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【解説】報道・言論の自由が制限される中、中国の人々は「微博」(ウェイボー)と呼ばれる中国版のツイッターでさまざまな情報を発信している。すでに3億人を上回るユーザーがウェイボーを利用しており、政府批判なども盛んに行われている。昨年のアラブの春ではインターネットを通じた政府批判が政権打倒の一翼を担った。今秋に最高指導部の交代が予定される党大会を前に中国政府はバーチャル空間での言論にも神経を尖らせている。巨額の費用と人員を投入しインターネットへの監視を強めている。昨年末には北京、天津、上海、広州、深センの5市でウェイボーユーザーの実名登録の義務化を発表した。以下はマルクスの新聞の自由の主張を用いてこの政策を批判した空想インタビューの翻訳。原文はこちら http://www.yadian.cc/weekly/list.asp?id=109776 (H)


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マルクス、中国版ツイッターの実名登録の義務化を批判する
思寧


C&K通信社2011年12月20日(思寧 記者) 中国版ツイッターのミニブログ「微博」(ウェイボー)の実名登録を義務付ける《北京市ミニブログ発展管理に関する若干の規定》が発表され、インターネット各界では大変な話題になっています。今日はイギリス・ロンドンのハイゲート墓地でマルクス氏の亡霊に、ウェイボー実名登録義務化について伺います。


記者:マルクスさん、初めまして。C&K通信社の思寧と申します。北京の政府が2011年12月17日に発表したウェイボー実名登録の義務化についてのご意見をお伺いしたいと思います。


マルクス:ウェイボーとは何のことじゃ? わしが生きていたときには聞いたこともなかったがな。


記者:ウェイボー(微博)とはミニブログのことです。誰でもインターネットという通信手段を通じて140字以内の短い情報や自分の意見を発信することができる媒体です。あなたが活躍していた時代にもあった新聞を、いまでは誰でも手軽に出版できるようになった、といえば理解していただけるでしょうか。


マルクス:ほぉ、誰でも自分の新聞を発行できるのか。それはまことにすばらしい!報道出版の自由に関しては、当時わしは個々人の自由な発展を目標に掲げておったが、報道や出版の自由に関しては実現を果たしたということじゃな。で、そのウェイボーの実名登録の義務化とは?


記者:ウェイボーの実名登録義務化の規定によれば、政府が指定した機関に個人情報を申告して実名で登録しなければ、ウェイボーで文章を発表できない、というものです。


マルクス:ん? つまり匿名で政府批判をする文章は発表できないということかな?それではまるでわしが生きていた時代に、フランス政府が起草し、秩序党がより厳しく修正したブルジョアジーの出版法とまったく同じではないか。このブルジョア出版法では「新聞に発表する記事はすべて筆者の署名を必要とする」と規定していた。1850年、わしは『新ライン新聞 政治経済論評』に発表した論評でこのようなブルジョアジーの報道独裁イデオロギーを批判した。「新聞が匿名だった間、新聞は無数無名な世論の機関と見えた。だから、それは国家における第三の権力だった。ところが、各論説に署名がついたことで、新聞は多少とも有名な個人の寄稿の単なる寄せ集めに過ぎなくなってしまった。どの論説も広告に堕落した。それまでは、新聞は社会世論の通貨として流通していた。それが今ではかなり不確実な約束手形になってしまったのである。その信憑性と流通度は、振出人の信用だけでなく裏書人の信用にも左右されるからである。」(『フランスにおける階級闘争 1848年から1850年まで』)


記者:報道の匿名性が体現していた社会世論による監督権を主張されていたのですね。ですが北京の政府は、ウェイボーの実名登録の義務化政策はマルクス主義を防衛するためである、と言っているのです。

マルクス:ウェイボーの実名登録義務化はマルクス主義を防衛するためとな?


記者:ええそうなんです。中国の憲法ではマルクス主義を指導的な思想として規定しています。ウェイボー実名登録の義務化規定の第一条では、いかなる組織または個人であってもミニブログを違法に利用して憲法が規定する基本原則に違反する情報を製作、複製、発表、宣伝してはならないとしています。つまり、ウェイボーに流す情報は憲法で定められているマルクス主義の指導的思想に違反してはならないということなのです。


マルクス:マルクス主義に対する批判はまかりならんと? 君たちの中国共産党の毛沢東前主席はこういっているではないか。「わが国では、マルクス主義はすでに大多数の人から指導思想とみとめられているが、それなら、批判をくわえてはいけないのか、と。もちろん、批判してもよい。マルクス主義は科学的真理であり、批判をおそれない。マルクス主義が批判をおそれたり、批判によってたおされたりするようなら、マルクス主義はなんの役にも立ちはしない。」(『人民内部の矛盾を正しく処理する問題について』より) 実名登録の義務化規定の第一条からして、毛沢東思想にも一致していないではないか。(※訳注)


記者:ではマルクス主義にも一致していないと?


マルクス:わしの新聞の自由に関する観念は明確じゃよ。新聞の匿名とは、社会世論の監督権を行使する手段だということじゃ。わが友エンゲルスもこう言っておる。「なんびとも、あらかじめ政府の承認をえずに、自由に自分の意見を発表することができるという権利--すなわち出版の自由である。」(『イギリスの状態 イギリスの憲法』より) ウェイボーの実名登録の義務化は、わしやエンゲルスの新聞の自由に関する概念からも逸脱している。それは「憲法が規定する基本原則」すなわちマルクス主義に反しているのではないだろうか?


記者:なるほど、ウェイボーの実名義務化の規定は、それ自身の第一条にさえ反する禁令なのですね。


マルクス:そうじゃ。もし北京の政府がウェイボーの実名義務化の政策がマルクス主義だというのなら、わしは彼らにこういうしかないの。「私が知っているのは、ただ、私は決してマルクス主義者ではないということだ。」(「エンゲルスからコンラート・シュミットへの手紙 1890年8月5日」より)


※訳注:毛沢東はこのように述べて中国共産党への批判を奨励する「百花斉放百家争鳴」を始めたが、批判が余りに大きかったことからすぐに批判を封じる「反右派闘争」という名の粛清を展開することになる。