配信用:白石講演12.5アジア連帯講座:公開講座報告

マイナンバー運用開始1カ月前にして
講師 白石孝さん(共通番号いらないネット)


■以下、白石講演要旨

 はじめに

 番号通知が届き出すと急速に関心が広がっている。各地でマイナンバー違憲訴訟が提訴されている。共通番号いらないネットには、関心の広がりが大きくて、各地で学習会等への講師の派遣が殺到要請している。

 ところが情報がきちんと伝わっていないから、「カードを申請しちゃったが、どうしたらいいんでしょう」という質問がよくある。そもそもマイナンバー番号通知のリーフレットは、番号通知のくせにして番号説明は一頁しか書いておらず、大半はカード申請させるために誘導していくように書かれてある。このカードは任意です、選択制ですとかまったく書いていない。だから通知が届いたら、役所から届いたから従わなければと役所の窓口に行き、役所の係が写真を撮って申請してくださいと対応する流れに入ってしまう。

 問題は、マイナンバー制度の基本の目的が説明されておらず、社会として合意されていないことだ。ノーチェック状態で、安倍政権が猛烈なエンジンを回して動かしている。その行き着く先がどうなるか。番号制度は、財産的経済的損失につながる。つまり、なりすまし被害につながるということは明らかだ。ただその被害が出てくるのが、五年後か、一〇年後だ。

 マイナンバー制度は、戦争体制とリンクしている。戦争法を表とすれば、対の関係にあるのが秘密保護法、盗聴法、マイナンバー、おそらく出てくる共謀罪だ。どこかの段階でカードの役割が変質していくことは間違いない。

 会社、事業所でマイナンバー制度が導入されるのだから、本来だったら労働組合がきちんと取り組まなければならない課題だ。ところが連合は積極推進だ。自治労、JP労組は労働条件と密接に関係があるのだから、その点だけでも取り組めと訴えたがやらない。全労連は、おそまきながら動き出したが、まだ末端まで伝わっていない。全労協は、全国とか、地域ユニオンが動いているところと動けないところの温度差がすごくある。

 制度の目的

 マイナンバー通知カードにリーフが同封されている。制度の目的の説明は少なく、大半はカード申請のための手引き書になっている。役所の市民課、住民登録の窓口が人で溢れかえっている状況だ。

 「よりよい暮らしへマイナンバー制度」には、国民の利便性の向上、行政の効率化、公平・公正な社会の実現の三つの利点があると書かれている。

 番号制度は、道具ですから、基本は道具を使って何をするのかということだ。その何をするのかの説明がインチキだ。

 利便性と効率化、公平・公正というのは、誇大・誇張でしかない。一般の住民が役所に行くのは、年に一回、二回でしかない。住民票の添付が不要とか、課税証明書がいらなくなると言っているが、ないよりあったほうがいいという程度でしかない。それを誇大にあたかも便利にするというトリックだ。客観的なデータを公開していないから、情報操作、世論操作でしかない。

 住基ネット導入でも利便性と効率化を言っていたが、全国の自治体で一人も減っていないどころか、増えている。さらに自治体は住基ネットの維持管理に負担がかかっている。住基ネットの利用の九九%が年金の照合だ。だけど昔と同じように社会保険庁、今の日本年金機構が年金事業者に葉書を出して、それで本人から回答をもらう方式でやっても、基本的には通用する。そうしたら住基ネットにかかるコストと、社会保険庁、日本年金機構が負担する郵送費は、郵送費のほうが安い。客観的にはその程度の利便性だ。

 この制度が導入されれば、あたかも税の公平・公正が実現するかのごとくのイメージが蔓延している。リベラル、民主党支持の学者、研究者もその論理に組み込まれている。

 「女性自身」「週刊女性」「サンデー毎日」「週刊現代」は、この制度の税の公平・公正の対象は中間層、貧困層がねらいだと指摘している。「女性自身」は、「マイナンバーで損をしない方法。はたらきかたを間違えれば二〇万円も国か請求される」というタイトルの記事を紹介する。

 父は年収五〇〇万円、母はパートで九〇万円の収入、大学生の兄はバイトで一二〇万円の収入、高校生の娘がバイトで五〇万円の収入がある。父は配偶者控除、扶養控除(一〇三万円のライン)が適用されている。ところが母は、源泉徴収されているパートの九〇万円以外で、現金で直接頂く結婚式場の司会をやっていて年間五〇万円の収入があった。母は合計一四〇万円の収入だった。兄は、扶養限度を超えているが、バイト先では所得税が引かれている。父は兄の収入を知らず、兄は脱税している意識はない。

