12th1(1936年、4年後のオリンピック開催決定に歓喜する人々)

放射能汚染はないとのウソ

 九月七日(日本時間八日早朝)、南米アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の総会で、二〇二〇年の夏季五輪とパラリンピックの東京開催が決定した。東京開催が決まるやNHKを始めとする各テレビ局が待っていましたとばかりアスリートやスポーツ番組の解説者を起用し特番を組んだ。

 この特番を見ていて一番怒りが込み上げてくるのは、最終プレゼンテーションの中で語られる招致委員の「東京開催は復興に対して勇気を与えてくれる」という被災地に対する利用主義的発言。招致委員会の委員長である竹田恒和JOC理事長に至っては「東京開催の最大の売りは『安心・安全』『確実な運営』だ」と何度も叫び、報道陣の「汚染水」に対する質問には東京と福島の距離を強調し、「放射能に対して東京はなんの心配もいらない」と言い出す始末。テレビに向かって「福島はどうなってもいいのか」と叫びたくなるのは私だけではないであろう。

 さらにプレゼンテーションの最後に登壇した安倍首相は「状況はコントロールされている。東京にダメージを与えるようなことは絶対にない。…抜本解決に向けたプログラムを私が責任をもって決定し、すでに着手している」とウソを並べ居直っている。

 二〇二〇年夏季五輪の開催地をめぐるIOCの思惑は次々と破綻した。最後に選択したのが実は東京であった。しかし総会直前に福島第一原発の「汚染水」問題が明らかにとなり、最大の投票権を持つヨーロッパに動揺が走った。これを抑えるためにIOCが作ったシナリオが「政府の責任での解決」であったと言われている。IOC問題で紛糾したり、再び開催地都市が決まらなく困難を必死に回避したのである。

 その「苦労」は投票経過に一目瞭然である。開催地から外れる都市にも傷がつかないように十分に気配りがなされている。最初の投票では二位と三位のマドリードとイスタンブールは同数。再投票でマスコミを通して最も優位だというマドリードが敗れ、イスタンブールが勝ち東京との決選投票、ここでは東京が六〇票、イスタンブールが三六票で完全に東京が過半数を獲得し、どこからもクレームが出ないようにシナリオはつくられたものである。



東京開催へと至る駆け引き



 二〇〇九年に、二〇一六年の開催地がブラジルのリオデジャネイロに決まった時、オバマ米大統領が最終プレゼンテーションしたシカゴは落選した。この時リオデジャネイロとともに最終選考に残ったのがマドリード、そして東京であった。ここから最終選考に残った二都市とイスタンブールの二〇二〇年の開催に向けたレースが始まった。同時にスポーツマフィアと呼ばれるIOCの闘いも動き出した。

 まず最初にレースから撤退を強制されたのはヨーロッパの経済危機に直撃されたスペインのマドリードであった。マドリードは二〇一二年、二〇一六年に続いて三回連続立候補し、二〇一六年の開催レースではリオデジャネイロに続いて第二位であったが間髪を置かず切り捨てられた。IOCが有力な開催地候補としてターゲットにしぼったのは中国、インド、ブラジルに続き高い「経済成長」を遂げるトルコ・イスタンブールであった。トルコは中東の中でも政府の支配体制が「比較的温厚なイスラム主義」であり、さらに開催地決定を「民主主義」というオブラートで包むことを可能にする「アラブの春」が追い風になると考えられた。

 人口の二分の一が二五歳以下で、サッカー以外のスポーツ種目を中東・イスラム圏に波及させる突破口にふさわしいとIOCは考えたのである。「ヨーロッパとアジアの架け橋」「イスラム圏での最初の五輪」というキャッチフレーズをマスコミに流したのもスポーツマフィアであるIOCであった。

 この段階でも東京は第三位の候補地であり、あくまでもマドリード、イスタンブールのスペア・保証としか考えられてはいなかった。

 だが二〇一一年、シリアにおける民衆の反アサド闘争が高揚し、さらに外部のイスラム勢力が双方の陣営に加わり内戦に発展し、トルコ国境も戦場に巻き込まれるに至った。そして今年になるとイスラム化を強める政府に対して公然と民衆の反乱が始まり、スローガンの中に「五輪反対」も加わり、IOCは最も有力な開催候補地として決めていたイスタンブールからの撤退を決め、東京開催に動き出したのである。それは東京招致委員会が激しく動き出したのと軌を一にする。



多様な角度で五輪反対を!



 こうしたIOCの動きに合わせ招致委員会の動きも活発となり、都議会自民党と猪瀬都知事との手打ちが進められた。石原時代のオリンピック誘致をめぐり神宮再開発か臨海地帯再開発かで対立を繰り返してきた財界、都庁の和解がなり、神宮に新スタジアム、球場、ラクビー場を新設、ベイエリアには選手村、メディアセンター、新たな競技場の建設という形で妥協がなされた。

 先日政府の提出した概算要求の中に新スタジアムの予算が計上されているのは一連の結果である。これに基づき五輪のすべてを采配する「組織委員会」がつくられる。

 五輪の収入は、①TVなどの放映権料②スポンサー収入③入場料④記念グッズの販売などであるが、このほとんどはIOCとJOCなどのスポーツマフィアのポケットに入る仕組みになっている。また専門家が試算した二兆九〇〇〇億円になる東京五輪の経済波及効果は、銀行など金融機関やゼネコンなどの大企業に流れ、経済波及効果の原資はすべて国と都の税金で埋められるのである。その額は二兆円を超すと言われており、消費税増税のテコとなり、これが福祉の切り捨てなどとして具現してくるのである。

 五輪の開催は労働者人民の生活を破壊するだけではなく、歴史的に何度も繰り返してきたようにスポーツを利用した民族主義・国家主義を動員して排外主義を煽ってきた。安倍政権が押し進める憲法改悪に東京五輪がそのまま利用されるのは明白である。開催地決定の過程で「被災地の復興」を利用し、さらにその復興資金さえ五輪のために流用され環境が破壊される。われわれはあらゆる側面で五輪を口実にした攻撃に直面するであろう。われわれはあらゆる場所であらゆる機会を利用し五輪反対の声をあげよう。

(MD)