でTICADを考える六・一国際シンポジウム実行委員会」は、「誰のためのTICADか?」と題して、集会とデモに取り組んだ。
今回ゲストで来日したチャイナ・ングワネさんは南アフリカの社会活動家であり、大学の奨学金プログラムのコーディネーターとして、排外主義、貧困を課題に掲げて行動している。精力的な地域コミュニティー作りをする原動力は、チャイナさんが出身国であるジンバブエから移住せざるをえなかった事情とも結びついている。
チャイナさんはこの集会の前後数日間の滞在中に、横浜寿町を訪れ、2日の反原発集会、モザンビーク・プロサヴァンナ計画に反対する集会などにも参加し、各所で討論を重ねた。
この日もシンポジストの1人としてTICADについてグローバル企業が覇権を持っていること、透明性の欠如を指摘した。また、スライドを用いて、たとえばドルの奴隷を表すロゴ・ジャミングなどを紹介し、具体的には、スラム地域での要請行動の中でタイヤを燃やしながらの路上封鎖などによってコミュニティーの意志を伝えている様子、中国からの不法武器輸出船の入港に反対する行動の様子を紹介した。
ジンバブエにおける政府軍兵士のダイヤモンド鉱山略奪とアジアへの輸出、などを経験したことにより、外国企業による開発が人命の犠牲をともなうものだとチャイナさんは確信している。TICADも環境破壊を持ち込むものでしかなく、かつての植民地帝国主義諸国同様TICADもまたアフリカでの殺人行為を進めていると語るチャイナさんは、快活ながら揺らぐことのない信念に支えられているのだと感じた。
「多文化共生」の裏にあるもの
チャイナさんと並ぶシンポジストとして登場した近藤昇さん(寿日雇い労働者組合)は、簡易宿泊所が集まる横浜・寿町は外国人労働者の町でもあるとし、南アフリカの格差とつながる状況もあるという。山下公園の襲撃後も横浜市教育委員会は人権教育として「(情操教育のため)犬を飼う」という方針しか出せなかったこと、景気の動向に関わらず、毎週金曜日の炊き出しをやめることができない現状、TICADのような国際会議との関連で言えば、APEC開催時に大規模な追い出しが頻発し、それに加担しようとした行政担当者との交渉を通じて勝ち取った成果についても報告した。
稲葉奈々子さん(NO―VOX「持たざる者」の国際連帯行動)はアフリカから日本に渡る人の多くが、日本での最底辺労働に従事し、多くは難民申請をしては却下されている現状を報告した。「多文化共生」という言葉と裏腹に、消費文化とグローバルな企業展開の中でアフリカからの移住労働者が果たしている役割を考えたいということが提起する一点目であった。
そして、バングラデシュ出身の活動家と知り合ったときの例をひきながら、欧米NGOの貧困支援活動の中から、微妙だが、先進国の基準をそのまま当てはめている側面があるのではないかという、二点目の提起をおこなった。
ソマリアの海賊とされた人々
提起を受けて、質疑が続いた。なぜ横浜でTICADが開催され、営利のための企業進出に肯定的な報道が多いのかという質問、排外主義に対する労働組合の闘い方はどうかという質問があり、アフリカから移住して難民申請に取り組む人についての発言もあった。
また、横浜でTICADを考える会の小倉利丸さんは、TICAD外交の問題点としてアフリカ諸国の成長率の高さにのみ着眼している点などをあげ、歴史的な格差の放置を棚に上げて、アフリカ人民が等しく文明化を成し遂げるかのような幻想が矛盾に満ちていることを強調した。ついで、日本政府の矛盾のひとつとして、ソマリアで海賊行為を働いたとして捕まり、日本で拘留されている青年たちについて、ソマリ語通訳の確保など刑事手続き上の基本的な権利も担保されていない現状を小倉さんは訴え、支援継続の決意を表明した。
チャイナさんは、労働組合についてはワークショップを開き、「仕事がないのは外国人のせいではない。政府の腐敗のせいだ」ということを説明し続けるという。厳しい環境の中で培われた明快なメッセージは、グローバル企業の横暴と、排外主義の暴力に対抗する運動体にとっても寄与するところが大きいはずだ。
ズールー語でデモのコール
デモは会場である横浜市従会館を出発し、桜木町駅、赤レンガ倉庫横を経由して象の鼻パークで解散した。参加者は50人あまりだったが、「トーイ、トーイ」「ハイ」というかけあい、「パワーは、私たちのもの」、「うそをついているのは、あいつら」など、チャイナさんの指導でズールー語のコールを織り交ぜて街頭に呼びかけることができた。神奈川県警本部の裏手ではこの間の不当な弾圧にも精一杯抗議をおこない、楽しくデモを完遂した。
TICAD V開催期間中、天皇なども呼びながら第2回野口英世賞授与式が行われ、安倍首相は「横浜宣言」を発表して閉幕した。「横浜宣言」は農業従事者は主人公、女性の権利向上等もうたい、アフリカの「オーナーシップ」,日本の「パートナーシップ」をうたってきている点は従来どおりだ。しかし小農の権利、都市での失業にふれず成長と開発をうたうことは欺まん以外の何ものでもない。そして、自衛隊派兵などで企業進出の安全を確保するという思考は、アフリカ人民による平和構築を妨げるものでしかないということは、継続して発信しなければならない。 (海田)