DSCN3337 11月10日、アジア連帯講座は、文京シビックセンターで「労働者を襲う解雇・失業・被曝労働に抗して」というテーマでいわき自由労働組合の桂武さん(書記長)、齋藤春光さん(同組合員)から問題提起が行われた

 3・11東北大震災と津波によって、いわき市沿岸部は、壊滅的打撃を受け、同時に東電福島第一原発事故によって被災に追い込まれた。多くの労働者は、会社の自宅待機命令のまま、賃金未払いのうえ自己都合退職など震災便乗労基法違反や解雇の横行にさらされた。いわき自由労働組合は、「雇用なき復興はあり得ない!」を掲げ、地域再生、産業と農業・漁業を再建するための復興資金の要求、失業者雇用の取り組みを行ってきた。

 さらに原発の中で被曝労働を続けている作業員、除染作業に従事する労働者の被ばく問題を取りあげ、生涯の健康管理と生活保障を要求している。放射能除染問題の取り組みを通してゼネコンと下請け企業によるピンハネ構造、「危険手当」の未払いなどの問題を労働運動として位置づけ反撃を開始している。被ばく労働を考えるネットワークの立ち上げにも参加し、闘う陣形を作り出しつつある。



『仮の街構想』について



 講座は山谷・野宿者運動に参加している仲間からの司会あいさつで始まり、「山谷では福島原発収束のための被ばく労働の募集ビラが配布されたり、電子柱に募集ポスターが貼られていたりしている。都の清掃工場のダイオキシンまみれの炉の清掃作業の募集もしている。こういう危険な作業に貧困層をターゲットに雇い、ピンハネによる不当な搾取が強いられている。被ばくネットの立ち上げは、大きなバネとなる」と発言した。

 齋藤さんは、「脱原発運動の課題と今後」について住民の取り組みから報告した。

 「12年9月にいわき市議選が行われた。市民の多数は、原発はいらないだが、選挙結果は原発維持派が多数となってしまった。東北電力と下請け企業が、フル回転して圧力をかけて選挙運動を展開した結果だ。原子力村(電力労連電気工事企業)を使って町内会まで網の目で学習会を組織している。こういった流れに抗して、住民自身の自己決定権を強化していく取り組み、東京電力福島第一原発事故の責任をあいまいにさせないために福島原発告訴団が結成し、原発事故を起こし被害を拡大した責任者たちの刑事裁判を求め、福島地方検察庁へ告訴した」。

 「『仮の街構想』では住民コミュニティーの解体と分散についてどうしていくのかなど大きな課題が突きつけられている。だが原発がどうなっているのか、高線量状態、放射能廃棄物、高レベル汚染水をどうするのか、インフラ整備も必要だし、被ばくの可能性もある。こういったことが論議されず『帰還』が言われている。しかも使用済み燃料の最終処分場は未解決どころか展望も出口も見えない。谷中村住民(足尾鉱毒事件)には強制移転後の困難な生活が強いられたが、再び繰り返してはならない」と批判した。



被ばく労働者と結びつくために



 桂さんは、「除染労働者へのピンハネ、未払い賃金、労働争議」について報告。

 「朝日新聞(一一・五)が『除染手当 作業員に渡らず』『消えた危険手当』『業者が中抜きか』と報じた。下請けの企業の労働者が被ばくネットに相談するなかで明らかとなった。福島第一原発周辺の警戒区域などでは、除染作業を行う労働者に基本賃金とは別に特別勤務手当(除染危険手当)が支給されることになっている。しかしゼネコンと下請けの多重請負構造の中で正当に支給されていない。しかも二次下請、三次下請会社の採用時に説明はなく、日当額を最低賃金にまで減額し、宿泊費を天引きするというものだった。除染労働者は、これに怒り集団交渉をしたが、『そんな金はもらっていない』と居直るだけだった。後にいわき自由労組に加盟し、団体交渉を行うが進展がなかった。特殊勤務手当の『中抜き』を許さず全額を獲得していく」。

 「そもそも除染の雇用は、ほとんどが雇用契約書のない口頭契約であり、労基法に違反しており、労働条件の変更が一方的に行われている。除染特別地域で支給される危険手当は、その危険性に対する手当として労賃と別枠で労働者に支給されるのであり、業者がピンハネできるものではない。危険手当が支給されることを根拠に労賃減額や宿泊費・食費天引きが行われるのは、事実上、危険手当の減額であり、認められない」など今後の課題を語った。

 さらに「被ばく労働者はいい給料を貰っていると誤解している人たちがいる。いい給料を貰っているのは一人もいない。社会保険がないのだから給料から引かれる。労災隠しがあるから労災補償もない。短期で被ばく線量は一杯になってしまう。雇用保険の適用もない。今では日当一万円になっている。さらに宿代が引かれる」という実態を紹介し、「現地の労働者と繋がった運動、生活支援も含めた連帯のあり方が求められている。労働者を意識した取り組みをぜひやっていただきたい」と強調した。

 討論では「巨額の除染費用の多くが大手建設会社に流れ、ピンハネ下請け構造が続いている」、「除染の効果の検証なしに行われている。除染後も再び高線量が戻っている実態がある」、「東電に福島第一原発の廃炉はまかせてはだめだ。この作業にも金儲け優先でやろうとしている。国家の責任をはっきりさせ、労働者管理していくことだ」、「孤立した労働者と結びつくためには、現地とつながった運動作りが求められている。論議と実践がもっと必要だ」などの意見があった。

 講座は、提起された課題をさらに継続して深めていくことを確認した。

(Y)