一月三一日午後六時半から、東京・江東区亀戸文化センターホールで、「2020人権のつどい 包括的な人種差別撤廃法制度の制定にむけて~ヘイトスピーチを中心に」がつどい実行委主催で行われた。

 2016年に差別を解消するために「障害者差別解消法」、「部落差別解消推進法」、「ヘイトスピーチ解消法」の人権三法が施行された。これらの法律が制定試行された背景は、今もなお、様々な差別が現実に発生しているからだ。しかし、これら人権三法は、いずれも罰則規定のない個別理念法であることから、一定の抑止力とはなりうるものの被害者の救済という点では限界性を持っている。長年この問題に取り組んできた師岡康子弁護士(外国人人権法連絡会)が講演を行った。

(M)

 川崎市の多文化交流施設「市ふれあい館」に「謹賀新年 在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう。生き残りがいたら、残酷に殺して行こう」と書かれた年賀状が届いた。殺害を宣言し、在日コリアン市民を恐怖に陥れるという許さざるヘイトクライム(差別に基づく犯罪)が起きた。おぞましい文面が示すのは同じ人間とみなさず、共に生きる存在と認めない迫害の意思だ。

 過去の例から、昨年一二月の川崎市の差別根絶条例の制定がきっかけとなったことは想像に難くない。ただちに抗議の署名運動が呼びかけられ、三万筆が集まった。市長も犯罪行為、必要な措置をとると表明した。その後一月二七日、市の職場に「爆破の犯罪行為を行う」と脅迫が続いている。せめぎあいであり、逃げることはできない。

1.ヘイトスピーチと人種差別

 ヘイトスピーチの本質は歴史的、構造的に差別されてきた人種、民族、社会的出身(世系)、国籍、性別、性的指向、障がいなどの属性に基づくマイノリティ(社会的少数者)集団・個人に対する、属性を理由とする、言動による差別、とりわけ差別の煽動。

 植民地支配の時代と共通する根深い差別構造が継続している。マイノリティにとって全生活にわたって差別されている中の一部であり、差別全体と取り組む必要性がある。特殊の集団によるデモの問題に切り縮められない。

 一九二三年の関東大震災での虐殺事件、拉致問題以後起きた朝鮮学校生への襲
撃事件、政府の朝鮮学校生徒への授業料無償化からの排除、二〇一一年東日本大震災時の、中国人窃盗団というデマを信じて自警団を組織した事件、最近の韓国バッシングでの韓国学園生徒への暴力行為など。危険な状態になっていて、決して放置できない。ヘイトスピーチが物理的暴力に結びつき、戦争にまでつながる可能性さえある。

 外国人住民調査結果(2016年)によると、
入居を断られた 四割 就職差別 四人に一人 直接侮辱された 三割。

 身構えて生活しなければならない。ヘイトデモに合わないようにする。被害に先が見えない。「出ていけ。皆殺しにする」の暴言は、結局日本国籍を取るか通称を使うかと強制さらせれる。人権侵害が起きている。

2.国際社会におけるヘイトスピーチと人種差別

 世界共通の人種差別と排外主義との闘いの問題。日本も一九九五年に人種差別撤廃条約に加盟しており国際法上、人種差別を「禁止し、終了する義務」がある。

 国際人権法の求める九つの最低限の基準

ア)法制度設計の前提となる差別の被害者グループとの認識及び実態調査

イ)国の行ってきた差別を生じさせ又は永続化させる法制度の洗い直し

ウ)平等な人権を保障する法制度

エ)人種差別禁止法

オ)ヘイトクライム及びヘイトスピーチの処罰

カ)人種差別撤廃教育

キ)被害者の保護と救済

ク)国内人権機関

ケ)個人通報制度

 日本は致命的に取り組みが遅れている。人種差別撤廃政策も、担当省庁もない。

 日本政府の基本姿勢。①新法を作るほどの差別もスピーチも認識していない②現行法で対処できる③差別は啓発でなくすべき。

 現行法制度の欠陥。民事裁判提訴は可能だが、被害者に主張・立証責任があり、
差別と認められることは容易ではない。極めて深刻な二次被害を伴い、効果も限定的。不特定多数の集団に対する差別的表現を規制する規定、救済手続きがない。

3.ヘイトスピーチ解消法の意義

 理念法とはいえ、ヘイト側を「表現の自由」として守ってきた国が、それを差別として認め、重大な害悪を認め、許さないとの反差別の立場に立ったことは反差別法整備の出発点となる。

 両院附帯決議、参議院法務委員会決議により、人種差別撤廃条約の義務の履行の一部と明確化したのであり、人種差別撤廃条約及び人種差別撤廃委員会の勧告などを解釈の指針とすべき。地方公共団体においても取り組む責務、義務がある。

 しかし、人種差別撤廃基本法ではない。その結果、対象が差別的言動のみ、在
日外国人のみ、基本方針策定義務、国会報告義務、実態調査義務、施策を検討する専門機関の設置も財政措置もない。実効性が弱い。

 解消法設立後の現状。ヘイトデモの回数は半減、ただし東京集中。ヘイト街宣は微増。二〇一八年のヘイトデモ・街宣数合計は三〇〇。嫌韓・嫌中流の日常化、ネットの書き込み、選挙活動に名を借りたヘイト街宣、地方議会への進出。日本第一党(在特会元代表桜井誠が党首)―都知事選、衆院選挙にも。NHKから国民を守る会、日本国民党(維新政党新風東京都本部、代表鈴木信行・葛飾区議)。

 裁判所でヘイトデモ禁止仮処分の決定や損害賠償を認める判決が出ている。警察は二〇一六年六月三日通達後、デモ届け出時点でヘイトスピーチをしないよう注意。一部の警察ではデモ中、解消法の条文をアナウンスしたり、カウンターへの敵視一辺倒の態度が変化。カウンターの逮捕者数は激減。

 解消法実行化の地方レベルの現段階。①公共施設の利用をガイドラインを作り制限、川崎や京都。条例制定についての行政・議会の動き。大阪市、香川県観音寺市(差別禁止条項・罰則つき、五万円)、国立市、神戸市、大阪府、狛江市。

4.今後の課題

 川崎市は「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」を成立させ、違反した場合、五〇万円以下の罰金を科すことを決めた。何回やってもカウンターしても止められないヘイトスピーチに対して行政が踏み込んだ。他の地域で川崎市のように作るのかが問われている。

 江東区地域でもヘイト行動が行われている。江東地域でもぜひ条例を作ってほしい。

 条例の内容で重要なのは、①人種差別全体に取り組むことが不可欠②禁止条項+何らか制裁規定③救済制度と第三者機関による審査手続きは不可欠である。禁止規定のみだと結局裁判をやるしかなく、絵にかいた餅になる。

 解消法、条例制定など、市民があきらめず、声を出し働きかけ続ければ、社会
は変えられる。差別を許さない強い姿勢を示すことが求められている。差別のない社会を作っていこう。

(講演とレジメをもとに編集部がまとめた、文責編集部)