった事を改めて突きつけられる形となった。
 
 今回の夏祭りではその事をふまえて、より取り組みを強化していかなければならない。実行委員会でも、この問題に多くの時間を割いて討論してきた。参加した仲間たちにも共に誰もが安心して参加できる夏祭りを作っていこうと呼びかけた。
 
 続いて乾杯で祭りがスタート。ステージではカラオケの他、缶カラ三線やギターで懐メロなどを歌ってくれる岡大介さん、ホーンも入った総勢十数名のバンドでいつも盛り上げてくれる真っ黒毛BOX、ニューヨークのハーレムと大阪を拠点に演奏活動を続けるswingMASAさんがかけつけてくれた。
 
 ステージの合間には、この間被曝労働の問題に取り組んでいる山谷労働者福祉会館のなすびさん、2月9日の江東区抗議行動で弾圧された仲間、アフガニスタンで無くなった写真家・南條直子さんがかつて山谷て撮っていた写真を集めた写真集「山谷への回廊」の編・著者である織田忍さん、立川で野宿者支援の活動を行っているサンキューハウスの仲間、今年屋台で初参加の学生「ゆとり全共闘」、などの仲間が発言した。 会場では「山谷への回廊」の写真展も行われ、好評であった。
 
 屋台はビール(第3の)が100円であとは全て50円に設定され、祭りに先立って行われたアルミ缶の買い取りではアルミ缶10個で夏祭り限定の地域通貨「50ワッショイ」と交換された他、1キロ100円での買い取りも行われた。アルミ缶の相場は北京オリンピックの頃を頂点として下がり続け現在は1キロ80円ほど昨年は約110円であったので大幅な値下がりである。くわえてこの数年はアルミ缶の持ち去り禁止条例が各区で作られたり、強化されたりして、野宿の仲間の生活の糧が奪い取られようとしている。
 
 祭りの最後は2日間とも盆踊り、やぐらの上では和太鼓ならぬジャンベ(アフリカの太鼓)が打ち鳴らされ、なぜだか異様に盛り上がる。
 
 2日間の祭りを終えた仲間たちはその日のうちに公園からの撤収作業を終えた。
 
 今後の野宿の仲間の排除との闘いに注目を。                (板)

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