P6097590講師:寺本勉さん(「日の丸・君が代」強制反対ホットライン大阪事務局員、おおさか社会フォーラム2012事務局員)


 6月9日、アジア連帯講座は、文京シビックセンターで「橋下・大阪維新の会を批判する―反撃の闘いは今―」というテーマで講師に寺本勉さん(「日の丸・君が代」強制反対ホットライン大阪事務局員、おおさか社会フォーラム2012事務局員)を招き、公開講座を行った。


「橋下改革」の性格


 寺本さんの提起は、「橋下・維新の会による『改革』」の時間系列的整理から始まり(別掲)、「『改革』の性格」についてつぎのように分析した。

 「橋下・維新の会は、第一の目標として統治システム、政策決定システムの改変をあげ、維新八策の第一項目で参議院の廃止、道州制の導入、大阪都構想を掲げている。つまり、日本における政治的、経済的、社会的危機の深さに対して、既成の大政党が政治・経済・社会的展望を喪失していることへのアンチ・テーゼとして設定した。これは戦後民主主義政治の機能不全を巧みに突きながら、『独裁』をも許容する雰囲気を作り出し、常に『抵抗勢力』を作り上げながら、大衆的人気を維持しようとするものである。かつての小泉純一郎が『自民党をぶっ壊す』と叫びながら郵政『改革』などを強行したのと酷似点もあるが、決定的違いは、既成政党の枠外から行っていることだ」。

 「政策の柱は、新自由主義的規制緩和、民営化・民間企業の導入であり、経済成長のための原資を自治体機能の縮小から得ようとする。教育分野においても同様の攻撃を行っている。同時に労働組合への徹底した攻撃は、旧総評運動の中で最後に残った自治労(大阪市労連)運動と組織への攻撃としてある。つまり従来は、選挙運動、職場協議、当局との交渉・折衝、組合費のチェックオフなどを積み上げて、当局との一定のもたれ合い構造の中で正規職員の権利を擁護しながら、一方で政治課題への取り組みを行ってきた。これは非正規職員の組織化の軽視へとつながり、組合運動の弱点となってしまった。だから橋下は組合の権利擁護運動の弱さを突く形で一挙に権利剥奪をかけ、組合運動の基盤そのものを破壊しようしている」。

 「この延長で『新たな労使間ルール(案)』を提案してきた。管理・運営事項は団交事項でないとし、組合に意見を聞いてもいけないというのである。あげくのはてに組合収支報告書を提出させ、『適正』組合でなかったら職員団体の登録を取り消すとしている。具体的には七月市議会へ向けて『組合活動適正化条例』の制定をねらっている。立て続けの組合破壊の暴挙を許してはならない。従来の運動の弱さを対象化しつつ、新たな反撃陣形を強化していくことが必要だ」と述べた。


反撃の闘いは今


 そのうえで「橋下・維新の会に対する闘いは今?」を報告。
 「私が参加している『日の丸・君が代』強制反対ホットライン大阪は、2000年に結成し、『君が代』起立・斉唱強制条例への反対闘争を契機に必然的に反橋下・維新の会の闘いへと広がっていった。昨年五月以来、10回以上の集会・デモ・府教委抗議行動などを展開した。現在、反『君が代』の闘いとして不起立被処分者六人が人事委に不服申し立てをおこない、一人が準備中である。市民運動として支援を行っている」。


 「労働組合運動は、どんな状況になっているか。可能性ある方向性として、昨年11月に大阪市長選での『反独裁』共同アピールが出発点にして大阪労連、大阪全労協、国労近畿、関西MIC、全日建連帯近畿、全港湾関西、おおさかユニオンネットワークによる七労組連絡会が作られた。6月25日に中之島中央公会堂で反橋下集会が行われる。この集会は、法律家8団体(連合大阪法曹団・大阪労働者弁護団・民主法律協会・大阪社会文化法律センター・自由法曹団大阪支部・青年法律家協会大阪支部・大阪民主法曹協会・日本労働弁護団大阪支部)の主催で初めて連合、大阪労連、全労協、独立組合などが結集する決起集会が行われる。6・25集会は、橋下の矢継ぎ早の攻撃に対して労働組合が一致団結して反撃し切れていない困難な状況に対して、弁護団のイニシアチブによって集会が実現するようになった。共同行動を強化していく必要がある。いずれにしても橋下・維新の会を包囲していく陣形作りは急務であり、強化していかなければならない」と強調した。

