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汪暉・清华大学人文学院中国语言文学系教授

最新号の「週刊かけはし」に汪暉批判の論考が掲載されているので、当の汪暉論文(中国語)に若干のコメントをつけて紹介しておこう。


◎汪晖:革命者人格与胜利的哲学——纪念列宁诞辰150周年
https://www.guancha.cn/wang-hui/2020_04_22_547798_s.shtml

「週刊かけはし」のブレインの論考でも言われているように、「汪はレーニンや毛沢東のような20世紀の革命家によるカリスマ的な政治的指導力の重要性を主張しているが、それは同時に、習近平の周囲の個人崇拝の高まりを擁護するもの」である。

もう少し詳しく述べると、汪暉論文はタイトルからも分かるように2020年4月22日のレーニン誕生200年を記念して書かれたもの。グラムシ、ザスーリチ、トロツキー、李大釗、魯迅、そして毛沢東を引用しつつ、レーニンの「革命的人格」を評価する内容で、それは毛沢東の「人民戦争」の勝利から、後半の習近平の「対コロナの人民戦争の勝利」へとつながって、現政権に対する無批判の讃美歌となっている。新左派のソフト・ナショナリズムからハード・ナショナリズムへの移行を象徴する論考だと言えよう。

ナショナリズムだけではない。中共やスターリニズムの負の遺伝子ともいえる階級協調主義を、汪教授一流の巧みな言い回しによって擁護していることも指摘せずにはおけない。汪教授はトロツキーを用いて強権的国家主義下における階級協調主義の復権を目論もうとした。トロツキーを真面目に読んだことのない不真面目なマルクス主義者は騙されるかもしれないが、そうは問屋が卸さない。

教授はトロツキー著の「レーニン」から、ザスーリチが「ブルジョア的でもプロレタリア的でもなく単に革命家よ」とトロツキーに語る会話のくだりを引用して、ブルジョアとプロレタリアの階級の対立を曖昧にしよう試みる。だがトロツキー著の「レーニン」を普通に読めば、そのくだりはトロツキーやレーニンがリベラル革命家に甘いザスーリチを批判的論じている個所であることは分かるはずだ。

中国でもトロツキーは「右派」とか「裏切り者」とそしられてきた歴史はあり、その文脈でトロツキーの著書=右派or階級協調派として翻訳・紹介されている可能性もあるのかと、上記の汪論文の参考文献にあるトロツキーの中国語版「論列寧」を確認してみたが、中国語版は日本語版とほぼ同じ内容なので、ふつうに読めば誤読することはないはずだ。

だが汪教授はどうしたことか、まるでこのザスーリチの立場を、トロツキーも、そしてレーニンも評価していたように引用している。その証拠にザスーリチのくだりのすぐ後に、レーニン死去2周年を記念する大会での李大釗の演説の一節を紹介している。

「レーニンの人格は偉大で、彼の友人、信奉者であろうと、彼の敵であろうと、誰もがそのことを認めないわけにはいかなかった。ロシアの人民は共産主義者でないものは、往々にして共産主義には反対だったが、レーニン個人は非常に尊敬されていた。」―――李大釗

この演説がおこなわれたのは第一次国共合作の真っ最中の1926年1月17日のことだ。

そして汪教授はこう続ける。

「李大釗はレーニンと孫文の第一の共通点として、かれらの革命家の人格には階級利害の範疇を超える力があり、友人や信奉者からの承認だけでなく、その仇敵もその力を認めざるを得ないことにあると考えた。」

ここまでくると、ザスーリチのくだりは誤読ではなく意図的な曲解であったと考えざるを得ない。

「革命家の人格には階級利害の範疇を超える力がある」!!! 

ダボス会議で「一国主義に未来はない」という民族共産主義者毛沢東の「世界文化大革命」を彷彿とさせながら「人類は運命共同体です」と中国の特色ある資本主義グローバリゼーションとしての「一帯一路」を宣伝する習近平による階級の利害の範疇を超える「革命家の人格」のことを、汪
教授は言いたいのだ。

言うまでもなく、この「階級の利害の範疇を超える力」とは、労働者や貧農の利害を鉄のブーツで踏みつけて粉砕しながらその屍を越えていこうとする力のことである。

これまで汪教授を持ち上げてきた日本の知識人は、この汪論文を翻訳して紹介する責任がある。われわれは鉄のブーツに踏みつけらても抗う中国の労働者、農民、人権派への連帯を続けると共に、毛沢東と中共の人民戦争=人民戦線批判を続けた中国老トロツキストの未邦訳の論考を翻訳する理論的責任があるだろう。(H)

●習近平路線の一断面 民族主義に傾倒する「新左派」
 強い国家求めナチス思想家の主張をも参照
 ブレイン・ハイオレン(週刊かけはし2021年2月8日号)

 http://www.jrcl.net/frame210208%206.html

※なおブレイン論文の原文(英語)はこちら

 https://lausan.hk/2020/who-are-the-chinese-left-nationalists/