働き方改革本・写真『「働き方改革」の嘘 誰が得をして、誰が苦しむのか』
(久原穏/集英社新書
/840円)


 「働き方改革関連法」は、①長時間労働を強制する「過労死促進法」、②正社員と非正規の待遇格差のままの努力目標としての「同一労働同一賃金」、③労働時間の規制から外す「脱時間給制度(高度プロフェッショナル制度)」などを柱にしている。改革法〈①労働時間に関する制度の見直し(大企業が19年4月1日、中小企業が20年4月1日、自動車運転業務、建設業、医師が24年4月1日施行)②勤務時間インターバル制度の普及促進③産業医・産業保健機能の強化④高度プロフェッショナル制度の導入⑤同一労働同一賃金(大企業が20年4月、中小企業が21年4月1日施行)〉が19年4月から施行が始まる。

 反撃陣地を構築していくためにも理論武装を強化しなければならない。「働き方改革」法制定に至る過程を丁寧に取材してきた久原穏(東京新聞)が、一つの批判本としてまとめたのが本書(①裁量労働制をめぐる欺瞞②高度プロフェッショナル制度の罠③働き方改革の実相④日本的雇用の真の問題は何か)である。

 久原は、「誰が、何のために『改革』を言い出したのかを明らかにする。なぜ労働問題を所管する厚労省ではなく、経営者再度に立つ経産省主導で進んできたのか。問題の多い『高プロ』にこだわる理由は何か。副業やクラウドワークを推奨し、雇用システムを流動化させようとする狙いとは?……」などの問題意識からシャープに切り込んでいる。

 とりわけ注目すべきところは、「働き方改革とは、財界による財界のための『働かせ方改革』にほかならないことがわかる。政府は、働き方改革の目玉を『長時間労働の是正』と『同一労働同一賃金』だと強調する。しかし、真の目玉は、財界が望み、下絵まで描いた高プロ創設や裁量労働制の対象拡大といった労働時間制度の規制緩和なのである」という評価から、「長谷川ペーパー」という「陰の指針」をクローズアップしているところだ。

 産業競争力会議で雇用人材分科会主査を務めた長谷川閑史(経済同友会代表幹事)は、「個人と企業の成長のための新たな働き方-多様で柔軟性ある労働時間制度・透明性ある雇用関係の実現に向けて」(2014年4月)というタイトルで「働き方改革」法にむけて「長谷川ペーパー」を提起した。

 要するに「世界トップレベルの雇用環境の実現」に向けて「今後の中核となる
政策として▼高プロの創設や裁量労働制拡大など労働時間制度の見直し▼ジョブ型正社員の普及・拡大▼予見可能性の高い紛争解決システムの創設」を掲げた。

 資本が展望する今後のビジョンとするのが「職務は明確に定められ、昇給や雇
用保障は必ずしも約束されない欧米流の正社員(ジョブ型)へ置き換え」ることだ。「紛争解決システムの創設」とは、「不当解雇された労働者へ支払う解決金を明確化するものであり、いわゆる『金銭解雇』の導入である」など労働者の人権・待遇向上を無視し、資本のカネ儲けの拡大に向けた手前勝手な政策でしかない。

 安倍政権は、この長谷川ペーパーを土台に、財界の要求に忠実に応えるために「働き改革法」を準備し、強行制定したのである。「働き改革法」制定以降の安倍政権の野望は、ペーパーの「政府として、雇用改革を成長戦略の重要な柱として位置づけ、経済政策と雇用政策を一体敵・整合的に捉えた総理主導の政策の基本方針を策定する会議を設け、雇用・労働市場改革に取り組む」ことであり、安倍政権・官邸はその通りに「働き方改革」法の具体化に向けて着手しているのが現在なのである。

 この局面について久原は「労働者代表を排除し官邸主導で雇用改革の方針を決める会議の設置や、『失業なき円滑な労働移動』を掲げて雇用流動を強く求める記述が目立つことも非常に重要である」と指摘する。つまり、雇用流動と称して資本は、不当解雇を拡大していくために「金銭解雇」を導入していくことを獲得目標にしている。リストラにとって強力な武器となり、解雇コストの可視化が狙いだと厳しく批判している。「金銭解雇の動向は、働く人自身が注意して推移を見守らなければならない」と警鐘乱打する。

 なお本書は、連合幹部による安倍政権との妥協の立ち振るまいや取り込まれる状況も紹介されている。だが、「働き方改革法」反対を取り組んできた全労協、全労連、地域ユニオンなどによる国会闘争、争議なども含めた闘いなどが描かれていない。だから共有化すべき課題と成果を踏まえて実践的に今後の方向性に向けた方針の組み立てへとつなげていくのが厳しいかもしれない。そういった面を差し引いても、資料として読んでおくことを薦める。

(Y)