imagesP441HJ68公安政治警察が大喜びの始関判決



東京地裁(始関正光裁判長)は、1月15日、公安テロ情報流出被害国家賠償請求事件について被告の東京都に対して9020万円の賠償を命じる判決、国への請求は棄却した。

判決は、流出した文書について「警察が作成し、警視庁公安部外事三課が保有していたデータを警察職員が持ち出した。警視庁は情報管理を怠った」、「警視庁の情報管理体制が不十分だったため流出し、イスラム教徒らの名誉を傷つけた」と認定した。しかし、原告とムスリム違法捜査弁護団が主張した公安外事課の違法捜査、宗教差別などについてことごとく否定し、「そこまで言うか」というほど公安を防衛する内容になっている。

始関判決は、明らかに特定秘密保護法制定のうえで「テロ情報」を特定秘密として民衆から隠し、違法捜査を強化していく判例となる危険性を持っている。公安政治警察が判決に対して「妥当な判断」「テロリストや関係者が潜む可能性を否定できない。こうした活動は必要だ」(朝日新聞/1月16日)と大喜びだったことがその現われだ。始関判決をバネとした公安政治警察、公安調査庁、自衛隊情報保全隊の暗躍を許さないために反動判決の検討が必要だ。



違法捜査を免罪



2010年10月28日、インターネット上にグローバル派兵国家建設と連動した対テロ治安弾圧体制の一環として作られた警視庁公安部外事三課のテロ情報が流出していることが発覚した。2007年~09年にかけて公安がイスラム教徒をテロ犯予備軍として捜査、訊問を繰り返し、国籍、氏名、電話番号、旅券番号、職業、家族構成、交友関係などを一人一人調べ上げ、人権侵害、差別・排外主義に貫かれた報告書など114点をデッチ上げていたことが社会的に明らかになった。ところが警視庁は、11カ国からもアクセスがあり、毎日データが国内外に拡散し続 けていたにもかかわ
らず、速やかな流出拡大対策、被害者防衛措置をとらず、謝罪もせず、外事三課から流出したことを否定しつづけながら、組織防衛のために必死に内部の犯人捜しを続けていた。

17人の原告(アルジェリア人、モロッコ人、イラン人などの外国人14人、日本人3人)は、東京地裁に「警視庁、警察庁及び国家公安委員会が、人権を侵害する態様で被害者らの個人情報を収集し、収集した個人情報を正当な理由無く保管し、かかる個人情報を漏洩させ、さらに、漏洩後に適切な損害拡大防止措置を執らなかった」ことを理由として総額1億5400万円の損害賠償を請求した。

しかし東京都と国は、原告の流出情報が警察のものであったのかという追及について「個別に明らかにするのは適当でない」などと回答を拒否し、「違法捜査による重大なプライバシー侵害だ」という批判についても「テロ防止のために情報収集は必要だ」と居直り続けた。



差別・排外主義が前提



東京地裁は、争点に対して以下のように不当な判断をしている。

争点1の「警視庁及び警察庁による個人情報の収集・保管・利用についての国家賠償法上の違法性の有無」では、地裁は流出情報が「警視庁公安部外事第三課が保有していたものであると認められる」とした。

しかし公安のプライバシー侵害などの違法捜査について、「警察法により犯罪の予防をはじめとする公共の安全と秩序の維持を責務とされている警察にとって、国際テロの発生を未然に防止するために必要な活動であるというべきである」として防衛した。

明らかにイスラム教徒=テロ犯罪者という宗教差別であり、その前提で日常生活とモスクへの出入り監視、交友、仕事などを調べ続けたことに対して「それ自体が原告らに対して信教を理由とする不利益な取扱いを強いたり、宗教的に何らかの強制・禁止・制限を加えたりするものではない」と否定したのである。

しかも「イスラム教徒のうちのごく一部に存在するイスラム過激派によって国際テロが行われてきたことや,宗教施設においてイスラム過激派による勧誘等が行われたことがあったことといった歴史的事実に着眼して、イスラム過激派による国際テロを事前に察知してこれを未然に防ぐことにより、一般市民に被害が発生することを防止するという目的によるもの」「本件情報収集活動自体は、国家が差別的メッセージを発するものということはできず、原告らの国家から差別的に取り扱われない権利ないし法的利益を侵害したともいえない」と居直り、憲法13条(個人の尊重(尊厳)、幸福追求権及び公共の福祉)に「違反するものではない」とまで言い切るしまつだ。

公安政治警察の違法捜査を免罪するなら、あらためて浮き彫りにしておかなければならない。

「事情聴取されたイスラム関係者たち」の捜査では訊問強要だけではなく、「モロッコ大使館コックからの情報収集」「ハマスに好意をもつパレスチナ人の事情聴取」「テロリストへ流出可能性ある資金の情報持っている可能性あり」として「協力者」「情報線」の獲得工作も行っていた。「元アルジェリア人の妻」であることが理由で日本女性が「要監視対象」になっていたほどだ。

