m 5月23日、東京・霞が関の文部科学省前に、福島から大型バス二台でかけつけた100人近い親子を先頭に、「子ども20ミリシーベルトを撤回せよ! 福島の子どもたちを守れ!」文科省包囲・要請行動が、支援の人びとを含め650人以上の参加で行われた。

 さる4月19日、文科省は原子力安全委員会の承認を得て、各学校での屋外活動を行う基準として放射線量年間20ミリシーベルト(毎時3.8マイクロシーベルト)の暫定基準を通知した。この「暫定基準」について文科省は「できるだけ放射線を受けないようにするため」と言い訳している。しかし、多くの専門家も指摘するように「年間20ミリシーベルト」とは被曝量としてきわめて高い数値であり、とりわけ子どもたちの健康・生命にとっては極めて危険なものである。そして現に福島県の教育現場では、「基準以下」を理由にして屋外活動、運動会などが実施されており、子どもたちの被曝量を高めている。

この「20ミリシーベルト」問題については、『かけはし』紙5月16日号でふれたように、小佐古敏荘・東大大学院教授が「とんでもなく高い数値であり、それを容認したら私の学者生命は終わりだ。自分の子どもをそんな目に遭わせるのは絶対に嫌だ」と述べて、内閣官房参与を辞任したほどのとんでもない基準である。小佐古はかつて石橋克彦・神戸大名誉教授が「原発震災」の危険性を訴えたことに対して「国内の原発は防護対策がなされているので、多量な放射能の外部放出は全く起こり得ない」と一蹴した経歴を持つ原発推進派である(『世界』2011年5月号、石橋論文参照)。その彼をして辞任させるほどの「20ミリシーベルト」基準の強制に対して、福島の親たちは撤回を求めて高木文科相など政務三役(大臣・副大臣・政務官)との面会を求めてきた。しかしこの面会の求めに対して菅政権・文科省は「対応しない」という拒否の姿勢に終始したのである。
 
午後一時、福島からの代表団の到着を待って文科省を650人以上の参加者は文科省を取り巻く「人間の鎖」を成功させた。参加者たちは一人ひとりマイクを手にして「20ミリシーベルト基準即時撤回」を訴えた。「3.11」まで原子炉メーカーの開発部門で働いていたという技術者の男性も、「退職して子どもを守る活動に加わっている」と語った。
 
f続いて文科省入口のテラスで雨にうたれながら福島現地の親たちや支援の人びと350人以上が取り巻いて、文科省の渡辺格(いたる)科学技術・学術政策局次長と交渉。この交渉には福島みずほ社民党党首、民主党の川内博史、森ゆうこ両衆院議員も加わった。交渉は予定を大きくオーバーして二時間にわたり、親たちの怒りの声が渦巻く「大衆団交」をほうふつさせるものになった。

この交渉の中で、ついに渡辺次長は「①20ミリシーベルトまでは安全だとする基準の撤回をめざす②年間1ミリシーベルト以下をめざすことを文科省通知として出す③現地の放射線量について、あらゆる低減措置を取るとともに、自治体が先行して行っている除染をふくむあらゆる低減措置について、国の予算で行う」との三項目を「政務三役に伝える」と回答させた。しかし渡辺次長はついにその期限については言及しなかった。

菅政権、文科省の言い逃れを許さず、「20ミリシーベルト基準」を撤回させよう。(K) 
 

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要請文

文部科学大臣 高木義明様



子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク 代表 中手聖一

〒960-8141 福島市渡利字七社宮37-1 中手方



福島の子どもたちの被ばく最小化のための行動を直ちに執るよう要請します



 私たちは、自分たちの子どもを放射能から守りたい。ただただその一心で集まった福島の親たちをはじめとする市民団体です。私たちの苦悩と悲しみがどれほどのものか。大臣はお分かりでしょうか。



 貴省が4月19日に通知した「3・8μSv/h=年間20ミリシーベルト」の基準は、いわゆる安全基準として一人歩きし、私たちの愛しい子どもたちは、部活や体育などで、校庭へグランドへと駆り出されています。校庭には毎時数十~数百マイクロシーベルトという、恐ろしいほどの放射線を放つ場所が、何の管理もされずに放置されています。校舎内の放射能汚染は日に日に進み、子どもたちは毎日毎日被ばくさせられています。



 全国全世界から福島に集まっている関係者は、みな線量計で被ばくを管理しながら働き、その傍らで子どもたちは無防備のまま生活しています。このような異常な状態を作りだしたのは、大臣、貴省が出した“子ども20ミリシーベルト基準”によるのです。



 私たちの我慢ももう限界です。のんびりとモニタリングをしているときではありません。

 高木大臣、以下の被ばく低減策を直ちに行うことを決断してください。



一、 今すぐ、“子ども20ミリシーベルト基準”通知を撤回し、あらゆる被ばく低減策を、国が行ってください。

二、 そのために、授業停止やいわゆる学童疎開・避難が必要なところは、躊躇なく行ってください。また、自主的に避難や疎開を行う者への経済支援を行ってください。

三、 校庭削土をはじめとする除染作業、高放射線区域の隔離等を急いで行ってください。その際に集められた放射能は、国と東京電力が引き取ってください。

四、 マスク・手洗い等の励行はもちろん、給食食材の配慮など内部被ばく防護策を徹底してください。

五、 これらにかかった費用は、国が責任を持って負担し、東京電力に請求してください。