86hiroshima 原爆投下から六六年目の八月六日、広島では今年三月一一日の東日本大震災と未曾有の福島原発災害の経験とを改めて重ね合わせながら、「ヒロシマ・ナガサキ」の経験を核兵器の廃絶と一切の「核エネルギー利用」との決別、すなわち「脱原発」の世界を実現していくための一連の行動が取り組まれた。

 反核兵器と反原発、そして軍都広島の歴史を問い直す反戦・反侵略の闘いを結びつけて一九七七年以来取り組まれてきた闘いの歩みを継承する「8・6ヒロシマ平和へのつどい2011」は、「ヒロシマ・ナガサキからフクシマまで 原発も核兵器もない世界へ!」をテーマに八月五日夜、広島市市民交流プラザで開催された。二二〇人が結集し、会場を満杯にした集会では、長崎、岩国、玄海原発現地、福島からの報告、服部良一社民党衆院議員の特別報告、田中利幸実行委員会代表の「二〇一五年核被害者世界大会」の提唱を含めて充実した内容が盛り込まれた。福島からはいわき市議で脱原発福島ネットワーク世話人の佐藤和良さんが、被ばく者を現に大量に生み出しつつある福島の現状が怒りと悲しみを込めて訴えられた(詳報は追って)。

 集会後、会場を県民文化センターに移して行われた全国交流会では北海道、福島、関東・首都圏、東海、関西、九州、沖縄から参加した仲間たちが運動の報告、問題提起など活発な論議が繰り広げられた。とりわけ山口県上関原発に反対してカヤック隊の海上行動や座り込み・ハンストを繰り広げた若い人たちの発言には大きな共感が寄せられた。
 
 八月六日には例年のように早朝から平和記念公園で「市民による平和宣言2011」やこの日の朝日新聞に掲載された「第九条の会ヒロシマ」の全面意見広告などが、原爆死没者慰霊式・平和祈念式に参加した人びとに配布された。午前七時四五分からは原爆ドーム前で「グラウンド・ゼロ(爆心地)のつどい」が開催され、原爆が投下された八時一五分からは約五分間にわたってダイインも行われた。

 八時半からは主催団体を「原発・核兵器なしで暮らしたい人びと」に移して「原爆ドーム前のつどい」を開催、九時からは「NO MOREヒバクシャみんなでウォーク~原発も核兵器もない世界へ~」と銘打った市内デモ行進。この「ウォーク」には例年を数倍する一五〇〇人が参加した。途中、中国電力本社前では上関原発に反対して座り込む仲間たちとエールの交換を行った。

 「ウォーク」解散地となった平和公園噴水前では「NO MORE ヒバクシャのつどい」を猛暑の中で行った。ここでは福岡で玄海原発に反対する行動に取り組んでいる「ニワカ隊」の若者のパフォーマンス、沖縄のKEN子さんの歌、いわき市議の佐藤和良さん、名古屋の仲間、関西共同行動、そして「ノー・ニュークス・アジアフォーラム」を代表してインドのウダヤ・クマールさん、そして国民投票で脱原発の道を確固たるものにしたイタリアの活動家も発言した。いわきの佐藤さんは「福島では原発が原爆になってしまった。爆発して今も放射能を撒き散らし続けている。原発はエネルギー問題なのではない。『カネか命か』の問題なのだ」と訴えた。

 さらに午後一時半からは再び市民民交流プラザで、核兵器廃絶をめざすヒロシマの会、ウラン兵器禁止を求める国際連合(ICBUW)、原発・核兵器なしで暮らしたい人びと、ECRR市民研究会・広島の共催で「8・6ヒロシマ集会 “内部ヒバク”から問い直す核/原子力体制――ヒロシマ・イラク・フクシマ――」が行われた(詳報は追って)。

 こうして今年の八・五~八・六ヒロシマの一連の行動は、強い切実さを持って、福島原発惨事のただ中でヒロシマ・ナガサキの原爆被害をとらえ返し、「原子力平和利用」=「原発推進」を容認することになってしまった運動の経験を真に克服しようという意思を確認していくものとなった。
 
 ところが八・六「平和式典」での松井広島市長の平和宣言はどうだったか。松井市長は福島原発事故にふれながら「『核と人類は共存できない』との思いから脱原発を主張する人々、あるいは、原子力管理の一層の厳格化とともに、再生可能エネルギーの活用を訴える人々がいます」と並列的に語り、「日本政府は、このような現状を真摯に受け止め、国民の理解と信頼を得られるように早急にエネルギー政策を見直し、具体的な対応策を講じていくべきです」というにとどまっている。ここでは、国策として進められた原発開発戦略がいかにウソと脅しとだましによるものであったかの指摘や批判は一言もない。

 菅首相のあいさつは、「原子力については、これまでの『安全神話』を深く反省し、事故原因の徹底的な検証と安全性確保のための抜本対策を講じるとともに、原発への依存度を引き下げ『原発に依存しない社会』を目指していきます」としている。ここでは「脱原発」とは明言していないものの、「脱原発依存」という表現で一定の政策転換を図ろうとする意向を示している。

 しかし菅内閣は八月五日に、自民党の小野寺五典衆院議員の質問主意書への答弁書として「諸外国が我が国の原子力技術を活用したいと希望する場合には、世界最高水準の安全性を有するものを提供していくべきだ」との内容を閣議決定している。「原発輸出」へのゴーサインである。一方で「脱原発依存」を語りつつ、他方では財界の強い圧力に沿って「原発輸出」を進めるとするこの立場は、菅首相の言う「脱原発」が一貫性も整合性も持たないまやかしに満ちたものであることを示している。

 始まった「脱原発」への流れを確固たるものにするためにこそ、福島そして広島・長崎、全世界の被ばく者の悲しみと思いを共有しようとする労働者・市民のたたかいによって、核兵器と原発にしがみつく支配者の意図を打ち砕いていかなければならない。(八月七日、K)