「要警戒対象の視察行動確認」作業は、イスラム教徒が集うモスクを監視するために拠点としてマンションを借り上げ、218人の公安を24時間ローテーション配置、14台の車両を配備していた。これだけの大掛かりな「捜査」を展開していたが、どこにもテロ犯人などは潜んでおらず、テロ情報のほとんどがニセ、インチキなものであることが大半なのだ。公安の延命のために「仕事」を作り出すという単純な取り組みとなっている。

「国内のイスラム・コミュニティ監視」でもモスクだけではなく各団体、食料店等の個別調査まで広げている。「特異動向」などと位置づけて出入り総数、リスト、追跡調査までやり、事後報告リストを積み上げているのだ。イスラム、アフリカ料理店をピックアップし、テロ犯の「集合場所」「インフラ機能を果たすおそれがあり」などと決め付けて監視を続けていた。

在日イラン人に対する監視、尾行、調査の強化の現われとして「イラン大使館の給料支払いを東京三菱銀行の協力で調査」「イラン大使館員50名の全給料明細」「イラン大使館からの振込口座・金額明細」までやってのけている。しかも公安の資料提出要求に対して銀行、レンタカー会社、ホテル業、化学・薬品会社などが顧客リスト、利用者情報を言われるままに提供している実態も明らかになっていた。

宗教差別、人権侵害のきわめつけがムスリム・コミュニティに対する監視の一環として潜入捜査、スパイ獲得のための踏み込みだ。「日本人が入り込む 余地のない外国人だけで生活できる日本の中の
外国のような地域が犯罪の温床になったり、テロリストの隠匿場所になったりするおそれが大きいため、共生による取組みで地域にとけ込ませるようにすることでその動きを把握しようとするものである」などと意志一致している。

さらに「ムスリム第二世代の把握」を行えとまで主張している。「15歳以上のムスリムについては就職適齢年齢であり、ホームグローンテロリストの脅威になりうる存在であります」から「・子供のためのコーラン教室参加者から把握 ・自転車の防犯登録のデータベースにより把握 ・スクールサポーター等を通じた把握(イスラム教を起因とする学校における相談事案等の取扱い)」にまで網を広げろというのだ。

しかも第二世代は、「ムスリム特有の行動や外見上の違い等に起因するいじめや差別」「イスラムの教えを実践させようとする親の意向とそれを望まない本人との対立」があるから、「 これらの問題は将来、日本社会
に対する不満へと発展し、その不満が第二世代の過激化の要因となる可能性もあります」などと差別・排外主義、手前勝手な解釈で違法捜査を開き直っている。

争点2の「本件流出事件についての国家賠償法上の違法性の有無」では、原告と弁護団は公安外事三課の管理監督の組織的責任を追及したが、「その監査権限には限りがあり、監査責任者が恒常的に監査を怠っていたとか、監査によって不十分な点を発見したのにその指摘を怠ったというような事情は認めることができないから、被告国には本件流出事件発生の責任はない」と防衛した。警察官僚の責任を棚上げし、公安外事三課に押し付けてきたシナリオをそのまま追認したのである。

警視庁と警察庁は、情報流出の発生元であることを否定しつづけたばかりか、被害者への緊急防衛措置さえもまともにやらなかった。だが判決は、「原告らの個人情報を含め流出したデータを全面的には削除することができなかったものの、尽くすべき義務は尽くしたものと認められるから、被告らにはこの点についての責任はない」と言うのだ。過失を認定しているにもかかわらず、「責任はない」と露骨な大甘な判断だ。

争点3の「原告らの損害」では、「原告らが受けたプライパシーの侵害及び名誉棄損の程度は甚大なものであった」と認定しながら、「本件データ中の書面においてテロリストであるような表記をされた原告の妻として、氏名、生年月日,住所のみが流出したにすぎないことから慰謝料額を200万円と認める」と格差をつけることまでやってのけている。



公安は解体だ!



ほんの一端だが、これが公安政治警察の本性なのである。地裁は、こんな差別・排外主義、人権侵害に満ちて腐敗・堕落した権力組織を地裁が防衛しぬいたのである。犯罪者擁護の確信犯だ。

判決後、原告は「人生をめちゃくちゃにされた」、「私も子どももテロの容疑者扱いをされた」と糾弾した。弁護団は、「人権に対する配慮を欠く」「情報収集自体が秘匿され、公安当局の捜査に歯止めがかからなくなるのでは」(朝日新聞/一月一六日)と警鐘乱打した。公安政治警察を防衛する始関判決を許さず、公安政治警察、公安調査庁、自衛隊情報保全隊の解体にむけて反弾圧戦線を強化していこう。

(Y)

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