インターナショナル・ビューポイント オンラインマガジン : IV439 - August 2011
イギリスの新自由主義は、自ら播いた種を刈り取っている
http://www.internationalviewpoint.org/spip.php?article2238
テリー・コンウェイ、ビリー・カーチス
デービッド・キャメロンの保守党が主導する英国の連合政権の最初の一年は、緊縮政策、不平等の拡大、幾百万人もの人びとの急速な貧困化、メディア、警察、政治家たちの腐敗、公共サービスの破壊を特徴としている。その第二年目は大規模な産業労働者の行動、英国の諸都市の最も貧しい部分における、失うものをほとんど持たない人びとによる国家との公然たる激突を特徴とすることになる。8月初旬にイギリス全土で起きた暴動の持つ重大な意味がそこにある。
直接の原因は警察による二つの行為にあった。第一のものは、8月5日に起こった武装警察官によるマーク・ダガンの殺害と、その後の彼の家族への対応であった。警察は家族を訪問してマークの死を知らせることさえ怠ったのである。
8月7日には、地域の警察署の外で正当な怒りに満ちたデモが行われた。警察は外に出て説明することすら拒否した。暴動を爆発させたのはこうした警察のやり方であり、その後の報道ではこうした事実は実質的に省かれてしまっている。この目撃証言がはっきりする中で、警察は16歳の少女を警棒で殴った。このビデオクリップは警察の行為の暴力性をはっきり表現するものである。こうした警察の攻撃が、地域社会の怒りの激発を引き起こすのは実質的に不可避だった。
英国の他の地域からの報告も同様の事態が起こったことを物語っている。それぞれに違いはあってもテーマは共通している。たとえばロンドン東部のハックニーとウエストミッドランズのバーミンガムのように。
一日中どんな時でも、若者たちが街頭にいるだけで止められて身体捜索を受けるという悪名高い権力行使が拡大している、と報告されている。それは黒人社会では深い憎悪の対象となっている。とりわけ全般的にターゲットになっている黒人の若者にとってそうだ。黒人は白人に比べて26倍もの頻度で停止を命じられ、身体捜索を受けている。
いつもと違い、警察苦情処理独立委員会はマーク・ダガン事件について速やかな動きを見せた。独立委員会は、当初の弾道調査リポートによれば彼は警察官に発砲しなかったとする報告を8月9日に行い、警察は自衛のために行動したというメディアで広がっている噂をウソだと述べた。しかしこの事件に関して正義が実行されるだろうということに、誰も確信を持っていない。警察の手にかかった死亡事件については長い歴史があるが、一人の警官も起訴されたことがないのだ。
警察への信頼の欠如が黒人コミュニティーの中でとりわけ強い――それには当然の物質的理由がある――中で、ここ数年の出来事が不穏な空気をさらに激化させてきた。2009年4月1日、ロンドンのG20抗議行動において、警察が新聞売り子のイアン・トムリンソンを殺した事件、昨年の学生デモで障がい者の学生活動家ジョディー・マッキンタイヤーが警棒で乱打された事件は、長きにわたって黒人コミュニティーに対して実行されてきたものの気付かれることのなかった警察の暴力のイメージを、多くの家庭にも知らせることになった。
新自由主義の臆病者たちは、ねぐらに戻っている。マーク・ダガンが住んでいた地域であるハリンゲイでは、地区自治体当局の4100万ポンド(6700万米ドル)の支出カットは、地区の青年たちへの支援を荒廃させた。こうしたことは都心の低所得者地域のほとんどで共通のパターンである。若者への支援対策費はキャメロンの緊縮戦略で最初に打撃を受ける部門の一つである。同時に政府が、63万人の若者たちに一六歳以後も中等教育あるいはそれ以上の教育を受ける経済的可能性を与える教育手当を廃止したこと、そして大学生の授業料を三倍化したことは、不満、怒り、そして誰も若者世代に起きていることに配慮していないという感覚を増大させた。こうしたことは、ここ数日間にわたって爆発した圧力釜を作り出した諸要因の一部にすぎない。
