20140303
人民協商会議の開幕式で昆明事件の犠牲者を追悼する習近平(中央)ら(3月3日)

3月1日午後9時ごろ、中国南西部の内陸の雲南省の省都で「春城」の別名もある昆明市の駅前広場で、死者29名、負傷者143人を出す集団襲撃事件が発生した。事件は、4日後の3月5日には一年に一回の全国人民代表大会を控え、会場の北京をはじめ全国の主要都市では、「中国の夢」という華やかなスローガンには似つかわしくない厳戒警備体制のさなかに発生した。襲撃犯らは昆明駅の切符売り場に侵入し殺傷を続けた。死傷した多くは内陸の昆明から沿海部へ出稼ぎに向かおうとしていた農民工らであった。彼ら、彼女らにとってはまさに悪夢でしかない。

習近平総書記、李克強総理ら指導者は緊急の指示を出し、翌2日未明に公安部門を司る党の中央政法委書記の孟建柱、政府の公安部部長の郭声琨らを現地に派遣した。同日、最高人民検察院も捜査班を現地に派遣した。

犯人は当初10余名と伝えられた。その場で4人が射殺され、女性1人を拘束した。翌3月2日には、開催を次の日に控えた全国人民政治協商会議の呂新華報道官が「新疆分裂勢力が組織的に画策した重大な暴力テロ事件だ」と述べた。3日夜に、逃走中とされた3人も午後に逮捕されたという報道が伝えられた。

中国公安部のウェブサイトが3月3日に掲載した情報によると、襲撃したのはアブドレイム・クルバンを中心とする8人(男6、女2)のテログループだという。だが、3月5日現在、それ以外の情報はどの報道機関も報じていない。

ハッキリしているのは、犯人は3月5日の全人代開幕式までに逮捕されなければならなかったということである。

3月3日に開幕した全国人民政治協商会議の開幕式では、共産党政治局常務委員が7人全員列席し、冒頭に3月1日に雲南省昆明で発生した大量殺戮事件の犠牲者に黙祷がささげられた。

4日には習近平国家主席が同会議の少数民族委員の会議に参加し、「民族政策は大局に関わる。中国の特色ある社会主義の道を堅持し、新情勢下で民族政策を着実に進め正しい政治方向性を確保しなければならない。」「少数民族地区の経済社会の発展のテンポを速め、民族地域の大衆が実際の恩恵を得なければならない。」「団結安定は幸福、分裂動乱は災厄である。全国の各民族人民は民族団結の政治局面を大切にし、民族団結を損なう一切の言動に断固反対しなければならない」と発言している。

5日に開幕した第12期全国人民代表大会第2回会議の政府活動報告のなかで李克強総理は「社会治安の総合統治を強化し、暴力テロ犯罪活動に断固たる打撃を与え、国家安全のイメージを維持し、良好な社会秩序を形成しなければならない」と述べた。

170余名もの無辜の死傷者を出した襲撃事件は許されるべきものではない。ましてや中国政府に対する抵抗の意思を示したのであればなおのことである。海外にサーバーを置くいくつかのサイトでは事件直後の画像や襲撃に遭った遺体、そして犯人らが所持していたとされる黒地に白で描かれた星と月の模様とウィグル文字の書かれた黒旗、8人の容疑者らの指名手配写真、そして現場で逮捕された黒装束の女性容疑者が治療を受けている姿などが掲載されている。

だが「良好な社会秩序」の一環である良好な民族関係を構築するために民族自治を訴えてきたウィグル族の研究者、イリハム・トフティ氏に対する拘束がいまだにつづいていることをあげるまでもなく、良好な社会秩序を脅かす原因のひとつに現在の中国の民族政策があることもまた確かである。雲南省ではウィグル族とみられる市民に対する強権的な捜査が展開されている。新疆ウィグル自治区では3月13日の会議終了日まで、いやそれ以降も厳しい抑圧体制がつづく。悪夢はここでも続いている。

「勝利を得た社会主義は、かならず完全な民主主義を実現しなければならない。したがって、諸民族の完全な同権を実行するばかりでなく、被抑圧民族の自決権、すなわち自由な政治的分離の権利をも実現しなければならない。隷属させられた諸民族を解放し、自由な同盟――ところで、分離の自由なしには、自由な同盟はごまかし文句にすぎない――にもとづいてこれらの民族との関係を打ち立てることを、現在も、革命のあいだにも、革命の勝利のあとでも、その全活動によって証明しないような社会主義諸政党は、社会主義を裏切るものであろう。」(レーニン「社会主義革命と民族自決権(テーゼ)」より)

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3月5日から13日の日程で第12期全国人民代表大会第2回会議が開催されている。全人代の役割は国務院による法案を審議・制定する機関で年一回開催される。日本の国会に相当するが、国会議員に相当する全国人民代表は「中国の特色ある民主制」によって選出される。国務院の李克強総理(党ナンバー2)による今後1年の経済運営をふくむ政府活動報告に注目が集まる。

中国では全人代に先立ち、全国人民政治協商会議第12期全国委員会第2回会議が3月3日から12日までの日程で開催されている。最初の全国人民政治協商会議は、新中国建国直前の1949年9月に、国民党を除く有力党派7党に共産党が呼びかけて開催。国民党の一党独裁にかわる新民主主義社会の建設を目的とした臨時議会の役割を果たし、「中国人民政治協商会議共同綱領」などを採択し、毛沢東を中央人民政府の主席に選出し、国旗・国歌を制定した。

「共同綱領」は1954年に立法府として設立された全国人民代表大会で「中華人民共和国憲法」が採択されるまで事実上の憲法としてあつかわれた。朝鮮戦争など帝国主義による攻勢のなか、毛沢東は53年元旦に過渡期の総路線を掲げたことで「共同綱領」に体現された「新民主主義」という二段階革命の方針は事実上破棄されていくが、全国人民政治協商会議は、文革中に一時機能が停止されたがその後復活し、現憲法においても社会主義建設における重要かつ広範な統一戦線組織として位置づけられ、全人代に平行して開催されている。3月2日までに1130件の提案、637件の法案が提出されており、会議のなかでも議論が行われるが、しかしその実態は共産党の提示する方針や法案を後押しするためだけのお飾り的機能を果たすに過ぎない。

今回の全体会議に参加した政治協商会議の委員は2000名を越す。各党派、各界の内訳は以下のとおり。

中国共産党98人、中国国民党革命委員会64人、中国民主同盟65人、中国民主建国会65人、中国民主促進会45人、中国農工民主党45人、中国致公党30人、九三学社45人、台湾民主自治同盟20人、無党派65人、中国共産主義青年団9人、中華全国総工会62人、中華全国婦女聯合会67人、中華全国青年聯合会30人、中華全国工商聯合会64人、中華科学技術協会43人、中華全国台湾同胞聯誼会15人、中華全国帰国華僑聯合会28人、文化芸術人145人、科学技術研究者111人、社会科学研究者69人、経済界153人、農業界67人、教育界111人、スポーツ界21人、新聞出版界44人、医薬衛生界89人、対外友好界41人、社会福祉社会保障界36人、少数民族103人、宗教界66人、香港ゲスト124人、マカオゲスト29人、特別ゲスト161人

2014年3月5日 (H)