m0013159730(画像は8月15日に「釣魚台防衛」とともに「靖国参拝抗議」「元"慰安婦"への賠償」などを訴えて台湾台北で行われたデモ)
 
二〇〇〇万人を超えるアジア民衆、三一〇万人の日本民衆の悲惨きわまる死をもたらした天皇制日本帝国主義の侵略戦争が敗北に終わった八月一五日。今年の「八・一五」は韓国、中国との「竹島」(独島)、「尖閣諸島」(釣魚諸島)をめぐる紛争の新たな顕在化の中で、排外主義的ナショナリズムと「領土保全=安全保障の危機」キャンペーンが、日本国内であらためて大きくかきたてられている。

 八月一〇日、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は、「竹島」(独島)に韓国大統領として初めて上陸した。イ・ミョンバク大統領は、日本政府が慰安婦問題の解決のための韓国政府の要請を拒否し、「一九六五年の日韓条約で解決済み」との態度を取り続けていることへの批判である、と語った(八月一三日)。さらに八月一四日には「天皇は韓国を訪問したがっているが、独立運動で亡くなった方々を訪ね、心から謝るなら来なさい」との発言も行った(後にこの発言の一部を訂正したが)。

 イ・ミョンバク大統領のこの行動や発言が、どのような思惑から発せられたかにかかわらず、われわれは「慰安婦問題の根本的解決」すなわち日本軍「慰安婦」への謝罪と補償を求める主張が正当なものであり、日本の労働者・市民自身の課題として日本軍「慰安婦」への謝罪・補償を通じて、彼女たちの「正義」を日本政府に求めていかなければならない、と考える。そのことは、イ・ミョンバク大統領による今回の「独島上陸」行動の政治的意図の分析とは相対的には別個に確認するべきことである。



 「竹島」(独島)が「日本固有の領土」であり、「竹島は韓国によって不法占拠されている」という立場も撤回させなければならない。何よりも、一九〇五年の竹島の「日本領土編入」が、一九〇四年八月の第一次日韓協約、一九〇五年一一月の第二次日韓協約による韓国の「保護国化」を経て、一九一〇年の「韓国併合」に至る日本の朝鮮植民地化のプロセスの不可分の一環であることは、誰にも否定できない歴史的事実だからである。

 ところが、たとえば朝日新聞は「竹島問題、なぜおさまらないの」と題したニュース解説欄(「ニュースがわからん!」八月一六日朝刊)で、「日本は遅くとも江戸初期には領有権を確立したと考えている」との政府見解を無批判に掲載している。しかし江戸時代初期に「竹島」と呼ばれていたのは現在の韓国領鬱陵島なのであり、一六九六年に江戸幕府は朝鮮との交渉の中で鬱陵島が朝鮮領であることを承認し、幕府は鬱陵島への日本人渡航を禁止した。そして当時、鬱陵島への航行の目印として、日本名「松島」と呼ばれていた現在の「竹島」は、絶海の無人島として一九世紀半ばにいたるまで忘れ去られてしまった、というのが事実なのだ。
 
明治政府が一九〇五年二月に竹島の領有を宣言したのは、「江戸初期に領有権を確立していた」などという偽造に基づいたものではなかった。時の日本政府は、「竹島がどの国の領有権も及んでいない『無主の地』」であるという確認に基づき「無主地先占」の原則を振りかざして「竹島」(独島)の島根県への編入を行ったのである。「江戸時代初期に領有権を確立していた」のであればそんなことはしないはずだ。そして一〇年前の「尖閣諸島領有」時と同様に、「竹島領有」にあたっても国際的な「通告」はいっさい行われていない。

 野田政権は、この「竹島」(独島)へのイ・ミョンバク韓国大統領の「上陸」に抗議して、武藤駐韓日本大使を召還するとともに、五〇年ぶりに竹島の領有権問題を国際司法裁判所(ICJ)に提訴する強硬方針を固めた。さらに安住財務相は「日韓通貨協力」の打ち切りも示唆している。

 しかしこの問題の本質が、日本の朝鮮植民地支配、とりわけ日本軍「従軍慰安婦」への謝罪と補償を実現することであることを明確にしなければならない。「慰安婦」問題の解決をさしおいて、「竹島」(独島)の領有権を主張し、領土主義的ナショナリズムを煽りたてることこそ批判しなければならない。「日本の領土を韓国が不法占拠している」と声高に主張することをやめ、植民地支配の完全な清算への努力を進めることこそが出発点なのである。

 

 イ・ミョンバク韓国大統領の「竹島」(独島)上陸に続いて、八月一五日には香港からの抗議船に乗った七人が「尖閣諸島」(釣魚諸島)の魚釣島に上陸し、上陸した香港保釣行動委員会のメンバーと抗議船の乗組員など一四人が沖縄県警と海上保安庁に逮捕され、強制送還されるという事件が発生した。

われわれは「尖閣諸島」の日本の領有権主張に対して一貫して反対してきた。「尖閣諸島」の日本領有が、一八九四~九五年の日清戦争による台湾植民地支配と軌を一にしたものであり、それはおよそ国際法的にも正当化されないものだからである。そしていま、石原都知事による「尖閣諸島」の買い取り宣言や、野田政権による「国有化」の検討が、「中国の脅威」に名を借りた、沖縄を拠点とする日米軍事同盟の実戦的強化と一体のものであり、それと連動した排外主義的ナショナリズムのキャンペーンと連動しているからである。

ところが民主党、自民党から共産党、社民党にいたるまで左右を問わずすべての議会政党、そしてマスメディアが「日本固有の領土」である竹島、尖閣諸島の領有権を毅然とした態度で防衛せよという主張で一致している。野党の側は野田政権の「弱腰外交」を煽りたて、民主党政権が政治能力を喪失し断固とした対応を取れないからこそ、ロシアや韓国や中国の「不当な領土侵犯」に火をつけたと批判し、森本敏防衛相の「イ・ミョンバク大統領の竹島上陸は韓国の内政問題」という言及を取り上げて、野田政権を揺さぶっている。

そしてメディアでは、あたかも中国の「領土拡張」主義によって「尖閣諸島」で日中両国の軍事衝突が近々発生するというような危機アジりが横行している。そして同時に、この「軍事衝突」の可能性も見据えて、それに備えるために「日米の動的協力」が必要なのだとする主張が前面に押し出され、オスプレイ配備に反対する沖縄・「本土」の世論を抑え込もうという主張も強まろうとしている。



八月一八日、自民党の山谷えり子参院議員が会長をつとめる「日本の領土を守るために行動する議員連盟」が呼びかけ、自民、民主、きづなの国会議員八人が「尖閣洋上視察」を名目に石垣島から漁船で、尖閣諸島海域に向かった。この漁船には一六人の地方議員と極右のスター・田母神俊雄元航空幕僚長も乗った。同じく宮古島と与那国島から総勢一五〇人が二一隻の船で、尖閣海域に向かった。そのうち地方議員をふくむ一〇人が魚釣島に「日の丸」を掲げて上陸するという挑発を行った。

極右ナショナリスト・排外主義者たちのデモンストレーションである。国会解散・総選挙を見据えたこうした動きにはっきりと反対しよう。共産党、社民党は「北方諸島・竹島・尖閣諸島」への領土要求に加担してはならない。

 オスプレイ配備に反対する闘いは、「日本の領土が脅かされている」というキャンペーンを明確に反対することによってこそ、真に一貫性を持って繰り広げられることになるのである。「領土」問題を振りかざすことは、民衆間の連帯によって平和を達成しようとする努力を妨げるものでしかない。

(8月19日 K)