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 理財商品「松花江77号」の元利支払いを求めて
 販売窓口になった建設銀行に抗議する市民(2月26日山西省)



1931年9月18日、関東軍は柳条湖事件をでっちあげ中国東北部を軍事支配下においた。当時の抗日歌曲にこの9・18事件を歌った「松花江のほとりにて」という歌がある。

松花江のほとりにて(作詞・作曲 張寒暉)

 わが家は東北の松花江のほとり
 そこには森林と鉱山
 それに野山と大地いっぱいの大豆と高粱がある
 わが家は東北の松花江のほとり
 彼の地にはわが同胞、そして年老いた父と母がいる。
 ああ、9・18、9・18よ
 あの悲惨な時から、わが故郷(ふるさと)を脱出し、
 ああ、9・18、9・18よ
 あの悲惨な時から、わが故郷(ふるさと)を脱出し、
 無尽蔵の財宝も捨て去って、流浪、また流浪、
 関内をさすらいつづけている。
 いつの年、いつの月になれば、
 愛する故里へ帰れるのだろうか
 いつの年、いつの月になれば
 無尽蔵の財宝をとり戻せるのだろうか
 父よ、母よ、喜んで一堂に会するのは
 いったいいつになるだろうか


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3月11日付けの「日経新聞」にこの「松花江」の名前が登場している。現在開催中の全人代で財政経済委員会の委員を務める李礼輝・全中国銀行頭取へのインタビュー記事である。「影の銀行」問題でデフォルトの可能性がある金融商品として名指しされたのが吉林省信託(吉林省長春市)が発行した「吉信・松花江77号」。

「松花江77号」は期日までに元利金を返済できず、支払いが遅延している。発行残高は9億7240万元(約165億円)。銀行は年利回り9.8%を提示して販売。しかし投資先である山西省の採炭会社が、石炭価格の下落で債務の返済ができなくなっている。1月末には、別の理財商品「誠至金開1号」も同じく山西省の採炭会社に投資していたが、デフォルト危機に陥ったが、山西省政府の意向を受けた第三者が理財商品を買い取って元本が返済されたことから、今回もそのような「中国の特色ある資本主義」的救済策があるのではないか、と見なす向きもあるが、李氏は日経新聞にこう答えている。

「救済できるものは救済し、救済できないものはしないという本来の原則に戻るべきだ。投融資先の再建可能性を精査し、もし再建が難しければデフォルトさせたほうがいい。」「中国政府はシステミックリスクを防ぐために力を注いでいる。国務院は影の銀行に対する政府の責任範囲を明確にし、統計の整備も指示した。全体としては管理可能だ。」

厳しい規制のある銀行融資を迂回して企業や地方政府など経済主体に流れ込む「影の銀行」の規模は「約20兆元」(340兆円)に達するが、李氏は「影の銀行の影響は限定的」であり「全体としては管理可能だ」という。

同日、全人代では午前中から周小川・中国人民銀行総裁、尚福林・中国銀行業監督管理委員会主席、肖鋼・中国証券監督管理委員会主席、項俊波・中国保険監督管理委員会主席、易綱・中国人民銀行副総裁兼国家外為管理局局長による記者会見がおこなわれ、1~2年以内の金利自由化など、内外の耳目を集める発言がされたようだ。

習・李指導部の経済政策の柱は、グローバル資本主義の荒波のなかで政治的指導権を安定させるための社会経済政策の漸進にあるといえる。そのために規制と緩和をたくみに使い分けようとしている。しかしそれはグローバル資本主義、そして一党独裁という両面からの制限を受け、思惑通りの経済運営にはならないという事態を引き起こす。つまりいくら「中国の特色ある社会主義」と豪語しようとも、グローバル資本主義への全面的合流にむけた経済運営はいくつもの困難に直面し、その解決もまたグローバル資本主義と一党独裁の方法でしか乗り切ることができないという「中国の特色ある資本主義」が明らかになる。


金融の問題では「中国の特色ある資本主義」によるリーマンショック対策として行われた4兆元にのぼる財政金融政策のツケとしてメディアを賑わす「影の銀行」問題がある。世界の主要国が金融緩和に踏み切る中、中国政府も同じように金融緩和に踏み切り、国内では行き場を失ったマネーが「理財商品」や「城投債」という財テク商品をつうじてバブルを膨れ上がらせてきた。砂漠の真ん中に突如あらわれる摩天楼や破格の価格がついた骨董品やぜいたく品が飛ぶように売れる市場などに象徴されるバブル景気に引きずられるインフレ率に追いつかない賃上げや預金金利は、金利3%程度の預金金利を大きく上回る10%の利回りをもつ「理財商品」に庶民のたくわえを流し込んでいるが、すでに「ねずみ講」的自転車操業になっている「理財商品」も少なくなく、部分的あるいは全面的破綻は時間の問題となっている。


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この「危機の先延ばし」について、昨年7月に香港・先駆社のウェブサイトに発表された「社論」は次のように解説している。


「中国共産党はアメリカなど他の国と比べて、経済危機が中国に及ぼす影響を緩和する能力をもっている。これは事実である。しかし中国共産党特有の能力ではなく、中国共産党がなにか特別な方法を持っているというわけでもない。中国共産党は危機の際に採用した措置はなんら特別なものではなく、巨額のマネーで銀行と金融事業活動全体を支えたにすぎない。中国政府は金融危機の爆発ののち、4億元の経済救済措置を宣言したが、その額はアメリカ政府のそれよりも多く、全世界はこれほどの大規模の費用を投じて市場を救うことができるのは中国だけだと考えた。」


「もちろん中国共産党だけが可能であった理由は、中国共産党が全体主義政府であり、資金の使い方も監督されず、なんら議論を経る必要がなかったからである。さらに、中国共産党は大金持ちでもある。中国経済が発展して以降の果実の圧倒的大部分は政府によって握られている。お金はあるし、使い方に制約がないのであれば、アメリカ政府をしのぐ対策をとることができてもおかしくはない。翻ってアメリカでは、資金は政府が保有しているのではないし、大統領一人がコントロールできるものでもなく、議会と大統領のあいだでは対立もあることから、資金の使い方については中国共産党のように大盤振る舞いできるというわけではないのである。」


「厳格にいえば、2008年当時の経済危機が中国にまで蔓延したとは言えない。それ以降の数年もGDPは成長しつづけており、成長率も過去とそう変わりはないからだ。もしブルジョアジーの定義によるなら中国経済の景気は後退してはいないのである。それゆえ資金を拠出したのは、問題が発生した経済を救済するためではなく、経済後退を防ぐためであったともいえる。」


「それ以上に重要なことは、危機の爆発を防ぐあるいは危機を救い出すために、政府が民間、あるいは外資が投資を控えているときに政府資金を大量に投入するという一般的な救済方法は、大きな後遺症を引き起こす。投資が足りないと救済の効果ははっきりとしない。投入資金が多くても、市場は縮小しているのですぐには資金を回収できず、インフレを引き起こすことにもなる。ブルジョアジーの経済理論では、このような方法(政府支出の拡大)を採った場合、必ずインフレーションという後遺症が発生する。中国でもこの後遺症の回避には成功していない。中国経済は後退してはいないが、ここ数年の物価の絶えざる高騰によって、人民の生活はますます困難なものになっている。これだけを見ても、中国で行われている経済救済の方法が何ら新しいものではなく、他の資本主義国家に比べても特に優れたものではない。」


理財商品「松花江77号」のデフォルトは、「無尽蔵の財宝も捨て去って、流浪、また流浪」の民衆を作り出すことになるのだろうか。