「雨傘運動と89年民主化運動~似ている所と違う所」の最後の箇所で参考として挙げられていた「オキュパイ・セントラル弾圧のシミュレーション」 (2013年11月28日)を以下に紹介する。このなかで、區龍宇さんは「オキュパイ・セントラルが1万人もの参加者を集めることが出来ると考えている人はほとんどいない」としているが、それが過小評価であったことは否めない。しかしこの文章の中心である中国共産党の対応を分析した箇所については、「台頭する大国、中国」の脆弱さの一端をしめすものだと言える。また最後に「カラー革命」の方向性を示唆する主張への警告も行うとともに、オキュパイを陰謀的にではなく公然と議論して実施すべきだと訴えている。(H)


オキュパイ・セントラル弾圧のシミュレーション
2013-11-28 16:44:04

區龍宇 元教員、労働運動研究者、世界市民。
近著に《China Rise: Strength and Fragility》, published by Merlin Press.

李飛が香港を去って間もなく、呉志森が「中国共産党中央が本当の普通選挙を賜るという幻想は捨てよ」と呼びかけた。まさにその通りである![訳注1]

幻想を捨て、闘争を準備し、オキュパイ・セントラル[訳注2]を積極的に行うべきである。しかし市民団体などの討論において、筆者もオキュパイ反対の意見に接したことがある。反対する理由のなかに「中国政府は1989年の天安門の時と同じように解放軍を投入して弾圧するかもしれな」というものである。(原注1)

◎ 解放軍が出動する?

もちろんその可能性はないわけではない。しかしその可能性は極めて小さい。鶏を絞めるのに牛刀を用いる必要はないからだ。オキュパイ・セントラルが1万人もの参加者を集めることが出来ると考えている人はほとんどいないが、香港警察は3万人の要員がおり、オキュパイに対処するに余りある人数である。89年天安門事件では中国共産党は戦車で鶏をひき殺したではないかという主張もあるかもしれない。確かにその通りである。だが中国と香港は違うのである。中国共産党は中国本土では独断専横で他の社会勢力の牽制を受けることはない。香港では、内部か外部かはとりあえず論じないとしても、中国共産党上層部がコントロールすることができない勢力が依然として多く存在することから、戦車で鶏をひき殺してしまうと、思いもしない結果を引き受けなければならなくなる。

1989年の中国では、中国共産党は国家の一切を統制していた。民主化運動は一気に沸き起こったが、弾圧によって一気に霧散してしまった。香港ではすでに各種の政治および社会運動が長年にわたって成長している。中国共産党が兵力で弾圧に成功したとしても、その後には各種の組織的勢力の抵抗に直面することになる。反対するすべての声を打ち消すには、軍事統制を行わなければならないだけでなく、50年は政策を変えないという�眷小平の政策を変更することが前提となる。それは非常に重大な政治的危機に道を開くことになる。[オキュパイという]小さな事件に対応するために、大きな動揺を引き起こす危険性をあえて冒すだけの価値があるだろうか?今日の支配者も絶対的自由ではないという状況においては尚のことである。

◎ 習近平が直面する困難

昨年の『The China Quarterly』9月号に掲載された李成の「共産党による頑強権威主義の終焉」(原注2)は、今日の中国共産党の政治情勢の特徴について以下のように述べている。

1、強力な党内派閥と脆弱な指導部
2、強大な利益集団と脆弱な政府
3、強大な社会的発展と弱体化しつつある政府の統制

習近平が党政軍および国家安全部門を掌握しなければならない理由は、まさにそれらが前任者に比べて脆弱であるがゆえに、特に威厳を確立しなければならないからである(薄熙来打倒を含む)。だがそのようなやり方は反発も招く。つまり内部派閥の対立のさらなる激化をもたらし、敵対派閥による権力争奪の機会増大をもたらす。

もし習近平が軽率に軍事力に訴えれば、まず内部において分岐が発生するだろう。一旦分岐が発生してしまえば、1989年以上に党内分裂を引き起こす可能性がある。その当時分裂しなかったのはトウ小平という元老の存在が大いに影響した。だが今日の中国共産党には全党を統一させるだけの超越した元老は存在しない。

しかも、さまざまな形跡から2013年の中国はすでに危機の時代に突入したことが伺えるのである。

◎ 中国民主化には明日がある

中国共産党内部の要素だけでなく、二つの新しい政治的条件が中国共産党の政策決定を牽制している。ひとつは、中国人民が天安門事件の弾圧によって作り出された長期低迷状態を脱しつつあることだ。敗北を知らない新しい世代は特にそうである。2010年のホンダ労働者は長年にわたって誰も提起することができなかった要求――労働組合の改選を提起したのである。政府は強力な弾圧に訴えることはできず、逆にいくらかの譲歩をおこなった。

次に、中国共産党による急速な工業化は、自らに不利な新しい民主主義勢力を生み出した。中国の全人口にしめる都市人口の割合は半分を占めるまでになっている。小農を中心とした中国は、都市階級を中心とした近代化された中国に変わった。高等教育を受けた人数も爆発的に発展している。労働者階級の数は3億人に増加した。大学生から労働者階級に至るまで、初歩的な民主化闘争を経ている。農民も昔日とは異なっている。2011年の烏坎村の農民による土地収用への抵抗闘争では、臨時選挙で理事会を選出し、民主的意識を示した。

新しい民主化運動にいたる道のりはまだ遠いが、その距離は短くなっている。烏坎村事件の後、中国共産党広東省委員会の朱明国副書記は、幹部への訓示として「大衆が激怒してはじめて、力とは何かを理解することができる」と語っている。