先月、トットナム(訳注:マーク・ダガン射殺事件が起きたロンドン北部の地区)選出の国会議員デービッド・ラミーは彼の選挙区で失業率が10%上がっている状況に対処する行動を政府に要求した。ここでは現在1万514人が職を探している。地域の住民はインタビューに答えて、20代後半の数千人もの人々が職を見つけられていないと語った。したがってデザイナーブランドもののスポーツウエアや携帯電話、高級なTVやMP3プレーヤーを売る店が、そうした商品を買うだけのカネを稼げないことを知っている人々によって略奪を受けたのは驚きではない。
資本家は二つのことをいっしょにできない。彼らは一方でステータスや達成感を得るためにはそうした商品が必要だと語り、他方では、彼らが提供する職のほとんどは人々が生き延びるためだけの飢餓賃金しか払わない短期契約なのである。
対照的に大金持ちは、その境遇にそれほどよい思い出を持っているわけではない。8月8日、高額所得者委員会は、フィナンシャルタイムズが発表する100銘柄株価指数に入っている企業の経営者たちの受け取る年間平均年金が約17万5000ポンド(28万5000米ドル)だと報告した。英国の平均年金はわずか5680ポンド(9550米ドル)であり、政府は勤労民衆をさらに貧しくすることを望んでいる。同時に彼らは年間15万ポンド(24万5000米ドル)以上の所得に課される50%の最高税率を支払う30万人の人びとに巨額のカネを引き渡そうと必死になっているのだ。ロンドン市長のボリス・ジョンソンは、そうした高率課税の廃止を呼びかけ、彼の大金持ちの親友であるジョージ・オズボーン蔵相はこの税制をやめてしまいたいと述べた。
多くの人々が彼らこそ本当の略奪者であり、本物の犯罪者だと強調しているのは不思議なことではない。昨日の「ガーディアン」紙に掲載された一通の手紙は述べている。「暴徒たちは銀行家がこの国でやっていることを路上でやっているだけだ。銀行家と違い、暴徒たちが罰せられることは疑いないだろう」。
労働党左派の国会議員ジョン・マクドネルは同じ紙面で書いている。「われわれは、あらゆる手段を通じてできるだけひったくるという倫理によって、グロテスクなまでに不平等な社会を作り出してきたこの30年間に播いた種を刈り取っているのだ。略奪者の社会は、国会議員とその経費、銀行家とそのボーナス、課税逃れの企業、嫌がらせを常とするジャーナリスト、わいろを受け取る警官、そして今や疎外された少年グループたちがチャンスをつかみ取っている状態を作り出したのだ……」。
こうしたことは、JDスポーツから100ポンドのトレーナーを奪い取った十代の少年たちの心には浮かんでこなかったかもしれない。彼らが知っていることは、富と特権を持ち、その権力を幾百万人もの人びとを貧しいままにさせておくために使っている連中が向こうにいるということだ。暴動は破壊的な怒りと言葉にならない抗議の発作的表現だが、声を奪われた人びとが自らの主張を聞かせる方法の一つである。
われわれは、マーク・ダガンの死以来、街頭で起きた出来事を、市民的自由をさらに押しつぶし、抗議の権利を攻撃するために利用しようとする試みに抵抗しなければならない。イギリス本土の街頭で以前よりもさらに広範に、警官に対してゴム弾が支給されている。われわれは、北アイルランドでその使用がいかに殺人的なものになり得たかを知っている。放水銃はここでは使用されたことはなかった。軍隊への導入は依然として論議中だが、通告後二四時間でいまや警察はそれを使用することができるようになる。
「抵抗の連合」、そしてとりわけ「支出削減に反対する黒人活動家(BARAC)」などの支出削減に反対する組織が、自らの声を人々に伝え、この騒動の真の原因や、黒人コミュニティーに未来を与え、若者たちに新しい希望を与えるために実行することが必要な政策を語ることはきわめて積極的な意味を持つ。来るべき数カ月のうちに、労働組合やラディカル左派は彼らの主張を伝え、保守党―自民党連合政権の攻撃に対する巻き返しを開始しなければならない。
▼テリー・コンウェイは「インターナショナルビューポイント」の編集部員で「ソーシャリスト・レジスタンス」(第四インターナショナル・イギリス支部)の指導部。ビリー・カーチスはイギリスにおける「ソーシャリスト・レジスタンス」の支持者。
(「インターナショナルビューポイント」2011年8月号)
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