 ところがマイナンバーによって二〇一七年の確定申告から紐付けされる。扶養家族の収入は、マイナンバーで紐付けされ、税務署で連動する。母の司会業の五〇万円の収入は、源泉徴収して取りなさいということになる。外国人は週二八時間以上働いたら在留資格が剥奪される。実際にはダブル、トリプルで二八時間以上働いている。これが二〇一七年以降、全部あぶり出される。

 税理士が試算したら、この父に追徴課税と延滞金・加算金が一〇万円も余計にはらうことになる。今回の狙いは、これだ。

 実際のところ課税・徴税漏れしている全国の人から完璧に徴収したって、年間税収はたかがしれている。あたかも税の公平・公正がマイナンバーでできるようなことを言っている。

 富岡幸雄中央大学名誉教授の『税金を払わない大企業』(文春新書)は、政府が公表している資料を使って、「一九八九年消費税導入から二〇一二年度の消費税の収入は合計で二八〇兆円だった。ところが大企業は租税特別措置法で合法的に税金を払っていない税金の累計が二五〇兆円」ということを明らかにしている。大企業が税金を払っておらず、さらに法人税率を欧米並に下げろと言い出している。税金を払っているのは、租税特別措置法が適応される中小零細企業が払っている。だいたい売り上げの二〇%を払っている。払っていないのは、大企業と赤字の企業だけだ。

 累進税率は所得税と住民税で一番高かった時は、高額所得者から一九八六年が八八%、手取りは一二%、今は五五%だ。これも引き下げろと言っている。金持ち優遇税制と言われる分離課税もある。確実に格差が広がる。こういうものを修正するのではなく、全部覆い隠しておいて、マイナンバー制度で税金を取る制度が目的だ。だから賛成する人はいないから、本当の目的を正直に言えないのだ。安倍政権は、中間層・貧困層から取り、同時に社会保障を切り下げるとまで言っている。マイナンバー制度導入の大義名分もなにもない。

個人情報流出事件必至

 マイナンバー制度は、現在の限定的番号制度(年金番号、健康保険番号、免許証番号、納税番号など)から官民分野の共通番号制度に移っていくことだ。住民登録=マイナンバー制度だから今回のマイナンバー通知を拒否したとしても、番号から逃れられない。極論すれば番号から逃れようとすると二つの方法しかない。一つは、自分で自ら住民登録を抹消する。返上する。もう一つは、裁判で勝つことだ。一二月一日のマイナンバー違憲訴訟を提訴したなかで、番号から離脱という要求が入っている。

 住基ネットの時に、一人だけ大阪高裁で違憲判決を勝ち取っている。一つの市長は住基ネット反対だったから、大阪高裁判決を受け入れた。そこの原告一人は、大阪高裁判決が適用された唯一合法的な住民票コード離脱者だ。今回、その方に市長から通知がきて、「住民票コードがないから番号が付きません。番号がほしければ、住民票コードを取得してください」という手紙が来ている。

 住民票コードは、市長の権限で付けている自治事務だ。さらに住民票コードは、全国の自治体が共同設立した地方公共団体情報システム機構(J-LIS)という全国センターに送る。このジェイリスが国の権限でマイナンバーを付けるという制度だ。

 住基ネットの時は選択制が可能だったが、マイナンバー制度は番号付とカードを交付するという二つの行為は国の仕事だからできない。住民票コードは、基本として外に出さないが、九九%の利用は年金事務の照合に使っている。

 ところがマイナンバー制度は、会社や税務署、福祉の手続きで出さなければいけない。二〇一八年ぐらいから銀行、生命保険、証券とかでもマイナンバーを出さなければいけなくなる。

 住民票コードは変えられることができたが、マイナンバー制度では番号変更は原則不変だ。しかし、一〇月五日、取手市で個人番号付きの住民票が発行されてしまった。今の段階では使ってはいけない番号付の住民票を使ったということで、番号変更することになった。ところがこれは国の事務なんだが、国からは番号変更のマニュアルが出されていないことに現れている。

 マイナンバー制度は、税と社会保障、災害対策の一部で使うだけから安全ですとキャンペーンしている。ところが九月に民間利用に踏み込んだ改正法を可決している。①二〇一八年から任意で預金口座に登録②健保組合がメタボ健診情報を管理③市区町村が予防接種の情報を管理する。