◎ 経済発展というボトルネック

最後に、経済的な観点からも検討すべきである。中国はすでに世界第二位の経済体となっており、香港で軍事力を使った弾圧を理由とする経済衰退が起こったとしてもその損失に耐えることは可能である。しかし損失は底だけにとどまらない。外国との関係で言えば、中国は完全にグローバル市場に融合している一方で、中国の台頭は日米欧による制約も受けている。このような状況において、もし中国がオキュパイ・セントラルを軍事力を使って弾圧すれば、国際的な経済制裁を引き起こす可能性があり、その期間が長くなれば、中国はそれによって引き起こされる損失を引き受けることができなくなる。とりわけ考慮しなければならないのは、中国では経済危機がますます近づきつつあるということである。資本主義の周期的生産過剰と貸し出しの膨張は、中国においてとりわけ突出している。各種の矛盾が積み重なり、爆発の機会をうかがっている。

◎ なぜ天安門の民主化運動を弾圧したのか?

上記の四つの制約にもかかわらず、習近平が依然として解放軍を出動させて弾圧をおこなうのであれば、予測不可能な政治的危機を引き起こすだろう。それは新しい民主化運動を引き起こす可能性を含んだものである。ほんの僅かのオキュパイ・セントラルを弾圧するために、このような大きなリスクを取るとは、ばかばかしいにも程があるだろう。

もちろん次のような反論もあるだろう。トウ小平も天安門の民主化運動をあれほど酷く弾圧する必要はなかったにもかかわらず、彼がそのような行動をとったことは、共産党は予測不可能またはとんでもないことをしでかすという証明ではないか、と。私は昨年出版した英文書籍のなかでそれについて検討している(原注3)。トウ小平のおこないは、まったくでたらめなとんでもない行動ではなく、一種の官僚的理性からの行為である、と。

1989年初めの中国社会は、改革が労働者人民に奉仕するのか、それとも官僚による公有財産の私有化に奉仕するのかというターニングポイントに直面していた。4月になって学生運動が起こり、それが民衆の支持を受けるに至って、このターニングポイントは、改革は労働者人民と官僚のどちらが主導権を握るのかというレベルにまで進化した。中国共産党は大弾圧を経ることにより、国有資産を安穏と私有化することができたのである。いわゆる「20万人を弾圧して、20年間の安定を得る」という主張は、このような枠組みの中で理解すべきである。20数年後の今日、中国共産党による大事業は完成した。今後の主要な任務はこれまでのような創造(官僚資本主義の新社会の創造)ではなく保守である。創造と保守の方法は異なる。官僚的理性から考えても、習近平が香港における小さなオキュパイ運動の弾圧に軍事力を使う必要は感じないだろう。もし軍事力を動員することがあれば、それはオキュパイが理由ではなく、国内外でさらに大きな危機が爆発したことによるものだろう。

◎ 陰謀詐術に対処するには

中国共産党はオキュパイ・セントラルへの攻撃を行うだろうが、それは軍事力を動員してではなく、香港特区行政長官を指揮することのほかに、次の三つの企みが考えられる。

1、公然的には、シンパや大衆組織を動員して、世論と大衆的攻撃を発動する。
2、非公然で、スパイを急進分子として運動に紛れ込ませ、発言権や指導権の簒奪を狙う
3、水面下でオキュパイ・セントラル活動家に対する中傷をおこなう

これに対処するには、スパイ合戦を妄想するのではなく、正確な政治路線による線引きを明確にし、敵と味方をはっきりとさせることである。たとえば最近では、直接選挙を実現する手段としてオキュパイ・セントラルだけでなく、ゼネストを提起すべきだという主張がある。もしも労働運動の側ですでに準備が整っているのであれば、この提案は原則上なんら間違いではない。しかし、同じような提案が、もし香港独立につながり、「英米の介入を要求し、カラー革命を進める」といった綱領につながるのであれば、仮にそれを提起した人物の主観がどうであれ、客観的には誤った路線なのである(原注4)。なぜなら英米政府はそもそも心から香港人を支援しようとは思っていないからである。英米という別の支配者のために香港人が火中の栗を拾う必要はない。このような誤った路線は、客観的には中国共産党による弾圧の口実となる。誤りの上に誤りを重ねないためにも、このようなエセ急進主義への自覚的抑制が必要となる。


原注1:林和立《習近平督師打佔中 必要時用解放軍》,ウェブニュース「主場新聞」掲載
原注2:《China Quarterly》
原注3:《China’s Rise: Strength and Fragility》
原注4:「佔領中環 奮起護港」

訳注1
2013年11月21日から23日の日程で香港を訪れた中国全国人民代表大会副議長兼香港基本法委員会主任の李飛は、訪問期間中に香港行政長官らトップと会談し「行政長官は愛国愛港であること、中央に敵対しないこと」と中国政府の立場を示し2017年の次期行政長官選挙でも中国政府の立場を反映した人事を示唆した。呉志森は香港公共放送の人気ラジオパーソナリティでストレートな政府批判が好評だったが、香港政庁高官が同放送局トップに天下って間もなく契約更新が打ち切られ、現在はフリーパーソナリティを勤めるかたわら政治コラムなどを執筆している。

訳注2
非暴力不服従で香港の中心街セントラルをオキュパイして2017年に行政長官と議員の完全直接選挙を要求しよういう訴えが2013年初めに提起され、学者などをふくむ多くの賛同を得る一方、違法な闘争手段に訴えるべきではないという穏健民主派や親中派の批判がある。