画像+005「ババ・ジャンを釈放せよ」 「フンザ・ファイブ、ファイサラーバード・ナインを釈放せよ」 「獄中弾圧をやめろ」
 

 六月二七日、アジア連帯講座は東京・南麻布のパキスタン大使館に対し、ババ・ジャンらギルギット地方の五人の活動家(フンザ・ファイブ)、ならびに二〇一〇年七月のパキスタン第三の都市、ファイサラーバードの繊維労働者のストライキ闘争で「工場への放火」という罪状をデッチ上げられ、総計で五〇〇年(!)の投獄という超重罪判決を受けた九人の労働組合リーダー(ファイサラバード・ナイン)の即時釈放、獄中での虐待停止を求めて申し入れ行動を行った。

 われわれが午後四時、パキスタン大使館に近づくと、多くの警察官がわれわれをさえぎり、「行動は一回につき五人が慣例だ」「所持品を見せろ」などと不当な言いがかりをつけてきた。当然にもわれわれはそうした規制を拒否し、大使館の前で横断幕を広げ、事前の約束通り、代表が大使館に入って二等書記官と面談して申し入れの趣旨を伝えるとともに、パキスタン政府宛の書簡を手渡した。ナディム・バプティ二等書記官は、「日本の人からのそうした申し入れについては歓迎し、政府に伝える」と答えた。

 申し入れ終了後、パキスタン大使館前で「政治犯の即時釈放を!獄中弾圧をやめろ!パキスタンの人びとと連帯して闘おう」のコールを上げた。



二〇一〇年一月に起こったフンザ峡谷地方の地滑りで大きな被害を受けて家屋や土地を失った住民運動を支援して闘ったことにより、パキスタン労働党(LPP)のギルギット・バルチスタン地域(北部山岳地帯)のリーダーの一人ババ・ジャンら五人の活動家(LPPならびにその青年組織である進歩青年戦線のメンバー)が二〇一一年八月に治安当局によって逮捕された。

この事件は、二〇一一年八月に地滑り災害の被災者である住民たちが政府ならびに地方当局に対し、被害の正当な補償を求めて交渉のため地方行政府の建物の前に集まったことに端を達している。住民たちの抗議に対して治安当局は発砲し、二人が殺された。怒った住民たちは治安部隊と激突し、地方行政府の建物の一部を占拠した。この行動を支援したババ・ジャンらに五人に対し、治安警察は「テロリスト」だとして逮捕し、投獄したのである。

それだけではない。今年四月、ババ・ジャンらは極度に劣悪な獄中での食事(乾パン程度)などへの抗議を組織したかどで拷問を受け、外部との連絡も遮断され、生命の危険すら危ぶまれる状況に陥っていた。これに対して、パキスタン人権委員会は獄中での人権状況を憂慮する声明を出した。ババ・ジャンらに面会した弁護士によれば手の指をへし折られ、顔面に深い傷を負っており、凄惨な拷問を受けたことは一見して明らかだった。

LPPをはじめとするパキスタンの仲間たちは、連帯行動を国際的に呼びかけ、六月二〇日~二七日には各国のパキスタン大使館に向けて申し入れ、大使館前でのピケットなどが展開された。



この日の行動は、同様に二〇一〇年七月のパキスタン中部パンジャブ州ファイサラーバード(人口二六〇万人)の繊維労働者の賃上げを求めるストライキ闘争で、「工場への放火」をでっちあげられた九人の活動家(ファイサラーバード・ナイン)が「反テロ法」で実に総計で懲役四九一年という超重罪判決を受けたことへの抗議、即時釈放のための闘いとしても行われた。

今やアフガニスタンでの帝国主義による「対テロ」戦争の主戦場ともなっているパキスタンでは、ムシャラフ軍事独裁体制の崩壊後もパキスタン人民党(PPP)政権の汚職・腐敗によって政情不安定が深刻化し、首相の失職とともに、ザルダリ大統領体制の統治能力の崩壊が進行している。この中で一方では軍部による「反テロリスト」名目での労働運動、社会運動への暴力的弾圧が吹き荒れ、他方ではパキスタン・タリバン運動などの宗教的原理主義勢力による公然たる人権侵害、テロも拡大している。

そして米国の無人機による越境空爆や、昨年の米特殊部隊による首都イスラマバード近郊でのオサマ・ビンラディン暗殺作戦などによって、民衆の間での反米感情もいっそう高まっているのだ。

この日、世界では日本、オーストラリア、フランスでパキスタン大使館への行動が取り組まれるとともに六月二〇~二七日の連帯週間を中心に、インドネシア、インド、スリランカ、デンマーク、ドイツ、米国などでさまざまなキャンペーンが展開された。また六月二七日、パキスタンのラホールでは「フンザ・ファイブ」の釈放を求めるデモが繰り広げられた。

なお前日の六月二六日夜には、ババ・ジャンらの弁護士からパキスタン労働党のファルーク・タリク宛に「ババ・ジャンらの保釈許可が下りるという連絡が裁判所から来た」との電話が入った。「フンザ・ファイブ」の残りの四人に対しても、近々保釈許可が下りるという。これは国際連帯運動がもたらした成果である。しかし刑務所当局は、ババ・ジャンが「待遇改善を求めて刑務所内で暴動を組織した」として保釈を拒否している、とのことである。

なおパキスタンの「ババ・ジャン釈放キャンペーン」からは、日本での行動について「フンザ峡谷での政府開発援助に巨額の資金を出している日本、そしてフンザへの観光客が多い日本で、こうした行動が取り組まれたことの意義は大きい」という感謝のメッセージが寄せられている。(K)