改憲草案への批判で、幅広く問題提起
憲法を自分たちのものにするために


 11月19日、アジア連帯講座は恒例の公開講座を開催した。テーマは「徹底批判―自民党改憲草案」。会場になった東京・文京区の文京シビックセンター会議室に、30人近い人々が集まった。

 講師は清水雅彦さん(日本体育大学教授)。憲法を研究するほか、「9条の会」世話人、「戦争をさせない1000人委員会」事務局長代行を務める。

 安倍自民党政権は憲法改悪をめざし、衆参憲法審査会での議論を急いでいる。そのたたき台となるのが、自民党が2012年に公表した「日本国憲法改正草案」(以下・草案)である。それは、天皇を国の頂点に据えて国防軍を創設し、首相の権限を強化し拡大する。「国民」の義務を大幅に増やすいっぽうで権利や自由を制限し、国家に隷属させようとする代物である。この日は清水さんの著作(※)も参考にして講演を受けた(講演要旨別掲)。

 会場にはアジア連帯講座会員のほか、清水さんの支持者や改憲に強い危機感を持つ市民らも参加した。清水さんは、大学の講義でのエピソードを交えながら、詳細かつ明確に草案を批判した。草案文言にかかわる箇所だけではなく、私たちの生活態度すなわち市民運動を担う人々の価値観にまで言及した。たとえば、「健康増進法」(2002年)などで、国家が人々の健康――朝食を抜くなとか、メタボ体型など――に口を出すべきではないと厳しく指摘した。

 人生を健康に生きられれば、それは楽だが、人間には不健康に生きる権利もある。市民運動圏の交流会では、「灰皿が置いてあるから煙草を吸う」などと、嫌煙者の合意も得ずに吸う。「公共の福利」の概念を理解していないのではないか、と疑いたくなるという。

 天皇制をやめて共和制に移行すべきだと清水さんは主張する。「日の丸」や「君が代」が国歌によって押しつけられているが、それらの意味を正しく理解している人は少ない。改憲右派はこれまでの元号をすべて言えるのか。強要するならそれを暗唱でいるくらいの学習をすべきではないか。清水さんは、天皇制はじめ安倍政権の政策を次々と喝破した。

 質疑応答では、天皇制と大統領制の責任の所在について。国家財政の明文規定について。在日外国人の権利について。天皇ビデオメッセージに対する憲法学界の反応について。国民投票での改憲項目についてなど、多くの質問や意見が出された。

 「憲法」という壮大かつ根源的なテーマを、わずか一時間あまりで講演することにはもともと無理がある。清水さんは主催者の意向に応え、無駄がなく、しかし要点をしっかりと押さえた分かりやすい話で聴講者を引きこんでいた。連日連夜全国を駆け回る忙しさのなかで、講師を引き受けていただいたことに、この場を借りて改めて謝意を表したい。なお講演の詳細については、別途公表する予定である。

(隆)

■講演要旨■

配信清水 自民党が2005年に作成した改憲案では、当時取りまとめをした舛添要一が、「こんな復古的な案では国民には通用しない」と反対した。舛添はケチだけどリベラルだった。12年案はかなり復古的だ。

 12年案発表当時は民主党政権。与党との差異化を打ち出す意図や、野党としての気安さがあったのかも知れない。総裁も安倍ではなかった。安倍はその頃党内でほとんど影響力がなかった。総裁は谷垣だった。リベラルといわれた谷垣の下でもこういう案が出てきたことは、自民党じたいが右寄りになったことを示している。

 天皇の行為について、憲法学会では2分説(国事行為と私的行為)と3分説(国事行為、公的行為、私的行為)がある。私は「公的行為を認めるべきではない」という二分説の立場だ。

 ビデオメッセージのなかで明仁自身が「象徴的行為」を連発し、彼はそれをやるのは当然だと言っている。これは明らかに政治的発言である、憲法学会では公的行為や象徴的行為を認めないという議論がある。にもかかわらず天皇みずからが象徴的行為をするのは当たり前だといい、それが負担だから退位させろと言っている。憲法を厳密に解釈すれば、天皇の仕事は増えないはずだ。メディアにはその視点がない。有識者会議も御用学者ばかりだ。

 憲法というと「人権規定」を思い浮かべるが、日本国憲法でさえ第3章たった1つ。残りは統治規定だ。国家を縛るために細々といろいろと書き、それによって人権を守る。

 もともと封建社会を打倒して作られたのが憲法だ。公権力が暴走して国民の権利を破る可能性があるから、憲法規範に回復予防措置を入れている。

 日本は市民革命を経験していない。このかんの運動の盛り上がりも市民革命とは言えない。とにかく権利自由の意識が、主権者意識が希薄な国民だ。もっと自分たちが主体意識を持って運動するべきだ。

 幣原内閣がポツダム宣言を受諾したのに、それに反するような改憲案を出した。そしてGHQが原案を出した。それは単なる押しつけではない。

 日本国憲法の中身は(1章を除いて)素晴らしいが、自分たちで勝ち取ったものではない。そういう意味で、出発点に不十分なところがあるのだから、それを国民が自覚をして、中身と理念を実現する取り組みをする。単に紙に書かれたものではなくて、憲法を自分たちのものにする取り組みをすることが大事だと思う。

 安倍は着々と大統領的首相をめざしている。緊急事態条項が成立すれば、いよいよ大統領的首相が完成する。こういう改憲は絶対に認めてはいけない。草案の恐ろしい中身が多くの人に知られていない。ぜひ周りの人に分かりやすく伝えて欲しい。みなさんの運動に期待しています。

※『憲法を変えて「戦争のボタン」を押しますか? 「自民党憲法改正草案」の
問題点』高文研・2013年