20120310142629774 安倍政権と自民党は、10月15日からの臨時国会にグローバル派兵国家建設の一環である特定秘密保護法案と国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案を提出し、成立を強行しようとしている。すでに自民党は、両法案を連日にわたって強引に審議することができる国家安全保障に関する特別委員会の設置を表明し、公明党との協議のうえで17日の衆院本会議で賛成多数で特別委員会設置を決めてしまった。政府は二五日に法案を閣議決定し、国会に提出する。

 公明党は、特定秘密保護法案に対する多くの危惧、反対の圧力を受けながらも日米安保強化の観点から法案成立を実現するために政府と修正協議を行い合意した。

 法案の当初案には「特定秘密指定などの運用基準」がなかったが、修正案で「政府は、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し、統一的な運用を図るための基準を定める」とした。

 「特定秘密の指定」は①防衛に関する事項②外交に関する事項③外国の利益を図る目的で行われる安全脅威の防止に関する事項④テロ活動防止に関する事項をあげているが、その「運用基準」なるものが具体的に明らかになっておらず、新たなベールをかかったままで法案を提出しようとしている。たとえ「基準」なるものが出てきても「国家利益に反する」「公共の安全に反する」などと抽象的かつ広範囲に解釈できる文言であることが予想できる。

 しかもその「基準」が明らかになっていないにもかかわらず、修正案では「政府は、前項の基準を定め、又は変更しようとするときは、わが国の安全保障に関する情報の保護、行政機関等の保有する情報の公開、公文書等の管理等に関し優れた識見を有する者の意見を聴かなければならない」とした。要するに政府に忠実なメンバーを指定するのは必至であり、情報操作することでしかない。

 「知る権利」に関しては、「この法律を拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害することがあってはならない」とした。やはりこの判断も権力側にあり、恣意的に使い分けることが可能なのだ。そもそも特定秘密指定の行為者は、権力であり、官僚らの手前勝手な認定を乱発していく。従来の情報隠蔽の罪業からすれば当然の立ち振舞いとして強行してくるだろう。



法案の根本性格はなんら変わっていない



 また、「報道」に関しては、「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」とした。ここで大きな「罠」を埋め込んだ文言が、「十分に配慮」だ。ここも権力側の身勝手な解釈は可能であり、秘密保護法によって不当弾圧しても「十分に配慮」したうえでの法適用だと居直れるのだ。広範囲に弾圧の網をかけ、情勢判断から的確な打撃を与えるために取捨選択し、ターゲットを絞込み不当逮捕を決行する。このような手法を公安政治警察が「得意」としている。

 同様に、「出版又は報道の業務従事者の取材行為は、公益を図る目的を有し、かつ法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、正当な業務による行為とする」とした。結局、「著しく不当な方法によるものと認められない限り」などと言っているが、トータルなプロセスから「特定取得行為」として処罰するのは権力だ。しかも、その独立教唆や共謀・煽動なども処罰しようとしているではないか。ここにはなんら歯止めのシステムも設定していない。

 このように法案は、「特定秘密の指定」、「適性評価の実施」、「特定秘密の提供」、「特定秘密の漏えい等に対する罰則」についての基本的変更はなく、文言上に若干の加筆を加えただけだ。特定秘密を漏らした政治家、国家公務員、民間人を最高で懲役一〇年を科し、基本的人権の侵害、報道規制の性格はまったく変更はない。



福島県議会意見書を受け止めろ



 NHKの「特定秘密保護法案」に関する世論調査(一〇月一二日~一四日)によれば内容を「知っている」が二三%、「知らない」が七四%だった。政府は、民衆が法案の実態を知らないまま強行制定をねらっている。反対運動にとっては七四%の民衆を反対勢力へと獲得しなければならないということだ。

 福島県議会は、一〇月九日、「特定秘密の保護に関する法律案に対し慎重な対応を求める意見書」を採択した。

 意見書は、「当県が直面している原子力発電所事故に関しても、原発の安全性に関わる問題や住民の安全に関する情報が、核施設に対するテ口活動防止の観点から『特定秘密』に指定される可能性がある。記憶に新しいが、放射性物質の拡散予測システムSPEEDIの情報が適切に公開されなかったため、一部の浪江町民がより放射線量の高い地域に避難したことが事後に明らかになるケースがあった。このような国民の生命と財産を守る為に有益な情報が、公共の安全と秩序維持の目的のために『特定秘密』の対象に指定される可能性は極めて高い。今、重要なのは徹底した情報公開を推進することであり、刑罰による秘密保護と情報統制ではない。『特定秘密』の対象が広がることによって、主権者たる国民の知る

権利を担保する内部告発や取材活動を委縮させる可能性を内包している本法案は、情報掩蔽を助長し、ファシズムにつながるおそれがある。もし制定されれば、民主主義を根底から覆す瑕疵ある議決となることは明白である。よって、国においては、特定秘密保護法案に対し、慎重な対応をするよう強く要望する」として「地方自治法第九九条の規定により」「衆 議 院 議 長 参 議 院
議 長 あ て 内 閣 総 理 大大臣」に提出した。

 福島県議会意見書は当然の要求である。福島第一原発事故、汚染水問題は現在進行形であり、すべてが情報公開されているわけではない。政府は秘密保護法によって数倍も都合が悪い事実、被害状況を隠蔽してしまうだろう。安倍政権は、福島県議会の意見書を真摯にうけとめ、法案提出を中止しろ。原発再稼働どころではない。(Y)