 銀行・金融機関の預金者のデータベースがあり、預金者名・口座の種類・口座番号・預金残高・ローンの返済記録とか、ここにマイナンバーが入ってくる。役所の中にも、住民台帳にマイナンバーが付き、さらに介護保険、児童手当などが、全国一七〇〇の市区町村のそれぞれの課に個人名と番号付のデータが入る。

 とりあえず銀行と健保組合に導入してから、その後、生命保険会社、損保、証券、ネット関係のショッピング関係にも広がる可能性がある。全部のところに個人名とマイナンバーが送られ、それぞれにデータベースができる。マイナンバーに付いた個人情報が厚くなっていく。番号に価値が生まれ、売買できる価値が出てくる。

 韓国の個人情報流出事件が多発について紹介する。二〇〇八年からインターネットが急速に発達したなかで民間企業で流出事件が激増していった。住民登録番号はマイナンバーで紐付けされているから、犯罪者にとっては価値ある情報となる。住民登録番号と携帯番号ともリンクしている。だから携帯番号から本人確定もできる。

 さらに、携帯基地局とGPS機能を使った犯罪捜査も行われている。鉄道民営化をめぐって鉄道労組が大闘争を行った。労組の幹部が業務妨害で捜査対象になった。労組役員と妻、両親、子どもの五人分の携帯情報を五か月にわたって令状捜査した。

 韓国の人口は、四八〇〇万人。外国人いれても五〇〇〇万人。八年から七年で一人で四回か、五回の個人情報が洩れていることになる。二〇一四年、大手カード会社の個人情報流出は、一億四〇〇〇万人だった。韓国はインターネット社会で、クレジット社会だ。政府もこれはまずいとなって改善案が三つ出された。一つは番号を全部取り替える。二つ目は、被害を申し出た人の番号を変える。三つ目は、番号を使う分野を限定する。これは二〇一三年の個人情報保護法の改正施行で行われている。

 インターネットで航空券、ホテルの予約とか、アマゾンでの購入とか、画面がどんどん覚えていく。最後はクレジット決済か、コンビニ払いで終了する。韓国の場合は、最初に住民登録番号を入れないと次の画面にいかない。民間業者が全部、住民登録番号付きの顧客データを持っているということだ。日本はそこへ向かいつつある。これだけは絶対にやっちゃだめだ。

 アメリカでは、一六歳以上の五%がなりすまし被害にあっている。日本政府、マスコミは、アメリカ、韓国の被害実態を意図的に隠している。映画、テレビドラマで個人情報流出を取り扱った作品が多数あるが、そのほとんどが上映されていない。

 カードの役割

 カードは、国家が強制的にカードを持たせる国と任意の国と分かれている。日本の場合は任意だ。ある特定目的のためのカードだ。車の運転免許証、海外旅行したいからパスポートがある。それを本人確認にも利用してきた。変化が出たのは、二〇〇三年の住基カードの導入からだ。

 住基カードは、一一年間ぐらいかけて八〇〇万枚配布、人口比にすると五二%でしかない。免許証が七割と言われているから、圧倒的に少ない。

 政府・自民党は、今年の国会審議では「住基カードの失敗を繰り返すな」と平気で言っている。今の段階では個人番号カードは、道具価値しかない。これを異常に拡大させていこうとしている。その証拠が出てきたのが、五月二〇日、政府のIT総合戦略本部がロードマップで全容を出した。ロードマップには、産業競争力会議、経済財政運営改革の基本方針(骨太方針)、日本再興戦略、世界最先端IT国家創造宣言の中身がほとんど入っている。ただ運転免許証は、警察庁サイドから異論が出ている。

 二〇一六年からマイナンバーの利用が始まり、カードの交付が始まる。一年三か月でカード一五〇〇万枚配布するとしている。住基カードは一〇年かけて八〇〇万枚配布と比べると異様な配布数だ。これだけ差があるのは、なんらかの内的外的な力が働かないとならない。それは国家公務員身分証明書を半年かけて各省庁職員全員、自衛隊に番号カードを身分証として持たせる。日本経団連、IT企業が導入しはじめる。わけがわからなくてカード申請してしまった人たちなども含めて一五〇〇万人という合計数を出した。

