8月4日、横浜市教委はつくる会系の育鵬社版中学歴史・公民教科書の採択を強行した。これにより8万人以上が使用する区域での、つくる会系教科書の採択が実現したことになる。恥ずべきことであり、自治体から独立した機関という名のもとに非民主的手続きを強行した横浜市教委を糾弾する。

 育鵬社は扶桑社の後継出版社として、「新しい教科書をつくる会」から分裂して出来た「教科書を改善する会」が執筆しており、育鵬社版の内容も自由社版と変わり映えはしない。自由社版が育鵬社版に変更になった経緯についても、2009年に自由社版しか「改正教育基本法」を踏まえていなかったなどという説明を委員長・今田はしているが、育鵬社版の準備がその時点で間に合わなかったということにすぎない。

 そして自由社版が東京書籍版教科書の図画年表盗用を指摘されて訂正申請をせざる得なくなったのが、8月に入ってからであることも、育鵬社版の採択をスムーズにする印象付けに一役かったものの、育鵬社版も大阪書籍版からの盗用疑惑が取り沙汰されている。いずれにしろ、従来の歴史教科書を「自虐史観」として批判した勢力が、2009年10月に神奈川県教委の採決で横浜市一括採択区化を実現させた後、戦略的につくる会系教科書の浸透を進めたということは確かである。4日の市教委定例会は4対2の採決で育鵬社版の決定をしたが、賛成した4人は無責任に市長職を放棄した中田宏が任命した教育委員だった。彼らは盗用までおこなう教科書を実際に1年以上使用させていた責任に言及するつもりはないだろう。前からわかっていることだが、このような人々にしたり顔で教育のことを語らせてはならない。

 横浜市では2009年にもう一方のつくる会系教科書である自由社版を18句中8区で無記名採択し今田委員長と自由社版の執筆者藤岡信勝の裏取引、突如宣言された無記名投票の実施、教科書自体の明らかな誤植の多さと史実の間違いの多さ、審議会の無視などが大きな批判を浴びており、現場の教員からまともに使用する気になれないという意見表明が相次いでいたところである。

 今回の暴挙に対し、「教科書採択連絡会」のメンバーを含め、650人が教育文化センター内の別会場で様子を傍聴し、報告集会もおこなわれた。「教科書採択連絡会」では、つくる会系教科書の採択をしないようにという趣旨で、11万人分の署名を提出したところであったが、これらの民意と、育鵬社版がもっとも望ましいという報告をしなかった現場教員の意思を、ことごとく踏みにじり出来レースのような採択を許してしまったのだ。

 つくる会系教科書の攻勢は神奈川県では、今回特に顕著であった。7月28日に藤沢市の歴史・公民教科書、8月2日に平塚中等教育学校の歴史教科書、相模原でそれぞれ育鵬社の採択が決まってしまった。藤沢市は2008年に松下政経塾出身の海老根市長が就任後、同じ政経塾の委員などつくる会系史観の委員を任命し、この日は3対1、保留1で育鵬社版の採択を可決したのである。ここでも記述の「バランス」、「わかりやすさ」などという言葉で「誇るべき日本」というイデオロギーを包んで教育委員会の体裁を保っているのである。

 松下政経塾出身者に象徴される首長の露骨な教育委員任命を放置すれば、今回のような突出を各地で増やし続けるだろう。そのなかで、草の根を装った請願行動が行政、議会に広範な圧力をかけ続けるだろう。今回、栃木県下野市、京都府京都市,千葉県各地などでは自由社版,育鵬社版の採択を阻止しているが、育鵬社版の採択は東京都・大田区、武蔵村山市で8例目を数えてしまい、採択を後に控えている区域もまだある。

 相変わらず審議会答申無視や横浜市での調査員非公開に見られる教科書採択の非民主主義、歴史教科書の歪曲を実証し、つくる会教科書に賛成する教育委員の罷免、つくる会系教科書の使用中止を求めていこう。

(海)