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薄煕来(左)と王立軍

汚職・暴力団追放と共産党精神の高揚を掲げ、格差縮小にむけた経済成長を目指すといわれる「重慶モデル」の発祥地、重慶市の副市長兼公安局長の王立軍が、その職を解任され、数日後の2月8日、「療養」を理由に成都にあるアメリカ領事館に24時間「滞在」し、その後、身柄を国家安全局に拘束されるという事件が起こった。

「重慶モデル」は、今秋に予定されている18回党大会で、最高指導部である党中央政治局常務委員会入りを取り沙汰されていた重慶市共産党委員会書記の薄煕来が、前大会直後の2007年12月に商務部大臣から重慶市に転任して以来すすめられてきた政策で、新左派とよばれる民族左派の知識人らが「格差を広げてきたアメリカモデルに対抗する中国モデルの核心的政策」として絶賛してきたものだ。

今回拘束された王立軍は、08年6月に薄煕来がかつて省長を務めた遼寧省の錦州市公安局長から重慶市公安局副局長に抜てきされ、暴力団やそれとつながっていた警察内部の責任者などに大なたを振るった「打黒」(暴力団弾圧政策)の陣頭指揮者であった。「打黒」政策は「重慶モデル」の象徴的政策のひとつで、超法規的な弾圧をふくめて広く実施された。

王立軍によって2009年8月までに1500人の暴力団構成員と50人の汚職役人が逮捕された。逮捕者には重慶市の司法局長や高等裁判所副所長もふくまれる。司法局長の文強が処刑された2010年7月、薄煕来は勝利宣言を行い、王立軍はその最大の功労者と言われた。

その王立軍が今回アメリカ領事館に逃げ込んだ。2月9日、王立軍によるとされる2月3日付の「公開状」がインターネットを駆け巡った。

「薄煕来の『唱紅打黒』(革命を称え暴力団を取り締まる)政策は、政治局常務委員になるためのパフォーマンスである。……彼は私を含む部下にありとあらゆる事をやらせた。従わない者がいればすぐに卑劣な方法で処分した。……彼こそが最大の暴力団の親玉である。薄煕来は清廉潔白で売っているが、実際にはどん欲でいやらしく、親族に荒稼ぎさせ、それ驚くべき金額に上る……。」

薄煕来は中国東北部の遼寧省の省長在任中に国有企業のリストラという国策を強力に進めた。2002年3月、遼寧省の中堅都市の遼陽市にある遼陽鉄合金工場でリストラに抗議する労働者らが複数の工場と連帯してストライキを打った。だが「国家転覆罪」でスト指導者の姚福信が7年、肖雲良が4年の懲役という弾圧を受けた。

遼陽鉄合金労働者の闘争の敗北は、その後の国有企業の民営化をさらに促進した。グローバル資本主義の大国としてのし上がった中国は、労働者階級の犠牲の上に成立したといえる。遼陽鉄合金労働者に対する弾圧の最高責任者の一人であった薄煕来が進める「重慶モデル」が、格差縮小の経済成長や調和ある社会をめざすなど、冗談にもほどがある。

【参考】 ・2002年春の中国国有企業労働者のたたかい
      ・姚福信と肖雲良を釈放せよ

「重慶モデル」の冗談のなかでも極めつけは「唱紅歌」(共産党賛歌を歌う運動)である。「唱紅歌」運動を「文化大革命の復古主義」と評する論評もあるが、この運動が中国共産党90周年の2011年7月1日にむけた全国規模での愛党・愛国運動の牽引役となったことを考えると、グローバル資本主義化にともなう社会的動揺を、党への忠誠心と愛国心の発揚によって覆い隠そうとするきわめて現代的なものだといえるだろう。


建党90周年の前日に行われた重慶での「唱紅歌」大会

このような「重慶モデル」を高く評価したり、指導部の傾向の違いに希望を見出してきた民族左派知識人たちには、民主主義と労働者階級に対する徹底した自己批判が求められる。

今後、王立軍事件を巡るさまざまな報道や憶測が流されるだろう。2月中旬には習近平国家副主席の訪米が予定されている。習近平は今秋の党大会で引退予定の胡錦濤を継いで中国共産党中央委員会総書記という8000万党員のトップに就任すると言われている。指導部交代にともなう党内闘争についての報道や噂も絶えないだろう。

階級闘争は、どの時代でも支配体制内の権力闘争や外国からの干渉と無縁ではありえない。しかしそれは支配体制内の権力闘争の一方の側につくということではあり得ないし、外国からの干渉に無批判に便乗したり瞬間的に反発するということではない。

中国における民主主義の実現と労働者の解放をめざす勢力のたたかいは長く厳しい局面にある。資本のグローバル化と中国労働者階級の苦難に満ちたたたかいが、労働者の国境を超えた闘争をつなげるだろう。(H)

「重慶モデル」の実態については、こちらの現地ルポも参考になる

・日刊べリタ:中国経済開発・ある断面:高効率農業と農的生活のはざまで
 上 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201202021153174
 中 http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201202051301010
 下 http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201202081154413