 さらに二〇一九年三月末に八七〇〇万枚カード配布すると明記している。これは組織の圧力だけでは無理な数だ。ワンカード化というカードの変質を狙っているのだ。つまり、キャッシュカード、クレジットカード、運転免許証、健康保険証を兼ねたワンカードで対応するというのだ。

 この後は、私の推測だが、経済活動をしている人の八割ぐらいがカードを持つことになる。この段階でカード強制の義務化法案、常時携帯義務法案が出てくるだろう。二〇二〇年のオリンピック会場入館規制に向けてマイナンバーカードを使おうとしている。すでに舛添都知事が定例記者会見で、パリの同時多発テロ事件の後に、「東京オリンピックでもテロの脅威が出てきた。オリンピックについては、安全安心の開催に万難を排除したい」と言った。本人確認しますということだ。

 外国人は、日本に入国する時に、パスポートをスキャンして指紋と顔写真を撮っている。だから外国人は、オリンピックの入場券とパスポートスキャンか、カメラの前に立たせることで本人特定ができる。パリの事件の時、たくさん亡くなられたのがレストラン、劇場だった。サッカー試合のところでは、一人か二人しか亡くなっていなかったが、入口のチェックで発覚し、自爆した。

 靖国で燃えた事件があったが、韓国から入国した人間が犯人みたいな報道がされている。あれは靖国の監視カメラ、周辺のホテルの監視カメラ、最後は入管の写真撮影で照合したはずだ。これは報道されていない。韓国と米国は、外国人の入国時に指紋、写真撮影をしている。未確認情報だが、米国、日本、韓国のビジットシステムを全部担当しているのが、米国の軍事IT産業アクセンチュアだという情報がある。今回のマイナンバー制度のシステムは、基本部分はNTT、東芝、NECなどの日本産業だが、全体の進行管理はアクセンチュアがとっている。

 日本の場合は、在日外国人から指紋強制という歴史があるけど、日本人全体も含めて取るのは困難かなと思っていた。そしたら九月にNECが、我が社の顔認証システムが契約が取れましたと発表していた。NECの顔認証システムは世界トップランクで、九六%の照合率を誇っていた。

 ロードマップには、個人番号交付にあたっては、厳格な本人確認が必要なため市町村長の職員の目視に加え、最新の顔認証システムを補助的に活用すると書いてある。職員が判断に困る場合は、お客さん申し訳ないがカメラの前にたってと言って、カメラを通したデータと個人番号カードの裏のICチップに顔写真のデータと照合することになる。偽造、変造、なりすましを防止するためにICチップを読み取る。

民衆監視・管理

 二〇二〇年のオリンピックは屋内競技だけではなく、マラソン、競歩がある。屋外をどう管理するかというと、マラソンの時は、陸連の職員、スポンサー、地元の人たちのボランティアにハンディーカメラを持たせ、提供されている顔写真と照合することができる。このシステムは、オリンピックだけではなく、日常生活に対して、政府、警察が使う可能性が出てくる。

 顔写真データは、今の段階では自治体が管理するのではなく、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が一五年間管理することになっている。警察は、当然、マイナンバーを使う。マイナンバー法で例外規定にしてしまっている。安保法制が通り、駆けつけ警備があって、南スーダンからアラブ、パレスチナへと自衛隊がどんどん展開していけば、日本でもテロの脅威が迫っているという世論で煽られて、安全安心のために法律を変えてしまう可能性がある。その基盤はできつつあると言える。

 だからカードの任意性が維持されていれば、一つのカードとして住基カードを持とうが、個人番号カードを持とうが、それは人によって必要な場合がある。生活保護を支援しているグループは、他になんにも本人確認がないから、住基カードを反対はしたけれど、個々の生活保護の当事者に対しては持ってもらえるようにしているケースがある。

 だけどマイナンバーカードは、持たせるための客観情勢を作り、生体情報とリンクするとその性格がまったく異なったものとなる。

 マイナンバー制度の行き着く先は、なりすまし事件に直結する。カードは、強制性が生まれた段階で管理監視の道具に変わる。この制度の目的自体が政権によって、どんどん変わっていくだろう。一人一人の市民にとって、中小零細企業の事業主にとって負担こそあれ、メリットはまったくない。こういうことがほとんど隠されてしまっている。マイナンバーの狙いと番号制が持っている宿命について粘り強く明らかにしていく必要がある。「だから番号カードの申請はしないようにしましょうね」と訴えていこう。節目、節目で国会議員、地元議員に対してマイナンバーの危険性とそのストップのためのいろんな行動を取り組んでいこう。