 「反橋下運動の展望は?」について、次のように提起した。

 「第一は、橋下的『民主主義』に対するオルタナティブの提起だ。橋下的『民主主義』は、選挙での多数が唯一の『民意』、選挙と選挙の間は白紙委任という論理だ。ところが橋下を支持する20代、30代の層が(間接的にではあれ)経験した『民主主義政治』は、機能不全に陥った政治状況だけという深刻な状況に追い込まれている。だから少なくともこの層の相当部分が、自らが作り上げる社会運動を通じて、直接民主主義、参加型民主主義の経験値を上げていくことが重要だ」。

 「例えば、おおさか社会フォーラム(9月15日、16日/エルおおさか)は、いろんな運動の枠を超えて社会運動、市民運動、NGO、労働組合が集まれるような場として設定している。この中で若者世代が中心にYouthフォーラムが行われる。新たな運動の兆候として可能性があり、応援していきたい。橋下的現象に対して従来の運動圏の違いを超えて反撃していくことがキーワードだろう」とまとめた。


論点


 参加者からの質問は、「橋下の大飯原発再稼働容認をめぐる運動圏の反応」、「『日の丸・君が代』強制の大阪の地域的違い」と「教育委員会と校長の指導対応の経過」、「当局の教員攻撃に対する生徒たちの反応」、「大阪の新保守主義勢力の動向」、「大阪都構想に対する市民の評価」、「不起立教員へのバッシングと周辺教員の立ち振舞い」、「橋下のメディア利用」、「貧困と格差を根拠にした橋下支持の雰囲気」などが出た。

 寺本さんは、「橋下の政治スタイルが支持されているところがある。メディアの中でも支持、不支持的傾向がある。毎日放送・MBSは、『VOICE』で批判的な橋下特集を組んだ。ある記者が橋下に批判的ということで視聴者から『辞めさせろ』という攻撃メールが殺到する状況がある。橋下もその記者を徹底的に攻撃した。諸選挙結果を通して『反独裁』だけでは橋下は倒せない。貧困と格差を基盤にしながら橋下現象が社会的に登場していると言わざるをえない。橋下は、『家庭教育支援条例』のように批判されると引っ込める手法がある。柔軟に対応しつつみえるが、やることはやっている。単純なブームという捉え方ではだめだ。政策論議だけではすまない。橋下・維新の会包囲を全国的に広げながら論議の積み上げを共同で行い反撃していこう」と呼びかけた。(Y)


●「橋下・維新の会による『改革』」

2008.2   橋下、大阪府知事に当選、「財政非常事態」宣言

2008.4   「財政再建プログラム」案
非常勤職員の解雇、非常勤講師の賃金削減(約18%)、職員の賃金・一時金・退職金カット、教育・文化・医療・福祉の諸事業の廃止・縮減など
 しかし、宣伝された「黒字転換」は借金を収入にカウントしていたためで、府知事時代の3年間で府債は2151億円の増加

2008.8   府庁のWTC移転方針を表明
その後、府庁移転は府議会で否決されたが、WTC購入を強行、一部部局を移転、耐震問題で全面移転は断念、今後の財政負担は巨額に上る

2008.9   「教育非常事態」宣言、学力テスト結果の公表を市町村教委に迫る
その後、府立高校への特進クラス(文理科)設置、私立高校授業料の一部無償化などを実施

2010.4   地域政党「大阪維新の会」結成、「大阪都」構想の立ち上げ

2011.4   統一地方選挙で、維新の会が躍進し、府議会で単独過半数を確保

2011.6   「君が代」起立・斉唱強制条例成立
複数回の職務命令違反で免職方針を打ち出す

2011.9   教育基本条例、職員基本条例を大阪府議会、大阪市議会、堺市議会に提出、大阪市議会、堺市議会で否決

2011.11  維新の会がダブル選挙で「圧勝」

2011.12 府市統合本部の設置、特別顧問を多数任命し、統合本部の議論に参加させる

2011.12~ 橋下市長による大阪市職員、労働組合への攻撃はじまる
組合事務所問題、政治活動・組合活動アンケート、賃金切り下げ、民営化、入れ墨調査(回答拒否者への懲戒処分の動き)、組合費チェックオフ廃止、組合活動適正化条例制定の動き

2012.2~3 知事、市長提案で、教育基本2条例、職員基本条例を大阪府議会、大阪市議会提案
卒業式での「君が代」起立・斉唱の職務命令
 不起立者36名への戒告処分、2名に再任用取り消し

2012.3   府議会で教育基本2条例、職員基本条例が可決成立、公明・自民が条例案賛成
国政選挙進出へ~「維新八策」(憲法改正を含む内容)、維新塾など、公明との連携

2012.5   大阪市議会で教育行政基本条例、職員基本条例が可決成立、学校活性化条例は継続審議へ